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ズルい女

新章突入前の閑話、最終話です。

「あーあ、結局メアリナは俺のモノにならない運命なのかもしれねえな」


 俺はあの後、腕を嬢ちゃんに治してもらってから一晩泊り、朝食までご馳走になってしまっていた。


 メアリナが用意してくれた料理はどれも美味しくて、今思い出しても幸せな気持ちに浸ることが出来る……が。

 

 ゆうべ悲鳴のようなものが聞こえた気がして、すぐに駆け付けたときのことだけは……絶対に思い出したくない。



 七年前、あいつがメアリナと結婚すると聞いた時は死にたくなった。


 でも、あいつは子供も作らないままメアリナを残して、俺より先に死んでしまった。


 もったいないことしやがる。


 だから「教会」に手を出すのはやめとけって言ったんだ。


 それなのに「病気で苦しむ人をなぜ助けない!」と、いつも教会のやり方に反感を抱いていた。


 そもそも、教会が回復魔法を使える、人々を救う力を持っている、という「前提」こそが、教会の思惑通りだと何故気づかなかったんだ。


 俺がそんなあいつの現状に気付いた時には既になにもかもが手遅れ。


「あなたが教会で働いた分だけ救える人が増える」とかいうバカげた妄言を真に受けて、無茶な依頼で既に命を落とした後だった。


 急いで駆け付けた俺を迎えるものは誰一人いなかったな。



 もう三十も過ぎたというのに未だに他の男を寄せ付けないメアリナ。


 その才能を自分たちのモノにしたい連中に、早く子供を作るように責め立てられた結果、あの屋敷でひっそりと暮らすようになってしまったメアリナ。


 何かあったら何とかしてやると「軽口」を叩いていたくせに、幸せそうな二人を見るのがつらくてあいつの置かれている状況をちゃんと把握しなかった俺のことを今でも軽蔑しているメアリナ。


 だが俺は、それでもいいと思ったんだ。


 たとえ俺自身が一生独身になろうとも、これからもっと嫌われようとも、メアリナが安らかに暮らせるならそれでいい。


 もしあいつが男を欲する時がくれば、俺が誰よりも相応しい男になればいい、そう思っていた――


「なのに、あれは反則だろう!」


 まさか、俺たちが「理想」とした完全な形での回復魔法を使えるうえに、「女」ときたもんだ。


 相手が女ならあいつに操を立てられるじゃねえか……悪夢かよ。


 しかも、あいつの遺体を教会から引きとる為に相当な無茶をしてくれた「オルゴノット」家のお気に入り。


 おまけに「ついてる」だなんて、マジでふざけんな!


 昨日メアリナに殴られたとこもまだ痛えし、うんざりだ!!


 まあ、あの嬢ちゃんには俺の腕はともかく、うちのお嬢様を助けてもらった借りがある。


 何かあってもメアリナを守るついでくらいには助けてやるよ。


 ただし、その回復魔法を悪用することがあれば……覚悟しろよ。


 ……


 なんてな。


 そもそもあれは魔法じゃなくて「スキル」だった。


 ひとの想いに応え、女神がもたらした奇跡。


 万が一にも悪用するような奴には、人を癒す力なんて最初から使えやしない。


 わかってる。


 わかってはいる、が……悔しくてたまらない。


 俺たちが目指した理想の到達点、癒しの超越者。


 スキルランクAの回復スキルなんて歴史上初めてに違いない。


 しかも「ダブルスキル」持ち。


 俺なんてこの年でまだ未経験なのに、きっとあの嬢ちゃんはこれから毎日……


 やめよう。


 これ以上考えたらマジで死にたくなる。


 あの嬢ちゃんがメアリナを泣かせるようなことでもしない限り、あの嬢ちゃんも、メアリナも、その周りの人も、全員まとめて俺が死んでも守る。


 俺が死ぬのはその時だ。


 死にたくなったから死ぬだなんてそんな贅沢、俺にはもったいない。




 ――


「本当にバカな人ですね」


 ようやく帰ったバスティの後姿を見つめながら、窓ガラスの拭き掃除を始める。


 いつまでも私なんかのこと想ってないで、さっさと結婚でも不倫でも好きなようにすればいいのに。


 今でも彼は勝手に罪悪感を感じていて、私はそれについ甘えてしまっている。


 本当は誰もあなたのせいだなんて思ってないのに。


 私たちがあなたの強さに甘えていただけ。


 あなただって私たちと同じただの人間なのに、私たちはそれをちゃんと理解しようとしなかった。


 あなたがいつも皆を助けてくれたから。


 あの覗きだって、本当は私を狙っていた男を捕まえに来ただけだったのでしょう?


 あなたは気づいてないかもしれないけど、あの時「わざと」あなたによく見える位置にいたの。


 ちょっとしたお礼と、ちょっとしたイジワル。


 あの人はそのことに気づいていたからこそ、あなたをボコボコにしてしまった。


「あの人はずっとあなたに嫉妬してたの」


 あの人が私の前に現れるずっと前から、あなたが「あの人以上」の愛情を私に注いでくれたから。


 だから、あの人は無茶をしたし、それをあなたに悟られないように隠そうとした。


 夢が叶ったら子供を作ろうだなんて、くだらない男の見栄を張りながら。


 本当にくだらない人間なの、あの人も私も。



 性に目覚めたら、すぐに私なんて忘れて手近な女の元へ行くと思ってた。


 私が結婚すれば、すぐに私なんて忘れて手近な女の元へ行くと思ってた。


 理不尽な憎しみをぶつけたら、きっと私のことなんて……


 でも、あなたの愛情はいつ迄たっても変わらない。


 今まであなたを縛り付けてごめんなさい。


 あなたの気持ちをもてあそんだ私はもう、あなたに相応しい女性にはなれない。


 一度くらいなら身体を好きにさせてあげようかとも思ったけど、あなたが求めたのは私の心。


 胸くらいなら好きにしてよかったのに「デート」だなんて……いつまでたっても子供みたい。


 きっとあなたは一生その想いのまま生き続けるつもりなんでしょう?


 でも……それでも私は、あなたのモノになってあげることはできない。


 私の運命の男性はあの人だけだから。


 だけどね――



「きっと、あなたの運命の女性はもうすぐ現れる。

 だから……もう少しだけ待っていてくれる?」





 ――


 へっくしゅん!!


 おいおい、この色男を誰か噂してんのかぁ?


 はっ、なわけないか。


 しかし、あの嬢ちゃんにメアリナを任せるのはいいとして……これからずっと「未経験」のままはきついよなぁ。


「え、あの子三十歳も年上の人とお付き合いしてるの!?」


「しっ、声が大きいってば!」


 い、今の話……マジ?

 

 まったく世の中、不公平にも程ってもんが……まてよ?


 あいつらが付き合えばそのうち子供が生まれるよな?


 女同士なんだし、生まれるのはたぶん娘……のはず。


 大きくなるまで十年、いや、もう少しかかるか。


 …………


 それまでになんとかメアリナに許してもらえるだけの男になれば、もしかすると……


 俺だって前髪を垂らせば若い娘にも十分通用する……と思う。


 となれば……


「帰りに男用の化粧品と目薬でも買ってくか」





 ――


 お、お義母さんって呼んだほうが良いか?


 わ、笑うことないだろ!


 メアリーユまで……まいったな。


 ……俺はもう二度と約束をたがえないとここに誓う。


 今度こそお前を……お前たちを幸せにする。


 仕事だってもっともっと……え、俺クビになったの?


 一応俺より偉いやつなんて、もう国王くらいしかいないんだけど……


 新しい仕事って……あ、そうか。


 ていうことはその……


 くそっ、こんなことならどっかで経験しておくんだった……わっ!


 い、いや浮気なんてするわけないって!?


 えっと、その……なんだ……、ふ、不束者ですがよろしく頼む……



次回から新章突入です。

感想などを頂けると、とっても嬉しいですよ。

いつも読んでくれてありがとうございます!

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