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おかえりなさい

 彼に魔物の群れの前に放り出される少し前――


 これが最後だと思ったからなのか、やっと彼の身に何があったのか教えてくれた。


 全ては彼の生まれ持ったスキルが「強奪」だとわかった時から始まったのだという。





 ――


 ある日、自分のスキルの力を知った彼のもとに貴族が訪ねてきたらしい。


 なんでも彼のスキルに興味があったらしく、スキルの力を見せてくれたら「一つお願いを聞いてあげよう」と持ち掛けられたようだ。


 平民のままでは私と結婚できないと思い詰めていたらしい彼は、初めて会ったばかりだというのに「自分を養子にしてくれないか」とその貴族に頼んだという。


 面白がった貴族は、彼に強奪スキルを用いたある「条件」をだした。


 それは将来誰かと結婚するまでの間、自分の屋敷で働いている犯罪奴隷たちの「悪意」をスキルの力で強奪して自分の身に宿し続けるというもの。


 最初の内は自分の中にある「良心」を強く意識することで耐えることが出来た。


 でも、だんだんと心がいくつかに分かれていくかのような感覚が芽生えたという。


 そして、いつしかあんな性格に……。


 ルーフェウスをこんな風にした貴族……この国の大臣は寿命を全うして、もうこの世にはいないらしい。


 なのにそれからも彼はずっとその約束に縛られていたんだ、そう教えてくれた。


 昨日もそうだけど、今まで本当に悪かったとさっきから何度も頭を下げるルーフェウス。


 私はあなたが……、ルーフェウスが幼い頃と変わらず、優しいあなたのままでいてくれたらそれだけでよかったのに。


 あなたなら身分の差なんてきっと自分の力だけで――



 そして、話が終わると私にプロポーズしてくれた。


 幼い頃に戻ったような表情の彼を見て、私はようやく彼が帰って来てくれたのだと、そう感じた。


 だから、あとは私が彼を受け入れるだけ……そのはず。


 なのに、なぜかまだ会ったばかりの女の子の顔が頭に浮かんだ。


 もし仮に、あの女の子が男性だったとしても大して好みのタイプではない。


 私はどちらかというと自分の身は自分で守れる、強くて男らしい人が好き。


 お父様も元々は騎士として王宮に勤めていた。


 でも、強かった父は倒れ……それを救ったのは私と同じくらいのか弱い少女。


 ――でも、父を救えたのは「回復スキルを持っていたから」っていうだけでしょ?


 私の中にある「意地悪」な部分がそう囁きかけてくる。


 それはそうだ。


 彼だって「回復スキル」を使えたならきっと同じように父を救ってくれただろう。


 絶対にそうする。


 そう信じてもいいはずなのに、彼が私を……私の父を助けてくれる姿がまったく「思い浮かばない」


 それどころか、苦しむ私たちの前で笑う彼の姿が頭の中を埋め尽くしてくる。


 そしてそうなる度に、いつも目が合うと優しく笑いかけてくれる「あの少女」の姿が現れる。


 ……ああ、そうなのね。


 私はきっともう……今のルーフェウスも、昔のあの優しかった頃のルーフェウスのことも好きではなくなったのね。


 幼い頃に私がはぐれ魔物に襲われた時、何の力も持たないのにも関わらず私を必死に守ってくれた勇敢な男の子……私の「初恋」の男の子。


 本当に大好きで、いつまでもずうっと一緒にいたかった。 


 でも、今は違う。


 きっと変わったのは男の子だけじゃない。


 男の子に恋をした女の子の方も変わってしまったの。


 幼かった女の子が今好きなのは、いつもふわりと笑いかけてくれるあの少女。


 女の子同士の恋愛は、物語の中では美しいけど貴族には向かない、そんなことは私だってわかってる。


 だって、後継ぎが生まれないんですもの。


 だけど、少女は……ユーリ様は「特別なスキル」を持っていた。


 きっとあのスキルの存在をとっさに隠してしまった時にはもう既に、私はユーリ様に恋をしていて、彼女のことを独り占めする気だったのだろう。


 私と彼女との間には立派な後継ぎが生まれてくる。


 根拠なんて何もないけど分かる。


 これがうわさに聞いた「女の勘」というものなのかもしれない。


 「そ、そろそろ返事を聞かせてくれないだろうか?」





 ――


 そんな風にいつのまにか少女のことばかり考えていると、彼がしてくれたプロポーズに、返事をするのを忘れてしまっていた。


 私は慌てつつも、それを彼に悟られないように取り繕いながら返事をする。


「ありがとうルーフェウス。

 貴方が私を助けてくれたあの日からずっとその言葉を待っていたわ。

 でも……」


 今の正直な気持ちを伝える。


 きっと今の彼なら私の気持ちを受け入れてくれるはず……そう信じて。


 でも、彼はまた「変わって」しまった。


 そして突然、彼の後ろから魔物の群れが現れたと思ったら彼は私を……。



 結局、彼は私の元に帰って来てくれてなかったのだろうか?


 あの時教えてくれた話は全部、私の気を引く為に用意された彼の「作り話」だったのだろうか?


 でも、もしあのプロポーズを受け入れていたら、彼はそのまま優しいままでいてくれたのかも……


「……ん、あら……眠れないの?」





 ――


 ああ、起こしてしまいましたわ。


 私の為に回復スキルを使い続けたせいで倒れてしまったユーリ様を休ませてあげないといけないのに……。


 でも、彼女はまったく気にされてないみたい。


 また「ふわり」と笑いかけてくれる。


 それからユーリ様がお話になったのは私のことや、友人であるリリアーナ様のこと、冒険者の人たちが手伝ってくれて嬉しかったこと……全て他人の話ばかり。


 自分だって辛かったはずなのに、そんなことは一切言わないで優しくて温かくて…………あ。


 やっぱり、「彼」とは違う。


 昔、はぐれ魔物に追いかけられて彼に助けられた時、「自分も怖かったけど」頑張って私を助けたのだとしきりに言っていた。


 あの時の私は素直に「自分も怖いのに私を助けてくれるなんてすごい!」と思ってたけど……、今思うとなんだか恰好悪く感じてしまう。


 きっと、彼はもともとそういう――


「ねえ、クリスティーナ。

 そういえば今日、あなたのお友達に会ったのよ?」


「え?

 それってもしかして……」


 ……彼のこと?


 でも、お友達ってどういう……あの時の私は彼のせいで大怪我をしていたはずなのに……。


「だって、とってもあなたのことを心配してたわ?」


 ――え?


「なんていうのかしら……なんだか自分の気持ちと、自分の行動がバラバラになっていたみたいなの」


 それって彼が言ってた……スキルの力で宿したっていう「犯罪者の悪意」のせいということ? 


 あの話は全部……本当のことだったの?


「治してあげたかったけど、クリスティーナを助けた後眠ってしまったみたい。

 明日になったらすぐに治してあげないといけないわ!」


 とっても嬉しい……あの日の彼にまた会えるのね……。


 でも…………彼はもう……。


「大丈夫です。

「彼」はもう治療を受けて、この町を出たと聞いていますわ」


「あら、そうなの?

 うふふ、男の子ってやっぱり元気なのね?」


 …………。


「あの、ユーリ様?」


「どうしたの?」


「もし、私に赤ちゃんが出来て、それが男の子だったら「ルーフェウス」と名付けてもいいでしょうか?」


「クリスティーナの赤ちゃんのお名前?

 もちろんいいけど……どうして私に聞くの?」


「わ、わかりませんか?」


「ええと……?

 もしかして、私の赤ちゃんを産んでくれるの?」


「はい、……お嫌ですか?」


「ううん、すっごく嬉しい! 

 私ね、実はねっ、たっくさんのあかちゃんと暮らすのが夢なの!!!」


「そ、そうなのですか?

 私は何人だって構いませんよ。

 むしろ家のことを考えると、どれだけ子をもうけても足りないかもしれません」


「夢みたいっ!!

 あ、でも、赤ちゃんには男の人の「アレ」が必要なのよ。

 知ってる?」


「は、はい……お〇ん〇んですよね?」


「いいえ、「おひげ」よ」


「……はい?」


「あのね、私思い出したの。

 赤ちゃんはおひげが生えるくらい成長した男の人と、同じくらい成長した女の人が一緒に過ごすと、いつの間にかコウノトリさんがお母さんになる女の人のおなかの中に運んできてくれるの」


 ま、まあ大体は合ってますわ……ね?


 ですけれど……。


「でもね?

 おひげってとっても固くて、触るととっても痛いでしょう?

 きっとぎゅうぎゅうにくっついたら、赤ちゃんを傷つけてしまうわ!」


 た、確かにそれは痛そうですわ……ではなくっ。


「でもね、昨日リリアーナにちょっと聞いてみたんだけどね?

 なんと、おひげは赤ちゃんができるのに関係ないみたいなの!」


 はい知ってます。


 ですから……ああもう、私の話も聞いてくださいったら!


「だから、私考えたの。

 きっと、男の人が「大人」になったらって意味なのよ。

 おひげの「あるなし」は関係ないの。

 だから私はもし願いが叶うなら……」


 え……願いが叶うなら?


「ごにょごにょ」


 ……え?


 も、もう一度言ってくれませんか?


「だから、おひげはいらないの!

 それよりも大事なのは……お腹っ!

 コウノトリさんがどれだけ赤ちゃんを運んできてくれても破裂したりしないお腹があればきっと3000人……ううん、頑張れば4000人くらいなら……!!!」


「そ、それは……さすがに無理なのでは?」


「大丈夫。

 前に読んだ本によると「魔法のランプ」とか「古ぼけた貝殻」とか、色々な願いを叶えてくれるアイテムがあるのよ!」


 も、物語ですか? 


 それは実際には存在しないのでは……。


「あ、でも、そんなにお腹が大きくなったらお家を壊してしまうかも……大変!」


 ……え? ぷっ、そ、そんな心配するなんてっ……ぷぷっ。


「あははははっ!

 そ、そんなこと心配する必要なんてないですわっ!」


「え、どうして?

 な、何で笑うの?」


「お家なら私が何度だって作り直してあげますわ!

 でも、そもそも一人で赤ちゃんを4000人も産むのはちょっと……。

 あ、それなら「もっといい方法」がありますわ♡」


「本当に!?

 い、いったいどんな方法なの?」


「そ、それはですね♡

 まず、こちらの――」





 ねえ、聞こえるかしら?


 きっと、今度は幸せになれるわ。


 だからね、ルーフェウス。


 もう、難しいことは考えなくていいの。


 安心して私たちのもとに「帰って来てね」


 そして、今度こそ家族になりましょう――

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