王子さまは来ない
目の前にいるクリスティ―ナの呼吸が、どんどん小さくなっていく……。
でも、大丈夫。
私の回復スキルですぐに治してあげるからね。
「いたいのいたいのとんでけー!」
これでだいじょ……治ってない?
ええと……もう一回っ!
「いたいのいたいのとんでけー!」
……?
どうして治らないの?
「お、おそらくですが……。
体の内側の損傷があまりもに酷いので、見た目ではあまり変わらないのかもしれません」
……難しいお話はちょっとわからないけど……もっとスキルを使えばいいってことかしら?
「まあ、そういうことだろうな。
内臓の働きから考えて……まず、頭……次に、下半身、上半身と治していったらどうだ?」
「私も同感。
心臓が弱まっているのは逆に都合がいいわ。
これ以上出血したらたぶん、命にかかわるもの。
大きな傷を先に塞いでから心臓を治さないと……って、男の冒険者は入ってくるな!!」
周りにいた冒険者さんたちが、次にどこを回復したらいいのかみんなで教えてくれる。
冒険者さんってやっぱり頼りになるのね……えっと、まずはお腹の……下……このあたりね。
「いたいのいたいのとんでいけー!」
次はもう少し上なのね?
「いたいのいたいのとんでいけー!」
今度は……。
「いたいのいたいのとんでいけー!」
次は、次はどこを……。
「……だめだわ。
見た目に回復スキルの影響がまるで出てない。
内臓の損傷が想像以上に酷すぎる……生きてるだけで奇跡ってレベルだわ」
大丈夫……もっと回復スキルを使えばいいんだ、もの……。
「いたいのいた……ぐっ、げほげほっ!」
んぅ!?
ど、どうしかしら……とっても喉がいたいわ……。
あ、ごめんねクリスティーナ。
今すぐ治してあげるから……。
「いたいのいたいのとんでいけー!」
――
「お、おい!
誰か止めてやれよ……あのままじゃあの子倒れちまう!」
「ならお前が行けばいいだろ!?」
「そ、そんなこと……出来るわけねえだろうがぁ!!!」
ぜえ、ぜえ……け、ケンカしちゃダメよ?
大きな男の人がケンカしたらクリスティーナがびっくりしちゃうわ。
「「す、すまん……」」
いいこね。
だんだんクリスティーナの怪我も少なくなってきたし、あともう少し……がんばらなくちゃ!
「いたいのいたいのとんでけー!」
……。
あとは……、あとはどこを治したらいいの?
「ちょっと待って……お疲れ様。
無事に治ったみたい!」
よ、よかった……けほっ、けほ……。
「す、すげえ……あの大怪我を本当に治しちまった……」
「あんなの上級ポーションでも確実に助からなかったぞ!?」
「ていうか、あれってオルゴノット家の……なわけねえか」
もう大丈夫だからおうちに帰りましょうね、クリスティ……え?
「あなた、新人なんでしょ?
大したものね。
よかったら私たちの仲間に……あ、ちょっと待って、これは……!?」
え、どうしたの?
「……まずいわ。
魂にも損傷が出てるみたい……このままだと多分……。
に、二度と意識が戻らないでしょうね……」
大変だわっ!
じゃあ、もっと回復しないと……けほっけほ。
「ちょっと待て、お前さっきから声が出てないぞ?
みせてみろ……だめだな、喉が完全につぶれてる……自分の身体は治せないのか?」
やったことないからわからないわ。
「何言ってるか全然わかんねえが……多分無理って言いたいんだな?」
そうよ……あら、私っていま声が出てないの?
えーっと、さっきまではたしかこんな感じで……んぐぅっ!? げぅ……げ、ゲホゲホっ!!!
「だから喉がつぶれてるって言ったろ?」
「無理もないわ……この子、ずっと必死に回復スキルを唱えてたんだもの」
「かひゅ……か、かひゅ!? かひゅふっ!!」
どうしてっ、どうして回復スキルが使えないの!?
「残念だけどここまでね……教会に連絡するわ。
多分……無駄だと思うけど……」
だ、大丈夫、今すぐ治してあげるから……かひゅー、けぷっ、けほっ!
ほらっ、できて……ない?
……大丈夫!
できるっ、すぐに治せるからっ、お願いっ! 目を開けてクリスティーナ……!!!
お願いだから……ぐすん。
「な……何してんの……よ?」
……どうしよう、このままじゃクリスティーナが……!
でも、クリスティーナは可愛いもの……ぐすん。
きっと王子様が来てくれるはず……そうでしょ?
……。
……まだ?
…………まだなの?
………………まだ来てくれない……かひゅ! だめ、やっぱり回復スキルは使えない……ぐすっ。
でも、きっと王子様がすぐに……え、なんで手当をやめちゃうの?
みんな手伝ってくれるんでしょ?
まだ、クリスティーナは起きてないのよ?
何でそんな顔でこっちを見るの?
かひゅ! かひゅうひゅふっ!!
王子様! 王子様早く来て!!
あなたのお姫様はここ……ここ、なのにっ……ぐすっ。
「だか、ら……何してんの……よ、あん……た?」
その声は……り、リリアーナ!? いったいその怪我どうしたの!?
「私のことは……いい、わ。
それよりあ……なたの、回復スキルはそれ……で、おわ、り?」
え、どういうこと? だって、もう声がでないのよ?
「い……い?
大切なの、は、いめっ、ジ……よ」
いめっ、ジ? ……イメージのこと? でも、さっきからやってるけどだめなの!
「声にたよった……いめ、じだからよ。
違うほうほふて……」
違う方法って何のこと!? わたしそんなのわからない!
イメージって想像するってことでしょ?
私、こんな時にどうしたらいいかなんてわからないわ。
「あんた……本、よむ、ん、しょ?」
……本?
本は読むけど……こういう時は王子様が来てねっ、女の子にキスをしたらそれで解決しちゃうからまず、王子様が来てくれないと…………あ。
私が王子様になればいいんだ!
寝ている女の子にあんなことするなんて、きっと王子様じゃなければ許してもらえないのかもしれないけど……。
でも、私はクリスティーナに眼を開けてほしいの。
ごめんね……絶対に責任取るからっ!
(目覚めのキス!)
「ん……ちゅっ。
あ……、ユーリ、様……?」
クリスティーナ! よかった、起きてくれたのね!?
「やる……じゃん。
どうや、った……の?
わたしも、おね、がいする……わ」
リリアーナ! 大変っ、あ、でもっ、「これ」って起きている女の子にも効くのかしら?
つんつん……あ、意識を失ってるみたい。
ちゃんとあなたにも責任取るから……ちゅ。
あ、効いてるみたい。
じゃあこのまま……ちゅっ、ちゅっ……。
ぷはっ。
これでもう大丈夫ね、もぎゅ。
……もぎゅ?
これって……もしかしてリリアーナのお胸?
リリアーナってこんなにお胸大きかったのね……もぎゅもぎゅ。
……でも、私これからどうしたらいいの?
二人分の責任なんて、いったいどのくらいになるのか想像がつかない。
でも、何とかしないと王子様が私を……。
……。
リリアーナっ、クリスティーナっ、お願いっ、どこか遠いところへ私を連れて逃げてっ!!!
このままじゃ私っ、きっと本当の王子様にやっつけられてしまうわ!!!




