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中級の洞穴

「ぅぉりゃああ!」

「回り込みます」

「任せたぁ!」


 体格の良い方の先輩であるサンドバルパイセンは、タンク担当。

 基本的には一番強そうな攻撃をしそうな相手を受け持つ。

 その大きな盾で敵の攻撃を受け止め、槍でカウンターを狙う。


「殺れる!」

「ナイスぅ!」


 サンドバルパイセンがディフェンス担当なら、性格の良い方の先輩であるガランパイセンはオフェンス担当。

 相方が一番の難敵を受け持っている間にその他を倒し、難敵の背後に回ってトドメを刺す。

 そして僕は、後ろですげーと眺めていた。


 正直舐めていた所はある。

 学校の、しかも中級のダンジョンの入り口だ。

 せいぜいゴブリンとか、スライムとか、そういうのもまだまだ出てくるんだろうと思っていた。

 しかしいきなり二メートルはあろうオーガが出てきてその考えは捨て去った。


 オーガは滅茶苦茶でかい棍棒を持ち、重い一撃をずしーん。サンドバルがそれを受け止め、後ろからとどめーという形かと。

 しかし実際は、オーガの棍棒は滅茶苦茶連撃する。

 棍棒をまるで棒切れのようにバシバシと叩くのだ。

 その一撃を受ければ、普通の成人でも余裕で死にそうな威力を出している。

 それをさも当然のように全て受け止めるサンドバル。時折カウンターで脇腹に一突きする余裕すら見せる。

 さも当然のように掻い潜り、裏を取って足の健を切断するガラン。オーガの首の裏に剣を突き立てた技は見事だった。

 一方の僕は加勢するどころか、時々飛び散ってくる棍棒の木片を避けるので精いっぱいだ。

 てか近づいたら死ぬ。


《レベルが3から一気に6まで上がりましたね》

(そらそうだろうなぁ)


 確かに一気に強さ的な何かが上がるのを感じる。

 気のせいかもしれないけど、力がみなぎるというか、足が速い気がするというか。

 しかしながら、それでも今の僕ではオーガの相手をするのは余りに絶望的に思えた。





「ごめん! そっちに行った!」

「はい!」


 それから何戦かして、敵が僕に攻撃を仕掛けてきた。

 オーガは流石に大物だったようで、今戦っているのはスケルトンだ。

 剣を持った奴がスケルトンセイバー。槍を持った奴がスケルトンランサーだ。分かりやすーい。

 4人組のスケルトン一行が現れ、先輩たちがほとんど相手をしているが、その中で一番小さいスケルトンセイバーが抜け出してきたのだ。

 いや、自分も一応父さんに稽古を付けてもらった身。

 レベルが低くても、これぐらい倒せるんじゃないか? 我、異世界チート転生者ぞ?


「グギャギャッ」

「そこっ!」


 スケルトンセイバーが素早く剣を振り下げる。

 それをサッと避けると、力一杯剣を振る。

 狙いは細く、弱そうな首の付け根!


 ガキィン!


「……いってぇ!」


 剣で切り付けたこっちの手が痛い。

 まるでダメージが無い。

 むしろ剣を持ってる右手が痛い。


「ギャッ!」


 どこか怒った様子のスケルトンセイバーは、左方向から剣で切り付けてくる。

 僕は左手で持った盾でそれを受け止め……


「……無理!」


 勢いを殺せない。

 余りの強さに、盾が壊れてそのまま自分自身が切られそうな勢いだ。

 とっさに身を屈めながら盾を斜めにし、受け止めるのではなく受け流す事にした。

 敵の剣は自分が頭上をカスるかカスらないかぐらいで通過する。

 剣と盾の性能差、ではないだろう。

 間違いなく、僕自身のスペックのせいだ。

 この装備が無ければそもそももう死んでいる。

 スケルトン達が持ってる武器なんて明らかにオンボロだし。


 屈んだ自分だったが、スケルトンセイバーは更なる攻撃を加える。

 やむを得ない、剣と盾両方使ってなんとか受け流す!

 ……が、やったことない事は簡単には出来ない。

 ほとんど勢いを殺せず、攻撃は食らわなかったが体勢を崩された。

 そしてその隙を見逃さず、スケルトンセイバーはタックルを仕掛けた。


「ぐあっ!」

「ギャギャギャギャ!」


 足が地面を離すのを感じる。

 タックルで吹っ飛ばされた自分は、2メートル程後ろの土の壁に強く全身を打った。

 衝撃で剣が手から離れる。

 視界が一瞬白くなる。


 スケルトンセイバーは、すぐに距離を詰めて剣を振り上げる。

 なんとか気を取り直して咄嗟に盾を構えようとする。

 ダメだ、これ間に合わ……死……


「うおりゃっ」

「ギャグェッ」


 もうダメだと思った瞬間、スケルトンセイバーは駆け付けたガランの一閃に倒れる。

 気が付けば、敵のスケルトン他3体は既に倒されていた。


「悪いね、一匹逃しちゃって」

「いえ、すいません力になれず」

「いやいや、まだ振ってもいないのにこのレベルの相手に時間稼げただけでも凄いよ」


 お世辞なのだろうか。

 いや、お世辞だったとしてもとりあえず生きてる、それでいいか。

 異世界チート転生者と言っても、現状は本当に何も出来ない。

 もしかしたら、案外何とかなるのではと思っていた。

 現実を知った。洗礼を受けたような気分だ。


 目の前のスケルトンも光となって消える。

 そこにはアイテムが残されていた。


「はい、これは君にあげる」

「あ、ありがとうございます」


 スケルトンのドロップしたアイテムは体力回復のポーションの、通称快一だった。

 一番グレードの低い、20ゴールドしか価値の無いポーション。

 あの難敵と戦って、ドロップしたアイテムがこれかぁ……。


「さっきのオーガを倒したら、たまに快二が出るんだけどね」

「なるほど」


 さっきのオーガを何度も倒して、稀に2000ゴールド相当。

 それを60個も売りに出す。

 いやはや、冒険者でダンジョン探索って、こんなにしょっぱいものなのだろうか。




《レベルが9に上がりました》

(うーんやっとか)


 ダンジョンに入って1時間半ほどが経過した。

 最初こそモリっと上がったレベルだが、それ以来1つ上がるのに露骨に時間がかかるようになってきた。

 確かボードに書いた時間は2時間程度だったと記憶している。

 若干のロスタイムを考えても、レベル10になれれば御の字だろうか。


「どうする? もう一階層下がっちゃうか?」

「うーん無理せず湧くのを狙ってもいい気はしますが」


 そういえば大分前に一度階段を下りた記憶がある。

 予定では一階層の入り口周辺だけのつもりだったが、いつの間にか二階層の終盤まで来ていたのか。

 そこまでの敵を全滅させて来たわけだが、戻っても敵がいないというとそうではない。

 この世界のモンスターは、ダンジョン内だけかもしれないが、どうやらいつのまにか自然に湧いて、倒されると光になって消える。

 よってドラゴンの鱗をはぎ取ってボロ儲けしたり、ドラゴンのしっぽをステーキにして食べる。なんて事は出来ない。

 いやドラゴンは出来るかもしれないが、少なくとも雑魚は出来ない。雑魚と言っても僕だと即死レベルに強いけども。


「先輩たちはどのあたりまで行ったんです?」

「俺たちはここの五階層で止まってる」

「5の倍数だと、強いボスがいるんだよなぁ。メンバーも集めないといけないし」

「ま、寮費の催促よりは怖くねえけどな!」


 さいですか。

 まぁ、帰りの時間も考えなければならない。

 この辺りで終わりにして、帰りのモンスターを狩る感じでもいいか。

 そんな時だった。


 ピィーーーーーー……。


 という甲高い笛の音が、階下から聞こえてきた。

 え、何これと考える間もなく、それを聞いたサンドバルとガランは三階層に降りてしまった。


《これは緊急事態とか、救助要請を示す笛みたいですね》


 どうしよう、単身帰って助けを呼ぶかと一瞬悩んだが、ここは二階層の最奥。

 入口からもう結構離れたし、帰りにモンスターと遭遇しようものなら命が無い。

 何ならちょっと遠くに、オーガが再び登場しようとしている光が見えるし。

 どう考えても単身ここにいた方が危険だ。

 完全に見失う前にと、僕も急いで二人の後を追い三階層へと進んだ。





 サンドバルとガランは三階層降りてすぐのところにいた。

 何やら地面を眺めている。

 白い何かが落ちている。


「見てよコレ、スケルトンの死骸だ」

「笛を鳴らした人が倒したんでしょうか?」


 僕がそんな事を口にしてからハッとする。

 いやそんなはずはない。

 モンスターを倒したら、モンスターの死骸は残らない。

 光となって消えるはずだ。

 つまり……。


「こいつらはモンスターに倒されたモンスターだ」

「こりゃ瞬殺だな、何かやべーのが奥にいるぞ」


 このレベルの強さのスケルトンを瞬殺できる程の強さか。

 オーガでも難しそうだ。特に入口近くではなく、大分奥まで来ている。

 その分恐らくだがスケルトンも強化されているはずだ。

 ガランが剣で軽く地面のスケルトンの残骸をコンコンと叩くと、光となって消えた。

 アイテムドロップは無かった。




 異変はすぐに見つかった。

 オーガよりもう一回り大きなモンスターが、三階層の中央を横切ったのだ。

 体が茶色いのと、ひょろっとした尻尾、頭に角が生えているのは分かった。


「おい、あいつ知ってるか?」

「見たことないな……少なくとも五階層じゃ見たことないだろ?」

「あぁ」


 イレギュラーが起こったのは分かる。

 話を聞く限り、この辺りでは見ないモンスターではある。

 息をひそめて、3人で後を追う。


 牛のような頭。

 しかし二足歩行で、巨大な斧を持っている。

 体の一部を鎧のようなもので保護しており、ふんふんと鼻息が聞こえてくる。

 ゲームやアニメでよく見るな、こいつは……。


「ミノタウロスだ。」


 僕の発言に、先輩二人が目を合わせる。

 一応軽く誤魔化すか。


「父親の部屋の本に書いてあった絵があんな姿だったはずです」

「ミノタウロス、たしか上級ダンジョンに名前があったような」

「上級? なんでここに湧いたんだ?」

「湧いたのではなく、もしかしたら上級と中級の間の壁が壊されたのかも」

「撤退して応援呼んだ方が……」

「先輩、アレ」


 先輩二人が相談する中、非常に面倒な物を見つけてしまった。

 近くで黄色い何かが見えた。

 よく見ると、人が倒れている。笛を吹いたのはあの人だろうか。

 ミノタウロスのすぐ近くだ。

 敵も存在は気づいていそうだが、特に気にしていない様子でもある。

 しかし、明らかに重傷だ。その上あまりに近いので、いつ踏まれてもおかしくない。


(なぁティンクル、この二人であいつって倒せると思うか?)

《まず無理ですね》

(どれぐらい無理そう?)

《お二人はレベル24と26、アレの討伐適正レベルは40は欲しいですね》


 確かに相当厳しそうだ。

 見捨てるのも視野に入れた方が……。

 と思っていたが、先輩たちが口論を始めた。

 そして「すまん!」とサンドバルが言うと、飛び出してしまった。

 ガランは少し悩んだ後、腕の何かをブチっと外して僕に渡した。

 ブロンズ製の校章に見える。


「レース君、これを渡しておく」

「これは?」

「校章。いざとなったらコレ使って脱出ができる」


 そんなものが。


「僕ら二人でアレを引き付ける。君は彼女を連れて、それで逃げて」

「先輩たちは?」

「そっちが急いで助けを呼んでくれたら、まだなんとかなる」


 そういって、ガランも飛び出した。

 こうなったら時間がない、僕も飛び出して、金髪の人の所に走り出した。


「ごぎぁあがあぁあ!」


 ミノタウロスは、咆哮を上げてサンドバルに斧で殴りかかる。

 ハッキリ言って受けとめるというより、なんとか耐えているという状態だ。

 圧倒的格上にもなんとか耐える。いや凄い。

 だが片手で受け止められないのか、槍は背中に背負ったまま両手で盾を持っている。


「ぐぅぅ……」

「ハァッ!」


 ガランが掛け声と共に、中距離から何もない場所を剣で切る。

 剣から風の刃が飛び、ミノタウロスの後ろに襲い掛かる。

 ダメージがほとんど通っている気がしないが、ミノタウロスの攻撃が若干緩む。

 こっちも凄い。

 僕も見惚れている場合ではない、事態は一刻を争う。

 負傷者の元に到着して声をかける。


「大丈夫ですか!」


 倒れているのは女性だった。

 金髪のサイドテール、手には弓が握られている。これは……。


《リーシャさんじゃないですか》

(さっき会ったな、やばいなこりゃ)


 リーシャ、さっき寮の入り口で挨拶した相手ではある。

 脈を測ると一応心臓は動いている。

 しかし呼吸が浅い。体温も低くなっている。

 体も変な方向に曲がっていて、ひどく腫れている場所も目立つ。

 迷っている暇は無い。

 僕はアイテムボックスを急ぎ広げると、快三、最も効果の高いポーションを取り出して口に含む。

 脳天まで苦みを感じる。

 そしてリーシャさんの口に唇を当て、一気に流し込んだ。

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