幼少期への逆行
ふと頭を撫でられる感触で目が覚めた。
ぼんやりと定まらない視線と思考がクリアになった時、2人の男女が見えた。男性の方は、銀髪に蒼い瞳、やや冷たい印象を受けるその顔は、今は不安によって曇っていた。
金髪に紫水晶のような瞳の女性は涙を浮かべて自分を見つめている。
父シーモア=テオ=アリュセイアと母ミランシャだ。身内の贔屓目もあるやも知れないが、両親程の美男美女にはお目にかかったことがない。
どうやら頭を撫でているのはシーモアらしい。
「ジル・・・大丈夫?具合はどう?」
ミランシャは眉根を寄せて、震える声で問いかけてきた。
―――って!待て待て!!誰だコイツらは!?
いや両親だっていうのは分かるんだが、こんな殊勝な性格はしていないと記憶している。
ただ王子の役に立てと言い冷淡な瞳で見下ろす父と、穢らわしい存在と言わんばかりに目も合わせない母。
それがジルの知る両親の姿だ。
だが今の2人の様子は、偽りなく心配しているように見える。
まるで王子の側近候補として厳しい教育を受ける前のような。ストレスで肥満体型になる以前のような態度だ。
とにかく状況を確認しなくては。
「父上、母上・・・」
訊ねようと言葉を紡ごうとして驚愕した。まるで子供のような高い声が自分の口から出たのだ。
ふと手を視る。・・・小さい。
って、小さい!?
なにこれナニコレ!?!?!?
パニックに陥っているとシーモアが状況を説明してくれた。
「お前は5歳の誕生日の次の日から高い熱が出て、もう3日も意識がなかったのだ。覚えているか?」
どうやら誕生日の、パーティーに招いた客が、質の悪い流行り風邪を持ち込んでしまったようだと医者は推測していた。
熱も下がり始め、そろそろ目が覚める頃だと推測した医者によって、2人はジルの部屋へと来たらしい。
と言うことは、まだ5歳。
王子の側近候補を選出するお茶会は約一年後。
両親との関係はまだ良好な状態。
17歳で死んでしまったであろう出来事は夢か妄想か・・・ブクブクと肥え太り、プライドをすり減らして王子を褒め称えまくっていた自分ではないのだ!!←ここ重要!
優しく綺麗で自慢の両親と、やり直せるなら、なんと幸せな事だろうか!
ジルは自分が思っていたよりも愛情に餓えていたらしい。
思いがけない奇蹟を目の当たりにして、涙が止まらなくなった。