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Cafe Shelly

Cafe Shelly お父さん、大嫌い

作者: 日向ひなた

 私はお父さんが大嫌い。どうしてあんな人の子供に生まれたんだろう。最近は特にそう思う。

 どうして嫌いかって、お父さんと一緒にいると必ずといっていいほどこの言葉を言われるからだ。

「紗季菜ちゃんって、おとうさんそっくりだね」

 確かに私はお父さんに顔かたちがそっくりだ。これは私も認めざるを得ない。だからこそお父さんが嫌い。さらにこの前は、久々に会ったおばあちゃんにこんなことまで言われた。

「紗季菜ちゃんの後ろ姿見てたら、お父さんの若い頃に似ててびっくりしたわ」

 これはショックだった。顔つきだけならともかく、私の行動、振る舞いがお父さんに似ているだなんて。もう勘弁してほしい。

 そもそもお父さんの生き方が嫌い。私が小学生の頃、安定して勤めていた会社を勝手に辞めて、デザイナーとして独立をした。デザイナーといえば聞こえはいいが、実のところ街の看板屋である。最初の頃は仕事にならず、お母さんとお金のことで毎日もめていたのが嫌だった。その頃からお父さんの生き方そのものが嫌いになった。

 今はそれなりに仕事が舞い込んではいるが、そのおかげでほとんど家にはいない。休日も仕事で出かけることが多い。

 そのせいで、お父さんは学校の行事に顔を出したことがない。自分のことで精一杯なんだ。自分でも「趣味は仕事」だって言っているくらいだから。まったく、看板屋のどこがいいんだろう。

 けれど、不思議な事にお父さんは周りの評判はとてもいい。いわゆる「外面がいい」ってタイプ。やたらとひょうきんで、おしゃべりで、どちらかというとおばさんにウケるタイプみたい。

 そんなお父さんが、一人娘である私にこんなことを言い出した。

「紗季奈のお婿さんには、この会社を引き継いで欲しいなぁ」

 何いってんの、私まだ高校生なんだよ。それに、勝手にお父さんみたいな人を私のお婿さんにだなんて決めつけないで。

 食事中にお酒を飲みながらそんなことを言い出したもんだから、私は腹が立ってきた。

「ごちそうさまっ」

 さっさと食事を済ませて、自分の部屋へと戻っていった。ホント、この人と同じ空間にいるのでさえ嫌だ。去り際にお父さんがぼそりとこのセリフを言ったのも腹が立った。

「反抗期なのかなぁ」

 何いってんの。反抗期とか関係ないわよ。あなたのことが嫌い、それだけのことなんだから。いい加減、そのことに気づいて欲しいわ。ホント、腹が立つ。

 お父さんは家の横に建てた掘っ立て小屋のような事務所で仕事をしている関係上、家にはいつもいる。だから私は家に帰るのが嫌だ。けれどご飯を食べたり、寝たりする場所は必要。早く大学に入って、独り立ちしたいといつも考えている。

 そんな私だが、今打ち込んでいるものがある。それがこれ。

「紗季菜ちゃん、これはどう表現するの?」

「ここはもうちょっと緑色を深めにして。そう、もっと奥行きを感じられるように」

 私が所属しているのは造形部。立体の模型をつくる部活である。美術部は平面のキャンパスに色を塗る。私たちは立体でさまざまなものを表現する。

 今取り組んでいるのは、この街の自然を題材にしたもの。実際に山に足を運び、集落と山、そして鉄道を大きな模型として作成する。

 去年この部に入ったときには、男子が模型作りをするのが中心だった。ガンダムとか戦場モノとか、そんなものが中心。

 けれど、私が男子のつくる模型の背景をちょっとだけ手伝ったら、それが大ウケになって。徐々につくるものが現実にあるパノラマ模型に移っていった。そして今回、文化祭に向けて私達の住んでいる街をテーマにした大パノラマ模型を作成することになった。

 三年生が引退した今、私が部長に祭り上げられてこの部を仕切っている。部長って自覚はないけれど、ジオラマ造形に関しては妙なこだわりがあって、みんなも私の言うことなら間違いないと思ってくれて従ってくれる。けれど、やはり人の集団となると思うように動いてくれないことが今の悩みだ。

「紗季奈先輩、ここはもっと薄い色の方がいいと思うんですけど。ちょっと深すぎやしませんか?全体的に暗くなっちゃいますよ」

 一年生に、ちょっと生意気な男子、忍ってのがいる。こいつが特に私に絡んでくることが多い。忍がオタク系であればまだ許せる。私と同じように、こだわりを持っているんだなって理解できるから。けれどこいつがさわやかなイケメン君なのが鼻に付く。

 こだわりを持って反論をしているのではなく、私の言うことに対して反論をしてくるから。自分の言うことの方が正しい、合理的だ、論理的だ、そう言わんばかりに次々と言葉を投げかける。何か恨みでもあるんじゃないの、そう思いたくなるのだが、私にはそんな記憶はない。そもそもこの部で初めて会ったのだから。

「体育館のライティングを考えたら、もっと明るめの方がいいに決まってますよ」

 いちいち言うことがひっかかる。もっと先輩に対して言い方ってものがあるだろう。確かにそれは正論かもしれない。けれど、私には私の考えがある。

「忍、確かにそうかもしれないけれど、私はリアリティを求めているの。体育館に飾ることだけでなく、ひょっとしたらこれが多くの人の前に出る日が来るかもしれない。そのときのことも考えているの」

 結局は部長である私の意見が採用される。だからといって忍が周りから嫌われることはない。そういう態度をとるのは私に対してだけなのだから。ホント、何がしたいのかわからない。

「ただいま。ふぅ、疲れた」

「紗季菜、おかえり。部活の巨大ジオラマの作業はどんな感じで進んでいるんだい?」

 家に帰ると、めずらしくこの時間にお父さんがいた。私が帰ってくる時間って、ほとんど外の作業に出ているか、工房で看板を作っているので珍しい。

「どうでもいいでしょ。って、なんで私達のやっていること知ってるのよ?」

 私達が今やっている作業、これは周りの皆を驚かせるために、秘密にしている。知っているのは部員と顧問の先生だけ。家族にも言わないように、部員にはちゃんと言っているのに。どうしてお父さんが知っているの?

「この前、紗季菜の後輩の男の子が、ウチに来て色づかいの相談をしたんだよ。そこで今やっていること、いろいろと教えてもらったけどな」

「ちょ、ちょっと、その男の子ってもしかしたら忍のこと?」

「あ、名前まで聞いてなかったな。わりとイケメンでさわやかな男の子だったぞ」

 それを聞いて腹が立って来た。忍のやつ、どうしてそんな勝手なことを。しかもわざわざウチに来て、お父さんに相談するだなんて。どういうつもりなんだ、あいつは。

「お父さん、なんでそんなヤツの相手したのよ。ホント、最低っ!」

 自分の部屋に戻り、早速忍に抗議の電話をかけた。が、出ない。あのヤロウ、私ってわかっていながら出ないんだな。だったらこっちにも考えがある。

 今度は同じ部の二年生の男子、篠山に電話。

「おう、紗季菜か。どうした?」

「ちょっと聞いてよ。実はね…」

 ことの次第を話したところ、さすがに篠山もこれについては怒りが湧いて来たようだ。秘密にしておけといったことを、忍はわざわざ私の父に暴露したのだから。

「ちょいとあいつには制裁を与えねぇとなぁ。でも、あいつの言うことも一理あるからなぁ」

「それってどういうことよ?」

「紗季菜もちょっとワガママかな」

 私がワガママ?私は作品をよりよくしようと思ってやっているのに。このあと、篠山にはそのことをしつこいほど伝えた。一通り話した後、篠山は私にこう言った。

「だから、それがワガママなんだよ。俺とか忍の意見、お前は聞かねぇだろう。いつも自分が正しい、そう思い込んでいるんだよ。ま、忍が勝手にお前のお父さんに相談したのは困りもんだけどよ。忍もプロの意見を聞きたかったって気持ちはあるんだろうな」

 確かに、私は自分でも認める頑固者だ。これと決めたら曲げることをしない。けれど、それは…やめておこう。また同じことを繰り返すだけだ。

「わかった、つきあってくれてありがとう。じゃ、また」

「おう、俺もちょっと言い過ぎたかもしれねぇけど。でもな、作品をみんなに見てもらって、評価してもらいたいって気持ちはお前と同じだからな。明日もがんばろうぜ」

「うん」

 そう言って電話は切れた。私ってどうしてこうなんだろう。独りよがりで頑固で、そしてワガママ。周りからはそう見られているんだろうな。そういや、そんな人、一人知ってる。私のすぐ身近にいる。

 看板職人として、すごいこだわりをもって仕事をする。そんな父に私は似ているんだ。

「もうヤダ、なんで私、こんなにお父さんに似ているのよっ!」

 まくらを思いっきり壁に投げつける。だからといって気持ちが晴れるわけではない。むしろ、よけいに泣けてくる。この容姿、この性格、私が一番嫌いなお父さんとどうしてそっくりになっちゃったの。そのおかげで、私の部はバラバラになっちゃうじゃない。

「紗季菜、ちょっといいか?」

 ノックの音とともに、お父さんの声。けれど返事をしたくない。私が反応しないから、お父さんは一人でドアの向こうでしゃべり始めた。

「ウチに来たイケメンの後輩、彼には言っておいたぞ。確かにライティングを意識した色づかい、これは大切なことだ。けれど、何を目的として作っているのか。そこを大切にしないといけないってな。今回の場合、体育館に飾るという、目の前だけのことを考えていると、人を感動させる作品にはならないんじゃないかって、お父さんは思うんだよな」

 悔しいけれど、お父さんと私の考え方は同じだ。こんなところまで似なくていいのに。

「それでもイケメン君は自分の主張を崩さなかったなぁ。あんなのを相手にするお前も、部長として大変だな。とにかく頑張れよ」

「うん」

 ちょっとだけうれしかった。

 そんなことがあった翌日、またまた事件が起きてしまった。といっても悪いことではない。しかし予想外な出来事であるのは間違いない。

「えっ、取材!?」

 朝ごはんを食べる時、お父さんから衝撃の告白があった。

「そう。なんでもまちで頑張っている職人さんってことで、看板職人のウチがテレビ局の取材を受けることになっちまった。でな、まぁヤラセに近いけど、どこかに指導をしているところがほしいんだと。で、紗季菜、お前の高校の部活を指導しているって感じのものを撮らせてもらえねぇか?」

「そんなこと、今までやったことないじゃん。急にそんなこと言われても…」

「わかってる、わかってるって。でもなぁ、これでウチの宣伝になれば、もっと仕事も入ってくるし。それに今お前たちが手がけている巨大ジオラマ、これも世に出るってことになるから、一石二鳥なんだけどなぁ」

 この言葉は私の心をゆさぶった。うまくいけば、高校の文化祭だけじゃなく他でも展示させてもらえるかもしれない。そうなると、私が言っていたリアリティを追求するという持論が正しくなる。

 お父さんの手伝いというのは今ひとつ気乗りがしないが、自分たちの作品が紹介されるのはうれしい。

「わかった。みんなには話しておく。でも、反対する人がいたら無理だから」

「そうか。ありがとう」

 ということで、このことを早速部活の時間に話した。すると、意見が真っ二つに分かれた。

「これで作品が有名になるなら、私達がやっていることも日の目を浴びるじゃない」

 これは私と同じ考え。けれど反対派の意見はこうだ。

「それって、紗季菜先輩のお父さんのためじゃないですか。自分たちはそんなのに使われるの、まっぴらごめんです」

 反対意見を言い出したのは、もちろん忍である。こいつ、ウチのお父さんに会っているにも関わらず、勝手にアドバイスを受けに行ったにも関わらず、よくそんなこと言えるな。

 反対派は主に一年生。二年生は賛成派である。結局最後は先生に判断を委ねようということになった。

「いいんじゃない。学校もクローズアップされるんでしょ。放送は文化祭の前なの?もしそうなら、人もたくさん来てくれるし」

 お気楽な先生。結局この言葉で、テレビ取材を受けることとなった。だが、これが決まったときに忍が思わぬ一言を私にぶつけた。

「やっぱり親子じゃん。紗季菜さんってお父さんそっくりだ」

 この言葉は私の心を大きく揺さぶった。嫌な気持ちだ。

 そんなことがあったせいで、部内はギクシャクし始めた。けれど、作品を完成させたいという思いは同じ。一年生も黙々と作業はこなしてくれる。けれど、そんな気持ちが作品に現れ始めた。

「なんだかこう、いまひとつバランスが悪いのよね…」

 一つ一つのパーツの完成度は高い。けれど、これらを一つにまとめると、なんとなくまとまりがない。これ、どうすればいいのだろうか。

 誰かに相談したい。けれど、顧問の先生は役に立たない。名前だけの顧問だから。どうしたらいいのか悩んでしまう。

 だが、美術的センスを持っていない顧問の先生でも、私たちの関係がいまひとつギクシャクしているのはわかったみたい。

「紗季菜さん、今部内をまとめるのが大変なんじゃない?」

「先生、わかりますか?」

「私だって長年先生をやっているんだから。そのくらいわかるわよ。でも、私もこういった問題は正直苦手なの」

 やっぱり先生、役に立たないじゃない。

「でもね、こんな問題に対して解決の糸口になるかもしれない人は知っているわ。昔、この学校で先生をやっていて、スクールカウンセラーもやっていた人がいるの。その人に会ってみない?」

「えっ、じゃぁ今は学校にはいないんですか?」

「うん、今その人は街中で喫茶店をやっているの。一度訪ねてみるといいわよ」

 先生は喫茶店の場所を教えてくれた。お店の名前はカフェシェリー。そこのオリジナルブレンドコーヒーがおすすめらしい。私はコーヒーはそれほど好きではないが、飲まないわけではない。先生曰く、騙されたと思って飲んでみるといいわよ、ということらしいが。

 ともあれ、早速行動。さいわい明日は土曜日なので早速行ってみるとするかな。

 家に帰ると、お父さんがうずうずして私のことを待っていた。

「紗季菜、どうだった?」

 例のテレビ取材の件での返事を待っていたのだ。

「まぁ、いいってことになった。でも一年生たちが反対はしたけど」

「一年生って言うと、例のイケメン男子か?」

「まぁ、そうだけど」

「あいつ、なんか生意気だけどなんか憎めないんだよなぁ。それなりに正論も言ってくるし。いい加減なやつではないとは思うけど」

 たしかにそう、そうなんだ。だから困っている。忍がこちらの味方になれば、これほど強力なヤツはいない。けれど、今はなぜだか敵になっている。そもそもどうして忍は私のことに、こんなにも反発するんだろう?

「あ、紗季菜、明日時間はあるか?」

「明日はダメ。用事があるの」

 お父さん、こちらの都合も考えずにいつも自分の都合を私に押し付けるんだから。

「そっか、テレビ局の人が明日打ち合わせに来るんだけど…」

 そういうことは先に言えっていうの。

「何時なの?」

「えっと、午後二時から」

 仕方ない、カフェシェリーには午前中に行くことにするか。

「わかった、その時間には帰ってくるから」

 そう言ったときのお父さんの喜び方、半端じゃなかったな。ったく、どうしてこう気持ちが顔に出るかな。まぁ、私もそれについては人のことは言えないけれど。私もよく周りから、紗季菜は今どんな気持ちなのかがすぐにわかるって言われるもんなぁ。

 そして翌日、先生に教えられたカフェシェリーに足を運んだ。まだ九時だけど開いてるかな?

 街はまだ今から活動開始って感じ。お店が開くのはだいたい十時からだもんなぁ。けれど、こんな時間から街を歩くなんて初めてかもしれない。なんだかワクワクしてきた。

 街中の路地に入ると、パステル色のタイルで敷き詰められた通りになる。この通りの真ん中あたりだったな。あ、ここだ。お店の看板が通りに出てる。よかった、もうやってるみたい。

 ビルの二階に上がり、お店の扉を開く。

カラン・コロン・カラン

 心地よいカウベルの音。それとともに聞こえてくる「いらっしゃいませ」の女性の声。私は恐る恐る扉の向こう側へと飛び込んでいった。

「お一人様ですか?」

 とてもきれいなおねえさん。

「あ、はい。あの…ここのお店って、元学園高校の先生がやっているって聞いてきたんですけど」

「あ、あなたもしかしたら紗季菜さん?」

「はい」

「じゃぁ、カウンターのほうがいいわね。こちらへどうぞ」

 私の名前を知っている。ということは、顧問の先生が私のことをお店の人に話してくれていたんだ。

「こちらがこの店のマスター。私も学園高校の卒業生なの。マスターは私の元担任だったのよ」

「いらっしゃいませ。だいたいの話はうかがっていますよ」

 紹介されたマスターは、とても優しそうな人だ。早速悩みを話そう。そう思ったときに、マスターがこんなことを話し始めた。

「紗季菜さん、でしたね。なんでも今大きなジオラマ模型をつくっているとか。美術的センスがすばらしいって、顧問の先生がおっしゃっていましたよ。そのセンス、お父さんゆずりらしいですね」

「は、はぁ」

 ここでもお父さんに似ているって言われるのか。私にとっては避けられない運命の言葉だな。

「それで、今一年生とちょっともめているそうですね」

 顧問の先生、どこまで話してるのよ。まぁいいや、おかげで相談しやすくなったな。

「そうなんです。一人、やたらと私につっかかってくる後輩男子がいて。なんだかんだ、私に反論してくるんです。けれど、彼の言うことも一理あるだけに面倒なんです。おかげで部が二つに割れちゃって」

「なるほど。では紗季菜さんは今の部をどのようにしたいと考えているのかな?」

「そうですね、やっぱりまとまりのある部にしたいです。一つの作品に対して、みんなが同じ方向を向いて取り組んでいく。そんなふうになりたいです」

「じゃぁ、今はどうなのかな?」

「はい、今話したとおり。とりあえず作品作りは手がけているけれど、細かいところで衝突が起きちゃって。どうしてなんでしょうね」

「そうだね、それを考える前に、魔法のコーヒーを飲んでみないかな?」

「魔法のコーヒー?」

 そういえば顧問の先生、オリジナルブレンドコーヒーがおすすめだとか言ってたけど。それが魔法のコーヒーなのかな?

「はい、じゃぁそれをお願いします」

 そう言うとマスターは早速コーヒーを淹れる準備を始めた。私は無言でその様子を眺めている。

「紗季菜さん、でしたね。今までどんな作品をつくってきたの?」

 ふいに声をかけられた。このお店の店員さんだ。すごく優しい声で、ニコリと笑った顔がとても素敵な人だ。

「あ、はい。最初は男子部員がつくったガンダムシリーズの背景を手がけてたんです。これがどんどんエスカレートしてきて。あ、写真あるので見ますか?」

「わぁ、見たいみたい」

 店員のおねえさんがはしゃぐ姿もかわいらしい。私はスマホを取り出し、今までの作品をおねえさんに見せた。

「すごぉい。背景にリアリティがあるから、模型もすごく引き立つよね」

「そうなんです。私はすごくリアリティにこだわっているんです。なるべく自然に見えるように、いろいろな絵画を見て色使いを研究しています。しかも、ただリアルにするだけじゃなく、作品に感動を与えたい。そんなものをみんなで作りたいんです」

「壮大な想いがここには込められているんだね」

「はい」

 ここまで語って、ふと思い出した。お父さんも、自分の看板には想いが込められているという話をしたことがある。ただ文字や絵を掲げるだけじゃない。ここには看板を出したい人の気持ちを込めなければ意味がない、と。

 私、お父さんと同じこと言ってる。

「お待たせしました。シェリー・ブレンドです。飲んだらぜひ感想を聞かせてくださいね」

 マスターがカウンター越しにコーヒーを渡してくれた。私はコーヒーには砂糖とミルクを入れないと飲めない。が、このコーヒーの香りは今までのものとはちょっと違うのがわかった。そこで、興味本位にそのままブラックで飲んでみようと思った。

 カップを手にとり、ゆっくりと口に運ぶ。カップが鼻に近づくと、その香りは更に強くなり、私の心を刺激する。これは何かありそうだ、そんな予感がした。

 そしてコーヒーを口にする。独特の苦味が一瞬口の中を襲う。やっぱり砂糖とミルクを入れればよかったかな。そう思った瞬間、別の味が私の舌を覆った。

 複雑な味。苦いけれど甘い感じもする。かと思うと、ちょっとだけ酸味というか、いや旨味というか、なんだかよくわからない。ごちゃごちゃした感じ。さらに飲み進めると、今度は一瞬にしてそのごちゃごちゃが一つの、何とも言えない表現の味に統一された。まさに「うまい」とはこの味のことだ。

「えっ、なに、これ?」

 なんだかわからないけれど、例えて言うなら舞台でバラバラに踊っていたものが、合図とともにピタリと動きがそろった感じ。

「どんな味がしたかな?」

 マスターの言葉で、ハッと我に返った。さっきまで感じていた感覚、あれは何だったのだろうか?

「えっと、なんだか不思議な感覚がしました。口の中でバラバラに感じていた味が、一瞬にしてうまいって味にそろった。そんな感じです」

「なるほど、バラバラだったものが一瞬にしてそろった、か。それが今の紗季菜さんの望みなんだね」

「えっ!?」

 そう言われるとその通りだ。今、部はばらばらの状態。これをなんとかしてそろえたい。でも、どうすればいいのかわからないから、今ここに来ているんだ。

「じゃぁ、もう一つ質問しよう。紗季菜さんはどんな部をつくりたいと思っているのか、それを聞かせてくれるかな?」

「私がつくりたいのは、感動を与えられる作品です」

「感度を与える作品か。それはつくりたい作品だよね。つくりたい部はどんな姿をしているかな?」

 マスターの質問で、もう一度考えてみた。私はどんな部を作りたいのだろう?どんな作品を作りたいのかは、常に頭のなかに描いている。けれど、部の姿に対してはよくイメージできていない。

「私がつくりたい部…」

「じゃぁ、そのことを考えながら、もう一度シェリー・ブレンドを飲んでごらん」

 マスターの言う通り、私は自分がどんな部をつくりたいのかを考えながらコーヒーを口にした。

「えっ、なんで?」

 このとき、私が真っ先に頭に浮かんだものは、なんとお父さんの顔だった。どうしてこんなときにあんな人の顔が浮かんでくるのよ。これって何かの間違いじゃないの?

「どうだったかな?」

「あ、えぇ、その…」

 まさか、お父さんが浮かんできただなんて言えない。

「あまり口にしたくないのかな?」

 そう言われてしまうとその通りなのだが。マスターの前では隠し事はできない。そんな気がした。だから思い切って口にしてみることにした。

「実は、さっき真っ先に頭に浮かんだのがお父さんの顔でした。でも、私はお父さんって大嫌いなんです。なのにどうして…」

「そうなんだ、お父さんのことあまり好きじゃないんだね。ちなみにお父さんってどんな人かな?」

「お父さん、私が小さい頃にデザイナーになるとか言って、看板屋の仕事を始めたんです。そのおかげでお母さんとはお金のことでいつもケンカしてて。なんか自分勝手で、わがままで。でも、外面は良くてやたらとひょうきんで。周りからの評判は良くて」

「さらに看板の評判はとても高い。そうじゃないかな?」

「はい…」

 マスターはお父さんのことをズバリ言い当てた。まさにその通りだ。けれど、それと私がつくりたい部とどう関係しているのだろうか?

「紗季菜さん、ここからは私の推測になるけれど話していいかな?」

「どうぞ」

「紗季菜さんはお父さんのこと嫌いだ、と言っていたけれど。心の奥では職人としてのお父さんを尊敬しているところがあるんじゃないかな。自分の理念を曲げない、みんなに喜んでもらえるように振る舞いたい、そんなところを真似したいという願望を持っている。そう感じたんだよ」

 マスターに言われて気づいた。私が真似したいというより、それは私そのものじゃないか。私は自分の思いを曲げたくない。そしてみんなに喜んでもらえる作品を作りたい。私の部も、そんな人達の集団にしたい。

「そうです。私、そんな人になりたいし、そんな人だって自分で自覚しています。だから私の部もそうしたい」

「その思い、部員に伝えたことはあるかな?」

 私は首を横に振った。

「だから、まだ部員がバラバラなんだよ。その思いをしっかりと伝えないと、人はついてこないよ」

 このときお父さんのことが頭に浮かんだ。お父さんは職人としての想い、話してくれたことあったかな?

「あの、ちょっと的はずれかもしれませんが。お父さんと私、とても似ているってよく言われるんです。今回のことも、お父さんの行動と私の行動が似ているなって、そう思ったんです」

「そうかもしれないね。ちなみにどんなところが似ているんだい?」

「はい。お父さん、自分の想いを私たちに伝えたことがないなって。どうして看板屋をやっているのか、どうしたいのか、それを私は聞いたことがありません」

「なるほど、まさに今の紗季菜さんと同じだね。子は親の鏡とよく言われるけれど、まさにその通りだ」

 子は親の鏡。そういうのは耳にしたことはある。けれど疑問がある。

「子は親の鏡って言いますけど、そうなると私の人生ってお父さんのやることに支配されてしまうってことですか?」

「さすがにそこまではないだろうけれど。これは子どもの性格ややることは親に似るということだからね。けれど、自分がやりたいことは自分で切り開く、これが鉄則だよ」

「でも、私の性格や今やっていることは、全てお父さんにそっくりなんです。無意識にそんなふうになっているの、なんだか許せない」

 許せない。だって私はお父さんのこと、大嫌いだから。けれど、どうしても憎みきれない。

「紗季菜さん、そういえばお父さんは今度テレビ取材を受けるんだったよね」

「はい。それに私達の部も出ることになって。それで下級生ともめているんです。下級生というより、忍っていう一年生の男子一人が私にやたらと反抗してくるんですけどね」

「ははは、まさに紗季菜さんがお父さんに反抗しているのと同じだね。部の下級生も、子どもと同じようなものだよ」

「ということは、私がお父さんに反抗するのをやめれば、忍も犯行をやめるってことなんですか?まさか、そんなこと…」

「案外そういうものよ」

 突然、店員のおねえさんが横から割って入ってきた。

「そういえばマイも似たようなことがあったよなぁ」

「うん、高校二年の頃だったかな。あの頃は私もなぜだかお父さんが嫌いで。やたらと反抗してたなぁ」

「そうそう、お前、朝からやたらとプリプリしてたもんなぁ。あ、マイは私の教え子だったんだよ。二年生のときの担任でね」

「ちなみに、マスターは今のマイダーリンなの」

 やたらと仲のいい二人に見えたけど。まさか、そういうことだったとは。にしても年の差ありすぎじゃない?

「でね、そのときに部の下級生ともめてたのよね。理由は覚えてないけど、よく口喧嘩してたな」

「それで、どうなったのですか?」

「これがね、おもしろいのよ。なにがきっかけだったか、これも覚えていないけれど。お父さんにいろんなことを頼り始めたら、お父さんのことが嫌いじゃなくなってね。そうしたら、いつのまにか下級生との仲も良くなっちゃって」

「どうしてそうなるんですか?理由がわからないです」

「それは私から説明しよう」

 今度はマスターが言葉をはさんできた。

「マイがお父さんに反抗していたとき、私の目から見ても、誰も寄せ付けないぞってオーラーを発していたんだ。仲のいい友達は寄せ付けるけど、ちょっとでも気に入らない人に対してはそう感じていただろうね」

 あ、ひょっとして今の私がそうなのかもしれない。

「けれど、いつの間にかその寄せ付けないオーラがなくなってね。すごく話しやすい女の子に変わっていったんだよ。そのころからだったよな、私とよく会話をするようになったのは」

「えー、そうだったんだ。それは私も知らなかった。自分のことなのに、驚愕の事実だわ」

 おねえさんも自分のことがわかっていなかったんだ。けれど、私も同じように変われるかもしれない。いや、変わらなきゃいけない。部のためにも、作品のためにも。

「じゃぁ、私もお父さんと話せるようになれば、部も変わるんでしょうか?」

「そうだね。けれど無理をする必要はないよ。お父さんも変わらなきゃいけないと私は思っている。ひょっとしたら、今がその時じゃないかな」

 確かに、今度の取材のことで今まで以上にお父さんと絡むことになる。テレビ取材を成功させることも大切だし。

「私から紗季菜さんに一つ提案があるんだけど」

「はい、どんなことでしょうか」

「もうちょっとお父さんを頼ってみるといいよ。作品についても、部のことについても。お父さん、きっと喜んでいろいろとアドバイスをしてくれるはずだよ」

 お父さんを頼ってみる、か。看板職人として、そしてアーティストとしては確かに一流の腕は持っている。取材を機に作品についてアドバイスをもらうのもいいかな。

「わかりました、そうしてみます。ありがとうございます」

 このあと、学校のことなどをいろいろと話して、午前中のうちに家に帰った。そして作戦を練ってみた。

 私は作品を、感動を与えるようなものにしたい。そのためにはまずは部のみんなにきちんと方針を伝えること。その方針を明確に掲げること。それを合言葉にしてみること。これを紙に書き出した。

 午後二時、テレビ局の人が打ち合わせにやってきた。私も参加するように言われていたので同席。そのとき、テレビ局の人がこんな質問をお父さんに投げかけた。

「どのような方針で、いままで看板職人としてやってこられたのですか?」

 これに答える時、お父さんはなぜか一度私の方を見た。そしてこう答える。

「私はね、ただ頼まれてその通りにやる看板屋になりたくなかったんです。どうすれば見た人が印象に残るだろうか、どうすれば依頼されたところの利益につながるだろうか。そしてどうすれば感動できる看板になるだろうか。そのことを常に頭に思い描いて今までやってきました」

 あ、私と同じだ。お父さんのこだわりはそんなところにあったんだ。お父さんの言葉は続く。

「その想いがみなさんに浸透するまでには時間がかかりました。どうして依頼通りにつくってくれないのか、なんていうクレームもたくさんありました。そのために一時期は家族にとても迷惑をかけてしまいました。けれど、最後はやってくれてよかったという声をたくさん頂いています」

 お父さんの看板にかける想い、初めて知った。ちょっと感動したな。

「お嬢さんは、お父さんの今の想いをどう感じましたか?」

 突然話を振られて、私は思わずこう答えてしまった。

「あ、とても素晴らしいことだと思います。私もお父さんを見習って、自分の部で感動できる作品を作りたいです」

 あちゃ、言ってしまった。これでお父さん、さらに調子に乗るぞ。と思ったのだが、お父さんは意外に冷静に私を見つめていた。

「いいですねぇ。じゃぁ、本番もこんな感じで受け答えをしてもらおうと思いますので。当日はよろしくお願いします」

 テレビ局の人、自分が思ったような展開になったので嬉しそうな顔で帰っていった。

「紗季菜、ありがとう。お父さん、これからも感動できる作品作りを頑張るからな。そして紗季菜の部に対しても、できるだけ手伝うから」

 ここでマスターの言葉が頭をよぎった。

「もうちょっとお父さんを頼ってみるといいよ」

 じゃぁ、早速ちょっとだけ頼ってみるとするか。

「じゃぁさ、月曜日にうちの部に来てアドバイスしてくれる?もうちょっとで完成なんだけど、何か一つ足りない気がするの」

「よし、わかった。ぜひ手伝わせてくれ」

 なんとなく、お父さんとの距離が近づいた気がする。さて、今度は私の番だ。月曜日には部に対しての方針をみんなに伝えなきゃ。ちょっと気合が入るな。

 そして迎えた月曜日。この日の放課後、私は部員を集めて自分の方針を伝えることにした。

「ちぇっ、なんかかったるいっすよ。さっさと作業始めましょうよ」

 相変わらず忍は私に反抗してくる。が、すでにお父さんが後ろに控えているせいか、それ以上露骨には攻めて来なかった。

「みんな、作業前に集まってくれてありがとう。私、この部をどんな形でまとめていこうか、ずっと悩んでいたの。私の想いとみんなの想い、これがずれてはいけない、そう思うの」

 みんなは私の方を向いてくれている。その中でお父さんだけが大きくうなずきながら聴いてくれている。それを見て、なんとなく安心した。これでいいんだって、そんな感じがした。

「それで、私がこの部を通じて、作品を通じてどうしたいのかを伝えるね。私はジオラマで皆を感動させたい。印象に残る作品を作りたい。そのためには、単にリアリティにこだわるだけじゃなく、もうひと工夫必要だと思うの」

 今度は二年生部員が大きくうなずいてくれる。私の想いが伝わったようだ。けれど一年生、特に忍は腕を組んで私を睨みつけている。

「もうひと工夫があれば、私達の作品はもっと輝くと思う。そのために今日は父に来てもらいました」

 お父さんを紹介する。すると、いつになく真面目な顔つきで皆の前に立つ。

「こんにちは、私が紗季菜の父です。私は看板屋として今まで、見る人を感動させることを理念に仕事をやってきました。今回も、みなさんの造った作品が多くの人を感動させるように、厳しくアドバイスをしていきます。じゃぁ早速見せてもらいましょう」

 あんな顔つき、今まで見たことがない。これが職人の顔なんだ。

 お父さん、作品を見るなりいろんな箇所を厳しくチェックしはじめた。この部分の色はもっと深く、ここは高さをもっと低くしたほうがいい、などなど。

 私がかなり気合を入れて色付けをした部分に対しても、もっと深みのある色をつけろと指摘された。

 ただ指摘するだけではない。絵の具を使って実際にやってみせる。すると、部員からは驚きの声。ちょっと色を足すだけで、こんなにもリアルに、深みのある光景に変わるとは。

 この変化には私も、部員も、そしてあれだけツッパっていた忍も目を丸くした。やはり、プロが手を加えると大きく変化するものだ。

「私が指導できるのはここまで。これ以上やってしまうと、私の作品になってしまうからね。君たちならこの先、できるはずだ。期待しているよ」

 お父さんが手を加えたことで、ほんの一部だけれど私たちは感動を感じた。そうよ、これ、これなのよ、私が求めていたものは。

 すると、なんとあの忍がお父さんに対してこんなことを言うではないか。

「オレ、すごく感動しました。こんなふうにできるものなんですね。すごいです。ぜひオレを弟子にしてください!」

 おいおい、いきなり弟子ってなんなんだよ。

「ははは、まいったか。これが私の実力だ!」

 あちゃっ、急におちゃらけにぎやか親父に変身してしまったよ。ほんとにお父さんってひょうきん者なんだから。

「ねぇねぇ、紗季菜って本当にお父さんにそっくりだけ」

「えーっ、どこが?」

「ほら、マジメだと思っていたら、急にあんな風にお調子者にちゃっちゃうし」

 うっ、それは否定できない。でもいいか、今回のことでお父さんをちょっとは見直すことができたし。

 それから私達の作品作りは大きく変わった。どうすればお父さんのように、もっと作品で感動を与えられるのか。そこについて話し合い、そしていろいろな工夫を重ねてようやく作品が完成。

 そして今日はいよいよテレビ取材の日。早速私達の作品を、テレビ局の人たちに見てもらった。外部の人には初披露となる。

「すごぉい!」

 取材に来たアナウンサーの一言、これはお世辞でもなんでもないことがわかった。声に出したのはアナウンサーだけだったが、カメラマンもディレクターの人も、目を丸くして、食い入るように私達の作品を見ていた。

 そう、これ、これなのよ、私が欲しかったものは。部員たちを見ると、私と同じような思いを感じているようだ。特に忍はすごく満足げな顔をしている。

 取材もトントン拍子に進み、いよいよ私へのインタビュー。

「こんなお父さんを、紗季菜さんはどう思っていますか?」

 そうしてマイクを向けられた。その瞬間、私の脳裏には「お父さん大嫌い」と言っていたときの自分が走馬灯のように流れていた。そう言っていた頃の自分が、なぜか昔話のように感じられていた。

 けれど、今はまったく違う感情が湧いてきている。お父さんは皆のために、そして私達家族のために一生懸命やってきた。その苦労が今報われているときなのだ。

「はい、お父さんは私に似てすごくこだわるところはこだわり、おちゃらけるところはおちゃらける、変な人だと思います」

「おいっ、それはお前がオレに似ているんだろうがっ!」

 お父さん、ナイスツッコミ。私のボケ、わかってくれたな。

「ははは、紗季菜さんってお父さんに似てなかなかユニークな方ですね。けれど、そのお父さん似の性格がこのようなこだわりのある、素晴らしい作品を生み出したのだと思います」

 インタビュアーのアナウンサーのおねえさん、なかなかいいことを言ってくれるなぁ。こんな感じで、笑いにも包まれながら取材は終了。おかげで部も和やかな雰囲気に包まれた。

 終了後、みんなはお父さんにお礼を言いに来た。特に忍はやたらとお父さんを慕ってくる。それどころか、こんなことまで言い出した。

「これからは部長に従って、皆を感動させる作品作りを行っていきます」

 忍、なかなかかわいいところあるじゃない。ちょっと今までとは見方が変わってきたかな。

 こうやって部もまとまり、作品も完成した。この作品をしみじみと眺めながら、こんな言葉が口から飛び出した。

「お父さん、ありがとう」

「うん、紗季菜のためなら、お父さんこれからなんでも応援するからな。その代わり、作品に対しては厳しいぞ」

「わかってる。そこは私ゆずりな性格だから」

「それは逆だろうがっ!」

 こういったボケとツッコミも忘れない。

 あらためて思った。私、お父さん大好き。この人の娘に生まれてよかった。


<お父さん、大嫌い 完>

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