『重課金』と引き換えに
貴方は『大切な物』と引き換えに、自分の欲求を満たしますか?
私は、戦っていた。ゲームのキャラクターに限定キャラが追加され、持てるあまりの資金を投入し召喚していた。
「もう、止めときなよ。」
彼氏の海斗は、そんな私を見て止めに入るけど
「欲しい物は、欲しいの!」
呆れる海斗を振り切って、私は課金を続けていた。でも、世の中は甘くなく目的のキャラクターは一向に出る気配が無い。資金も尽きてきた頃
「重課金コース…?」
ふいに現れたその項目は、初めて見るものだった。赤く塗られた文字は、少し不気味な感じがしたけど
「大切な物と引き換えに、キャラクター召喚が出来ます…。」
ふわっとしたその内容で、一瞬迷った。どうしよう…、だけど…
「まぁ、一回くらい…」
この時は、とても安易な気持ちだった。
「出ない!もっかい!!」
「まだ、課金しているの?いい加減に」
「これ凄いの!ボタンを押すだけで、課金しなくても召喚出来るの!」
「え…それ大丈夫なの…?」
あの重課金コースを、何度も何度も選択し、大量のキャラクターを召喚していた。
だけど、目当てのキャラクターは出ない。でも、私はこの重課金コースを選択する限り、無敵だ。身の回りの変化も一切ないし、永遠に召喚出来る!
「今日さ、俺があげたピアス付けてたよな?」
「うん、付けてき…あれ…?」
海斗に指摘され耳に手をやると、付けていたはずのピアスが消えていた。
「どこかに落としたかな…」
『大切な物と引き換え』ふとこの言葉が頭に浮かんだ。まさか、そんな、はずは…
不安な気持ちに襲われ、まだこの『重課金コース』を選択するか迷っているときだった。
「次の重課金コースは…課金無しで、好きなキャラクターを選択して召喚出来る!??」
今の私にとっては、天にも昇るコースが現れた。やっと、この悪夢から解放される…。私は、疑いもせずそのボタンを押した。概要欄を読まずに。
「きたっ、きたぁぁ!!」
ついに、手に入れることが出来た…。
「海斗!見て!」
出たキャラクターを見せようと、海斗を探したが、どこにも見当たらない。さっきまで、そこのソファに座っていたのに…。買い物にでも行ったのかな?とにかく、今はこのキャラクターを眺めることが先だ!
この時の私は、本当にバカだった。
海斗はあの日を境に消息不明だ。一切連絡が取れていない。
数日後、ゲームに新キャラクター『KAITO』が追加された。