青薔薇と星の国
クリスマスが終わっても、年が明けても、セイラさんの行方は、わからないまま。
どこに居るんだろう……。
私と同じ世界に居るはずなのになぁ。
マンションの部屋も、わかるはずなのに。
どこに居るの、セイラさん。
会いたいよ……。
二月。
もうすぐバレンタイン。
セイラさんに、チョコ渡したいけど。
会えないんじゃ、渡せない。
土曜日だけど、今日のアルバイトは休み。
何もやることがないから、部屋でぐうたらしますか。
気晴らしに、散歩もいいな。
掛け時計を見る。
十一時半。
マンション近くは、いろんなショップがあるから、ウィンドウショッピングしようかな。
早速、準備しよ。
あ、これ、大学で噂になってるカフェだ。
SNS映えするパンケーキが、あるんだよね。
行ったことないから、わかんないけど。
帰りに、ここでカフェランチしようかな。
しばらく歩いて、駅前にやって来た。
新しいショップがある!?
『青薔薇と星の国』?
スタンド看板が出ているけれど、なんのショップなんだろう。
『夜咲星楽のタロット、星座占い 秘密は必ず守ります』
占いのお店かぁ。
興味あるけど、お金が心配……。
やってみたいけどなぁ。
入り口は、地下なんだね。
一回くらいは、やってみようかな。
階段を降りて、洋風の扉を開ける。
中は薄暗くて、なんだか不思議。
天井には星のオーナメントが吊るされて。
心地よいベルの音。
「いらっしゃいませ」
なんだか、聞き覚えのある声。
顔がはっきり見えない。
「どのような、ご相談でしょうか?」
「えっと、初めて占ってもらうので、良くわからないんですけど。会いたい人がいるんです。上手く説明できないけど、すぐに別れることになってしまって。その人に、もう一度会えるか、占ってもらえますか?」
「わかりました。どうぞ、こちらへ。暗いので、足元に気をつけて」
通された場所には、青薔薇の一輪挿しが置かれた丸いテーブルと椅子が置かれた、あまり広くないスペース。
「お掛けください」
声の主に促され、座る。
「待ち人でしたね。早速、占いましょう」
なれた手つきで、タロットカードをシャッフルして、並べていく。
「出ました。あなたの待ち人ですが、もうすぐ。いえ、もう既に、会えていますよ」
「どう言うことですか?」
「まだ、わからない?」
「えっ?」
「僕から、また会いに行けばよかったよね」
まさか、占い師さんは……。
夜咲星楽さんは……。
「セイラさんなの?」
「そうだよ!」
「こんな近くに居たんだね」
「会いに行きたかったんだけど、僕も人間として色々やることがあって。ごめんね」
私は、首を横に振る。
「全然。寂しかったけど、セイラさんを信じていたから」
「ありがとう。ありすちゃん」
「占い師さんになったんだね。似合ってる!」
「僕にできそうなことが、これくらいしかなかったんだ」
「凄いよ!」
「ありがと」
「素敵なお店だし、お客さん、たくさん来るでしょ?」
「それなりにね」
「ねぇ、セイラさん。午前中は何時までやってるの?」
「十二時までやってるよ」
お、ちょうどいい!
「午前中終わったら、一緒にランチしませんか?」
「ランチ? 一緒に?」
「ダメかな?」
ちょっと間が空く。
ダメそうかな……。
「いいよ。ありすちゃんからのお誘い、初めてだから断れないよ!」
「じゃあ、決まりだね!」
やった!
「もうすぐ終わるから、待っててね」
「はーい」
あれ?
なんだろう。この気持ち。
セイラさんに会えて嬉しいはずなのに。
胸がキューっと締め付けられるような……。