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奇跡は白く染まる

「着いたよ」

 到着したようで、私を降ろしてくれた。

 森の中?


 視線の先にあったのは……。


「観覧車!」

 目の前に、大きな観覧車があった。


「ここは、遊園地なの?」

「ものすごーく小さいけど、遊園地だよ。あの時、案内できれば良かったんだけどね」

「あとは、何があるの?」

「あとはね……。メリーゴーランドくらいかな」

「おぉ! 楽しいアトラクションばかり!」

「二つだけの遊園地だけどね」


「セイラさんは、どっちにする?」

「観覧車にしよっか。こっちから乗れるよ」

 セイラさんに連れられ、一緒に観覧車に乗る。

「どうぞ」

 ゴンドラの扉を開けてくれた。


 エスコート!

 変わらないなぁ。


 ゴンドラの中は、ほんのり暖かくて、良い香り。

 座ってから、セイラさんに聞いてみた。


「これは、何の香り?」

「えーっと、ラベンダー。だったかな」

「良い香りだよねー」



 徐々(じょじょ)に昇っていく、ゴンドラ。

 森の木々より高く昇ると、景色がひらける。


「わぁ! 星の国が一望出来る! あ、お城!」

 夢中になっちゃうよ。


「楽しんでもらえてるようで、僕も嬉しいよ」

「セイラさんは、この場所によく来るの?」

「時々ね。ひとりだから、つまらないけど」


 そうだった。

 私と出会う前も、その後も。

 セイラさんは、この星の国で、ひとりぼっちだったんだ。


「ごめんね。変な空気になっちゃったよね」

「全然。私の方こそ、ごめんなさい」



「あのね、ありすちゃん」

 セイラさんが、話し出した。


「僕ね、ありすちゃんと同じ世界で、暮らせるようになったんだ」


「えっ?」

 どう言うことだろう。


「どう言うことなの?」

「神様にお願いした。最初は、聞き入れてもらえなかったんだけど、何度もお願いしたら、許してもらえたんだ」

「ずっと、同じ世界にいられるの?」

「タイムリミットはないよ」

「本当に?」

「本当だよ。信じてもらえない?」

「信じるよ!」

「それとね、僕がこの国を出たらね……」

 真剣な表情で、セイラさんが続ける。


「この国は、真っ白な世界に変わってしまうんだ。お城もメリーゴーランドも。もちろん、この観覧車も消えて無くなる」

「そんな……」

「全て消え去るんだ。星の国は、無かったことになる。僕は、星の国の王子として暮らしてたけど、僕が居なくなると、星の国は消滅してしまうんだ」

「なんで……? なんで、消滅するの? 他の天使さん、居ないの?」

「居るんだけど、星の国は、僕だけの監獄なんだよ」


 監獄。

 セイラさんの口から、放たれた言葉。

 なんでだろう。涙が、溢れてくる。

 セイラさんも、目に涙を浮かべているみたい。


「星の国は、監獄なんかじゃない。セイラさん、すごく楽しいでしょ? 私は、楽しいよ。こんなに楽しい国は、監獄なんかじゃない!」

「監獄だよ。星の国には、僕以外は来ちゃいけないんだ。でも、星たちが掟を破って、ありすちゃんを連れてきてくれた」

「私のせい?」

「ありすちゃんは、何も悪くない。僕がいけなかったんだ。神様を、怒らせなければ……」

「星の国は、セイラさんが居なくなれば、消滅するんだよね?」

「そうだよ。監獄だけど、僕にとっては、家みたいな場所だから、本当は消えて欲しくない」


 どうしたら良いんだろう。


 セイラさんが、私の暮らす世界に来たら、星の国は消滅する。

『監獄』って言ってたけど、セイラさんにとっては家なんだ。

 それが、永遠に消えてしまうなんて。


「大丈夫だよ。セイラさん!」

「ありすちゃん?」

「絶対に、星の国は、消えて無くならないよ!」

「どうして?」

「私たちの心の中に、思い出として残り続ける!」

「心の中?」


「そう! 私には、十三年前に初めて来た思い出と、今日の思い出」

 それとね。


「セイラさんには、私と出会う前からの、星の国での生活。それが思い出」


「ありすちゃん……」

「だからね。悲しむことはないよ!」

「ありがとう。星の国で、ありすちゃんに会えたことが、一番の思い出だよ。この場所があったから。星の国があったから、ありすちゃんに会えた」


 良かった。セイラさん、笑顔になったくれた。


「僕は、日付が変わるとすぐに、ありすちゃんと同じ世界に転移させられる。そして、人間になるんだ」

「星の国には、あとどれくらい居られるの?」

「あと、一分」

「観覧車は、あとどれくらい?」

「同じくらいかな」

「じゃあ、もうすぐ……」



 気がついたとき、視界に入る景色は、全て真っ白だった。

 私ひとりだけ?

 セイラさんは、どこ?

 辺りを見渡すけど、誰も居ない。


 セイラさーん!


 私の声は、虚しく響くだけだった。

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