夢から覚めて。この時を待っていた。
気づいたら、わたしは、リビングにいた。
「あれ? ここは……」
見なれたけしき。
足元には、ウサギとシルクハットのクマのぬいぐるみ。
星の国を描いたイラスト。
「本当に、もどってきちゃった」
だけど、わたしの手には。
セイラさんからもらった、お星様のオーナメント。
「ゆめじゃなかったんだ」
セイラさん……。
わたしが、おとなになるまで会えない。
そんなの、ヤダ。
なんだか、ねむくなってきた……。
ベッドに行こ。
***
はぁ。
思い出しちゃった。
あれから、十三年。
大人になってから、初めてのクリスマスイブ。
あのオーナメント、持っているのに。
セイラさんのこと、ずっとずっと忘れなかった。
なのに。
セイラさんの嘘つき。
二十三時。
あと一時間で、日付が変わる。
『ありすちゃんが大人になって最初のクリスマスイブ。その日にまた会おう』
あの時言ってたこと、嘘だったんだね。
私を悲しませないように。
はぁ。
ため息しか出ないよ。
星でも観ようかな。
部屋の明かりを消し、ベランダに出る。
空を見上げるけど。
「建物の明かりで、星なんて見えないよね……」
期待なんてしてなかったけど、ちょっとショック。
ピンポーン。
突然鳴り響く、玄関のチャイムの音。
誰だろう。
こんな時間に。
「はーい」
急いで玄関に向かい、小窓から外の様子を確認する。
王子様みたいな装いで、白いシルクハットを目深く被った人が立っていた。
誰なの?
下を向いているようで、顔が見えない。
扉を少し開けて、扉の向こうに声を掛ける。
「どちら様ですか?」
「夜分遅くにすみません。久住亜李朱さんのお宅は、こちらでよろしいですか?」
聞いたことがある声が返ってきた。
どうやら、男の人。
「そうですが……?」
「よかった」
声の主は、白いシルクハットをとり、私を見据える。
「えっ……。なん、で……」
その人の顔がわかった瞬間。
無意識に手で口元を隠し、消え入りそうな声だけど、なんとか出た。
「あの時の約束を、果たしに来ました。my little princess」
今、私の前にいるのは。
ずっとずっと待ち望んでいた、あの人。
「セイラさん!」
扉を全部開け、思わず、セイラさんに抱きついてしまった。
「やっと、会えた……」
涙が溢れてくる。
「ごめんなさい。やっと、セイラさんに会えたのに」
セイラさんはすかさず、私の涙を拭って、抱きしめてくれた。
「待たせたね。やっと、ありすちゃんに会えた」
誰も、この階の通路を、通りませんように。
今は誰にも、邪魔されたくない。