12時の鐘と別れのワルツ
「オーナメントを付けるまえも、きれいだったけど、お星様がかがやいてる今のツリーは、もっときれい!」
「そうでしょ! ありすちゃんが手伝ってくれたからだよ!」
セイラさんと手をつないで、見上げる。
「そうだ、ありすちゃん」
手をはなして、わたしの前に来ると、片ひざをついて、右手がさしだされた。
なんだろう?
「僕と、踊りませんか? my little princess」
王子様とダンス!?
なんだか、シンデレラになった気分。
へんじは決まってるよ。
もちろん!
「はい。よろこんで!」
セイラさんの右手に、わたしの右手をかさねる。
「あ、でもわたし、ドレスきてない……」
セイラさんはニコっと笑うと、むごんのまま、ゆびをパチン。
お星様と青い花びらが、わたしをつつみこんだ。
「わー! セイラさん、すごいすごーい! キレー!」
気づいたら、わたしは、青いキラキラのドレスをきてる。
「my little princess」
ふたたび、セイラさんの右手がさしだされた。
セイラさんの右手に、わたしの右手をかさねると、どこからか不思議な音楽が。
「星たちが奏でる、円舞曲だね」
「わるつ?」
「ダンスの曲さ!」
セイラさんがリードしてくれて、お城の中庭で、二人だけのダンスパーティー。
「楽しい?」
「うん! 楽しいよ!」
このじかんが、ずっとずっとずっと。
このまま、セイラさんといっしょにいたい。
すると、お城の大きなベルが鳴り響いた。
セイラさんの悲しそうな顔。
「時間みたいだね……」
「じかん?」
「ありすちゃん。もう、お別れみたいだ」
足を止め、セイラさんの口から、告げられた一言。
「おわかれ……?」
「僕たちが一緒に過ごせるのは、クリスマスイブの夜だけなんだ。この鐘の音は、時間を教えてくれるんだけど……」
セイラさんの目に、涙が。
だけど、ニコってほほえんで。
「ありすちゃんと、もっと一緒に過ごしたいけど、神様が許してくれないみたい」
そんな……。
「わたしがいなくなったら、セイラさん、またひとりぼっちなの?」
うなずくだけのセイラさん。
「かみさまにおねがいして、もう少しだけでも……」
「出来ないよ。僕は神様に叱られて、この星の国に送られたんだ」
「でも、さみしいでしょ?」
「僕は大丈夫。クリスマスイブを、ありすちゃんと一緒過ごせただけでも、凄く楽しかった」
空にかがやいてるお星様がひとつ、ながれぼしになって、わたしとセイラさんの間にあらわれた。
「お別れだね」
「そんなのヤダ。セイラさんといっしょにいる!」
「帰らなきゃ、パパもママも悲しむよ?」
「それもイヤ!」
わたしの目にも、なみだがあふれて。
少しこまったような、セイラさんだけど。
「じゃあ、約束しよう。ありすちゃんが大人になって最初のクリスマスイブ。その日にまた会おう」
「次のクリスマスイブは、ダメなの?」
「神様が許してくれないよ。ありすちゃんが大人になるまでは」
「おとなになるまで、セイラさんに会えないの?」
「うん。受け入れてもらえないかな?」
きっとかみさまに、わがままなんて通じない。
「うけいれるよ」
なみだがこぼれ落ちる。
「わたしのこと、わすれない?」
「忘れないよ。絶対に。約束する」
「ほんと?」
「本当さ。信じてもらえないかもしれないけど」
「しんじるよ。セイラさん」
「わたしも、セイラさんのこと、わすれないからね」
ながれぼしに、乗るかくごができた。
「ちょっと待って」
そう言うと、セイラさんはツリーから、お星様のオーナメントを一つとって、わたしにくれた。
「この星のオーナメントを持っている限り、僕はありすちゃんを忘れない。そして、ありすちゃんも、僕を忘れない」
「ありがと。セイラさん。バイバイ」
わたしが手をふると、セイラさんは、ふり返してくれた
「バイバイ」
ながれぼしが動きだして、空高くのぼっていく。
また、会おうね。セイラさん。
約束だよ。