ふたりに神の祝福を。
午前の営業が終わるまで、お店の外のベンチで待つことに。
「お待たせ。行こっか」
黒いチェスターコートを着て、お店から出てきた。
王子様衣装以外のセイラさん。
占い師さんの時は、薄暗くてわからなかったけど、やっぱりカッコいい。
「どうかした?」
また、やってしまった。
見惚れちゃうんだよね。
「なんでもないよ! 行きたいお店があるんだ! こっちだよ!」
セイラさんの手をとり、あまり顔を見ないように歩く。
行き先は、あのカフェ。
それにしても、すれ違う人たちの視線が凄い。
特に、女性の視線が。
「僕たち、色んな人に視られるね」
「それは……」
それは、セイラさんがイケメンだからですよ!
なんて言えるわけもなく。
「も、もうすぐ、着きますよ!」
カフェに着くと、お昼時でかなり混んでる。
「どうしよ……」
「混んでるね。別の場所にする?」
「その方が、セイラさんには良いよね。でも、この近くだと、他に場所がないよ?大体のお店は混んでるはずだから……」
どうしよう。
セイラさんが、午後の営業に間に合わないよ……。
あー、もう!
こうなったら、奥の手!
「セイラさん、私の部屋にしましょう!」
なんで、あんなこと言っちゃったんだろう。
『後悔先に立たず』って、よく言うけど、今がその状況だよぉ!
セイラさんは、首を縦に振ってくれたからいいけど。
「はぁ……」
キッチンでナポリタンを作りながら、後悔している、亜李朱であった。
なんてね。
「ここが、ありすちゃんの部屋なんだね」
「散らかってるけど、くつろいでて」
リビング兼ダイニングで、セイラさんを待たせてる。
「ありすちゃんは、彼氏いるの?」
ふぇ!?
いきなり、なんの質問ですか!?
「彼氏ですか? いないよ」
パスタをお皿に盛って、粉チーズをかけて。
私の分も一緒に、セイラさんのところに持っていく。
「美味しそう! いただきます」
フォークに、パスタをクルクル。
そして、一口。
ドキドキだよぉ。
「美味しい! ありすちゃん、すっごく、美味しいよ!」
「本当!? お世辞じゃなくていいんだよ?」
「お世辞なんかじゃないよ」
「良かったぁ」
「あのね、ありすちゃん」
フォークを置いて、何かを話そうとしてる。
私も、食べようとした手を止めた。
「僕ね、ありすちゃんのことが、好きなんだ。初めて会った時から、ずっと」
セイラさん?
「もし、ありすちゃんに好きな人がいなければ。ありすちゃんが僕を好きでいてくれるなら……」
そして、続く言葉は。
「僕と、付き合ってもらえませんか? my little princess 」
***
二月十四日。
今日は『恋人たちの日』と書いて、『バレンタイン』。
そう思っているのは、私だけかな?
今年は、たくさん作る予定だから、手作りが難しい。
だけど、なんとか作れた!
家庭教師を担当してる子の分と、大学の友達の分。
そして、本命のセイラさんの分!
バイト終わりに、セイラさんの家に向かう。
セイラさんの家は、『青薔薇と星の国』の地上部分。
スマホで時間を確認。
十九時五十分。
二十時に終わるらしいから、時間的にちょうど良いね。
ベンチで待っていよう。
「あれ? ありすちゃん?」
セイラさんの声。終わったみたい。
「こんばんは。セイラさん! 会いに来ました!」
「こんばんは。家の中に入ろっか。ここだと、なんだし」
扉を開けてくれて、セイラさんの家の中へ。
リビングに通された。
「ありすちゃんは、ご飯食べた?」
「まだ食べてない……」
「何か作ろっか。待っててね」
「はーい」
そんなに待つことなく、セイラさんが白いお皿を2枚、手に持ってきた。
「冷めないうちに、どうぞ」
お皿には、クリームパスタが盛られている。
「これ、セイラさんが作ったの?」
「そうだよ。お口に合えば良いんだけどね」
セイラさんは、私の向かいの椅子に座った。
渡さなきゃ!
「あの、セイラさん! これ……」
可愛い紙袋に入った、手作りカップケーキを渡す。
「これ、僕に?」
受け取りながら、セイラさんは言う。
「うん。手作りだから、味の保証はできないけどね」
「ありがとう。ありすちゃん!」
セイラさんは、おもむろに椅子を立ち上がると、私の横に来た。
私が、セイラさんの方を向くと。
「my little princess」
セイラさんの吐息が近づいて。
それは、長くもなく、短くもない。
チョコよりも甘い、口づけでした。