世界がまだ息をしていた時
とはいえ、何もここまで追い込まれるまで何もしなかったわけではない。
むしろ、まだ世界に抵抗する力が残っていた頃は、それはもう激しく抵抗していた。
いくつか形成されていた生存者コミュニティからトップが選出され、そのトップたちが団結して世界政府を発足。
残された人類は一つとなり、なんとか異世界化を含む異常現象に対する対抗策を練られていた。
考えられる全ての策を実現するだけの力も時間も人類には残されていなかったが、有力な候補をいくつか実行していた。
が、それら有力なものも、全て実現することはなく、いくつかを残して他は全て失敗。
残りも実行される前に、それらを実行するだけのあらゆる力が失われ、とうとう実現することは無くなった。
実際に行われた事例は以下、
1、異世界を破壊する。
単純明快、問題を起こす大元を絶つ実験、
だが、これには問題が多く、どうやって破壊するのか、相手の戦力が不明、そして、仮にも一つの世界を破壊するという行為が非人道的だという意見があり、難しいとされていた。
一度、「あっ、こいつ異世界に呼ばれるわ……」という人間が確認されたことがあり、その人間に数キロトンの熱核弾頭を数百発くくりつけ、あちらに着き次第発射、ランダムな等間隔に着弾させて異世界を破壊できないかという実験が行われたことがある。
結果は大失敗。
くくりつけられた人間だけが姿を消し、ミサイルだけが残された。
2、異世界にいる、召喚する人間を殺害、もしくは拘束。
これは、異世界を破壊するという無茶をしなくとも、あちら側にいる、こちら側の人間を異世界へと召喚する力を持った人間、もしくはその方法だけを無力化することができないかというもので、こちら側の人間があちらへと飛ばされなくする方法だ。
だが、これにも問題があった。
”誰がするのか”
仮に、異世界へ召喚された人間がそれをするに最適であるとする。
が、それは難しいとされた。
なぜなら、
あちら側の召喚する人間は、非常に口が上手いのだ。
なんだかんだ話をするうちに、うまく丸め込まれ、気がつけば寝返って帰ってこない、または連絡が途切れた。
”なら、対抗する訓練をすればいいのでは?”
それも難しい、
誰がいつ召喚されるか、特定できないからだ。
どんなに頑張って訓練しても、一生呼ばれないなんてざらにあるし、訓練中に失踪する危険もあり、そんなことに時間を割きたいと訓練を志願する人間なんていなかった。
これらのことから、異世界にいる大元の無力化も難しいとされた。
ならもう異世界召喚を防ぐ手段はないのか?
そうではなかった。
これまでの実験から分かった問題点は、
1、誰が、
2、どうやって、
3、どの方法で異世界からの召喚を辞めさせるか、
そして、
4、そもそもどうやって異世界へ行くのか?
である。