現在
この世界は、不思議なことが溢れている。
ある日突然、今まで普通の生活をしていた人間が、魔力だ超能力だに目覚めたり、謎の組織に拉致されて改造手術を施され、目がさめると超絶パワーの化け物になっていたり、貞子や伽倻子に懸賞金がかけられていたり、空から名前を書いただけでその相手が死ぬノートが降ってきたり、
ネッシーがいたり、ツチノコが市販ペット
として人気だったり、
空に時空の亀裂が出来て、街一つが何処かへ消し飛んだり、
家でくつろいでいたら、突然足元に謎の魔法陣が発生して吸い込まれ異世界に召喚されたり、謎の手紙が届いて異世界に飛ばされたり、
いつも通りの何気ない朝を迎え、学校へのんびり登校していたら、何処からか突然現れた暴走トラックに突っ込まれ、轢かれて死んだ(殺された)り、
……と思ったら、神だ、女神だがでてきて「あなたは死にました……良ければ”異世界”へ転生してみませんか?」なんて白々しく問うてきたり、結局なんだかんだ理由をつけては異世界へ飛ばされるのだが……
あれは絶対悪意あると思う。
”神の見えざる手”に強制され、人を引いてしまったトラックの運転手さんが可哀想だ。
とまぁ、とにかく様々、なんでもありだ。
そしてそんななんでもありな毎日を続ける現代。
ここ数年、人類存亡を揺るがすある問題が浮上していた。
――世界、異世界化問題。
今現在の世界人口は不明。
ある日突然始まった、度重なる異常現象により、他国、さらには国内ですら、まともに人口を数えるだけの力が失われてしまったのだ。
日本に限定すれば、ある程度数えることは可能だが、わかっている人口は、一億人を切っており、
残された人類がコミュニティと呼ばれる、様々な異常現象から身を守るために集まり、街を高い壁で囲ったり、特殊な技術でバリアを張ったりなど、何かしらの方法で独自に身を守る手段を講じて引きこもっている状態である。
世界的にも、今の日本と同じ状況にあると考えられ、その身を守る手段が突破された瞬間人類絶滅の危機という、かなり深刻な状態である。
こうなった理由は不明。
だが、すべてはこの世に不思議な現象が起き始めたことに始まった。
それはある日突然始まった。
それまでは作り話、フィクションの中で人々が楽しんでいたそれらが、現実の脅威となって襲ってきたのだ。
まず、特殊能力者の出現。
ある日目が覚めたら超能力に目覚めていた。
という事例だ。
その特殊能力を使った犯罪が多発し、ついには大量殺人が毎日のように行われ、人類は大きく数を減らした。
次にクリーチャーの出現。
怪獣、妖怪、モンスター、それまで漫画やゲームの中にしかいなかった、空想上の生き物達が、世界中で次々と発見されるようになったのだ。
しかも、人間含め他の生き物に無害なものばかりでなく、人々に害をなすとされる生き物も同時に発生した。
弱いクリーチャーなら当時残っていた軍が処理できたのだが、それらでは処理しきれなかった凶悪なクリーチャー達が、人々を襲い、ただでさえ人間同士で殺しあって数を減らしていた人類は、あっという間にその数を半減させた。
さらに、街に侵入したそれらにより、それまでの歴史上の人物たちが、長い時をかけて築き上げてきたあらゆるものは破壊され、建物は瓦礫の山と化し、かつて人々の活気にあふれた街並みは、化け物どもの巣とかした。
それまでの社会秩序は完全に崩壊。
もはや文明と呼べるものはほとんど残されておらず、世界中が混乱の渦に包まれた。
それまではなんとか持ちこたえていたコミュニティの自己防衛手段も、次々突破されていき、残された人類が集まって作られたいくつかのコミュニティももういくつ残っているかわからない状態だ。
超能力に目覚めたおかげで、武器がなくともモンスターと戦う手段があり、なんとか絶滅せずにいられるが、それもギリギリ、
毎日、なんとかクリーチャーから身を守って食料問題に頭を悩ませ、生きるのがやっとな日々が続いている。
これは、異世界化と呼ばれ、地球温暖化と同じ異常事態として扱われている。
だが、
それら物理的な脅威もさることながら、コミュニティ内にいても避けられない、今一番大きな問題とされているのが、
”異世界への強制召喚”だ。
――パラレルシフト現象、神隠し。
などとも呼ばれるこの現象。
事あるごとに人畜無害な一般人が、今いる世界とは別の異世界とやらに”召喚”と題して引き摺り込まれたりするあの現象である。
最近では集団で召喚されたりする例も確認されていて、ただでさえわずかな人類は、さらに数を減らし、事態は悪化の一途をたどっている。
こうしている今も、方法は様々に、だが確実に一人、また一人と、罪なき、未来ある人々が、異世界に呼ばれ、飛ばされているのだ。
その数は、コミュニティ内で取れる統計が年間数十万人にも登っており、年々増加し続けている。
それも、なにかしら確証のある事例だけでこの数だ。
まだまだ、確認の取れないものも合わせると凄まじい数の人間が、この世界から旅立っていると考えられるのである。
だがまだ、生を保ったまま異世界へ行けた例は幸いである。
無残に殺され、元いた世界での本人の存在を跡形もなく消され、神などという存在に選択の余地ない選択をさせられた後、異世界などというどんな場所かもわからない世界へと”転生”させられた可哀想な人達は、個人の特定は難しく、もう救いようがない。
さらに、この転生事例は、病死、事故死、もちろんクリーチャーどもに惨殺された場合も含め。どんな形での死も考えられるため、「これは間違いない」と断言することはできない。
故に、事故死に絞って考えても、そのうちのどれだけの数の人間が、姿なき神の、理不尽な力によって殺害、転生させられているのか、知るすべはないのだ。
そうして、殺されたり拉致されたり、確実に人間の数を減らし続けている内に、異世界からの召喚によって出た死者、行方不明者の数が、まだ対処のしようがある他の異常現象に比べて多くなり、他の現象を抑えて最大の脅威にまでなっていたのだ。
今や人一人が変えようのない財産となった現在において、この問題は死活問題であり、ほぼ毎日起きる異世界渡航は、毎日飛んでくる台風や地震などの異常気象より脅威であり、非常に危険なものであると考えられる。
――――もはや社会は消滅した。
隣にいた人が次の瞬間には死んでいるかも知れない。異世界に連れ去られているかも知れない。
もはや、本や、テレビの中の話ではないのだ。
現実世界がもう、かつて想像の中でしかなかった異世界と化しているのだ。
そんな世界。
かろうじて残された、世界中の人類は、
それまでの争いを放棄して、というか、社会自体なくなったことで争う理由がなくなり、一致団結して何とか生き残ろうとしているのだ。