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そうだ、異世界ぶっ潰そう。3

今思えば”杏里”に出会ったことがすべての原因だったんだと思う。


私は正義のヒーローになりたかったんだ。


憎むべき悪を倒し、守るべき大切な人を、この手で守ることのできる正義のヒーローに。


どんな敵にも負けないくらい、圧倒的な力を手に入れて、私の前に立ち塞がるならどんな壁でも木っ端微塵に粉砕できる、そんなヒーローに。


だが――。


――星のない夜空に、夜の街を真昼のように明るく照らす夜景を眺めながら、ふと思い返す。


今となっては、この綺麗な夜景を一緒に眺める友もいない。


みんな死んだのだ。


守れなかった。


そして今、そんな私にも、まもなく死神の手が届こうとしていた。


「打て打て‼︎”やつ”を倒せばこの戦いは終わる‼︎やつを……”蛇”を倒せ‼︎」


ズドドドド‼︎


ものすごい数の光の攻撃が、私めがけて飛んでくる。


360度どこを見ても、視界いっぱいに数え切れないくらいの光の球体が、クリスマスのライトアップみたいにチカチカと形成されては、一定の大きさになると光線となって、こちらに狙いを定め、絶えることなく放たれ続けている。


正義の味方を目指して努力し、力を振るってきた私は、現在、悪の化身として、世界中の人間から、その命を狙われていた。


いつか誰かが言っていた。


――正義の味方には、望めば誰にでもなることができる‼︎


と、


ホント誰だ?そんないいかげんなことほざいたやつは?


全く……、


結局こうなったじゃないか、


この戦いが終われば、きっと先に逝っているであろう、そいつを見つけ出して一発文句を言ってやろう。


そう心に誓う。


「……まぁ、もし何かの間違いで、ヤツがまだこの世にいるようなら、私が責任を持ってあの世へ道づれにしてやるか……」


そうこう言っている間にも、もう数えられないくらいに増えた光線が、至近距離まで距離を詰めてきた。


一本一本は細い光でも、ここまで束になってくるともう、壁みたいだ。


細いと言っても、その太さは私の腕くらいはあるし、威力はコンクリートの壁を貫通するくらい強烈だ。


痛いし、一発でもくらいたくない。


「――ハァ‼︎」


だから手を横薙ぎに振るう。


それだけで、私めがけて飛んできていた攻撃は、私の体に届くことなく、全てその場で爆発、消滅する。


「くっ……全弾消滅‼︎第1次攻撃失敗‼︎第2次作戦に移行‼︎諦めるな‼︎彼の準備が整うまで、なんとか持ちこたえるんだ‼︎」


”敵”の指揮官と思われる、軍人らしい男のダミ声が聞こえる。


そしてその会話から、相手はこれから何かを始めるらしことが伺える。


今日、彼らは、私を殺すための作戦を、飽きることなく何十時間、何十通りと考え、何百、何千、何万もの人間の犠牲を視野に入れた作戦を決行してきた。


今現在、私の前には、世界中から私を殺したいと思って集まった精鋭達が、うんびゃく万人いる。


世界対一人、


どこかのスパルタですら、もうちょいマシな数味方にいた気がするな……


ボッチはつらいものだ。


連中が集まって私一人をいじめる理由は様々、あるものはただ手柄を上げるため、あるものは仕事として、またあるものは純粋な恨みのもと、


いやいやこの場にいる者もいれば、自ら望んで駆けつけた者もいる。


”三首六目三口の悪蛇”


それが、いまこの場にいる者達が、理由はどうあれ殺そうと武器を向けている相手であり、


今の私の呼び名だ。




……私はこれまで多くの罪を犯してきた。


人を殺し、物を奪い命を奪い……


数えられなくらいの罪を。


きっと、この戦いは、そんな私への罰なのだろう。


罪を犯せば、罰を受けなければならない。


始まりこそ、主に何処かの誰かさんの怒りを買うような真似をしたのが、全ての原因なのだろうが、そんなこと抜きにしても、私はいつかは人の手によって裁かれなければならない。


常々そう思って、ここまで生きてきた。


だからか、どこかで密かにこの状況を望んでいた自分がいる。


だが、


ひとつ、問題がある。


私は、悪の化身。


この世界中に存在するあらゆる"悪"を具現化させた存在である。


悪に属する力では、どれだけ強かろうが、どれだけ頭数を揃えようと、決して私を倒すことはできないのである。


そして、罪は、いうまでもなく、悪に属する力である。


罪、


それは、この世に存在する全ての存在が、等しく犯している、正しくないとされる行為、規律に反する行為である。


悪である私を倒すため、武器を持つ行為、


それは、一見正しい行為に見える。


が、それも、


命を奪う行為、


と考えるなら、武器を持った連中はもう罪を犯していると考えられる。


つまり、私を殺そうと武器を手に持っている時点で、いくら正義を名乗ろうと、必然的に悪の属性がついてしまうのである。


そして、悪の属性がついた時点で私を倒すことはできない。


私を倒せるのは、純粋な正義のみ、


だが、この世の全ては、必ず罪を犯して存在している。


という、完全に矛盾したループのせいで、私は、何度も同じ状況を迎えては、死ぬことなく生き続け、無限に続く時の中を、数えられないくらいの罪を犯しながら生きてきた。


そして、長く生きてる内で、私も多くを奪われてきた。


奪っては奪われ、奪われては奪って……


そうして、奪いあってきた末の結果が今の泥沼の殺し合い、というわけだが。


我々は、これからも互いに生き続ける限り、どちらも奪う行為はやめないし、罪はどんどん大きく膨れ上がっていくことだろう。


悪はいずれ、正義の元に滅ばなければならないが、もうそんなものの存在すら疑わしいほど、状況は絶望的だ。


はたして、


終わるかどうかもわからない、永遠の戦いの中、現れるかもわからない私を殺しうる唯一の存在を待ち続ける。


それまでは終わりなき殺し合いを続ける。


互いに、自らの信じる勝手な正義の元に武器を取り、力を振るっている以上、終わることはないと知りながらも止めることもしない。


だから、今私を殺しにきているやつやらを見逃してやる気は無いし、仮に自らの命が危機に瀕したとしても、逃げる事はしない。


「……さぁ、そろそろ終わりにしようか……」


そうこうしている今も、光線での攻撃は一層激しく続いている。


そして、その中から、他の雑魚どもとは明らかに違う”力”を感じはじめた。


どうやら私を仕留めるための”本丸”が出てくるようだ。


"それ"が、連中にとっての"対私用決戦兵器"なのだろう。


私を囲むように組まれた陣形の一部が割れ、そこに強い力が集まりはじめた。


「――ハァ‼︎」


"そいつ"とやり合うにしてもなんにしても、とりあえず光の攻撃は鬱陶しいので、一定以上の力を持つものしか、私に触れることすら叶わないよう密度を調整して”力”を解放する。


すると、身体中を這うように、黒い筋が、まるで血管のように枝分かれしながら浮き上がりはじめた。


ベキベキ……


黒い筋は、背中の一点に集まっていき、やがて、昆虫が蛹から羽化するみたいに、背中から黒い煙のようなものがユラユラと立ち上がり、それは、光すら飲み込む”黒い影の翼”を形成する。


黒い影の翼は、私の周囲を包むように広がり、私でめがけて飛んできていた光の攻撃をすべて飲み込みながら、ウネウネとさらにその勢力を拡大していく。


「……そ、空が……」


誰かが呟いたのが聞こえた。


それもそのはず、私の背中から生えた"黒い影の翼"は、現在、大きさをキロ単位にし、夜の空を飲み込み、元々暗かった夜の街を、灯りひとつない、真っ暗闇の世界にしているのだから、


……これでフィールドは完成だ。


一歩前へ足を踏み出す。


それだけで、大地はズシン、と、まるで怪獣が歩いたみたいな、鈍い地響きを立てる。


実際、今の私の姿は、普通の人間からしたらそのまま怪獣にしか見えない姿をしていると思う。


今、背中からは、影の翼と同時に、私の体を飲み込むように”白い鱗”が這い出てきて、特殊な肉体を形成している。


現在の私は、特撮ヒーローの怪人よろしく、ものすごい醜悪な姿をしていると思う。


なんせ、"三頭三口六目の悪蛇"が、今の私の姿なのだから。


実際に鏡で見たことはないのではっきりとはわからないが、この見た目が今の私の呼び名”三首の蛇”につながるようだから、そう見えているのだろう。


そんな見た目の影響もあってか、一歩歩いただけで私の前にいる人間どもの腰は抜け、恐怖に染まった顔を隠すでもなくガタガタ震えだす。


が、容赦はしない。


「――ギャァ‼︎」


「――グワァ‼︎」


目の前にいた何人かが、私の翼に触れた瞬間苦しげな断末魔を上げたのち、すり潰され、跡形もない肉片と化す。


相手が何を考えているかはわからないが、関係ない。


相手も、殺傷目的で武器を向けているのだ。


こちらが同じことをしたからと言って、ビビって逃げるなんてさせない。


”悪意”を持って武器を向けたのなら、逆に向けられても逃げてはいけない。


たとえどうやっても死ぬとしても、


これが私の正義。


だから私は、私の”正義”を貫くだけだ。


……なぁ?――。


ズシン……ズシン……


一歩、また一歩と、ゆっくり歩を進めながら、敵との距離を詰めていく。


そして、広がるだけ広がり、攻撃準備の整った”翼”に力を入れる。


――さぁ‼︎殺しにくるがいい‼︎殺せるものならな‼︎


理由はどうあれ、今、この場に"私"を殺しにきた連中に聞こえるよう、叫ぶ。


この翼は、私が、ある奴から受け取った……というよりはなすりつけられた”呪い”のようなもので、この身に宿ってからは、それ自体が私の罪の象徴であり、正義の象徴だ。


この世にある”悪意”を力の源として、それを吸収することによって無限の力と、勢力を増すこの翼を、私はどこまでも大きく広げる。


「……ここには悪意が満ちている」


悪意がある限り、私は倒れることはないし、今いるこの場の人間全員を殺し尽くしても、無傷でいられる自信がある。


だからか、


今、目の前にいる"一人の人間"が、この世界の最後の希望だとしても、全く負ける気はしない。


翼は、無限に広がり続ける中、その形を幾度も変えながら、触れた人間をすりつぶしていく。


その翼を、一部、目の前の人間に集中して打ち出す。


が、


「…………」


そいつは、眉ひとつ動かすことなく、打ち出した翼を、両手に持った二本の武器で全て撃ち落とした。


その一手で、私は確信した。


「お前がこの世界の正義か……」


ようやく出会えたと。


私がこの世の悪の化身とするなら、必ずどこかにいるだろうと考えていた、


だが、私がどれだけ罪を重ねようと、一向に現れないそれに、軽い絶望すらしていたその時に、ついに現れたのだ。


この世の正義の味方が、世界中の悪をすべて取り込んだ私の前に現れたのだと。


だが、


それでも、全く"負ける気はしない‼︎"


今まで、いくつもの世界の終わりを見てきた。


その過程で、世界が終わりの危機に瀕した際、必ず現れ、私に立ち向かってきた最後の希望。



私は、世界の命運を背負って私に立ち向かってきたそれを何度も殺してきたからだ。


「お前は、私を倒すことができるか‼︎」


今回もまた、それまでのヤツらと同じなら、構わず殺してしまうだけ。


次はさっきの倍の数の翼を打ち出す。


「…………‼︎」


そいつは、無傷で乗り切って見せた。


……もう、他に意識を向ける必要はなくなった。


世界を覆う翼を、そいつへ向けて打ち出す。


そいつが、全ての罪を取り込んだ私を殺すことのできる、真の正義であることを信じて。

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