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第56話 八本の刀

第56話 八本の刀


敵を追い込んだつもりが、逆に敵に誘導されてしまった。


「『釣り野伏せ』…お家芸だ、ごめんな謙信」


新たな敵集団の中から、中年の見知った男が私の前に出て来た。


「島津殿…」


あの病院で出会い、退院後も断酒の集まりで時折顔を合わせる、

あの島津殿だった。

今日は黒のスーツに黒の革コート、極道のようななりをしていた。


「八徳会病院は一度収容されたら、特別な事情がない限り一生出られない。

謙信は俺が一体誰の助けを借りて、あの病院から出られたのか考えなかったのか?」


島津殿は確か、ヤクザの友達に出してもらったと…。

その友達とは神政会だったのか。


「俺は謙信に恨みはない、謙信もそうだろ?

でも上から頼まれてしまったものは仕方がない…そこも同じだろ?」


島津殿はコートの中に日本刀を隠していた。

それを抜いて私と向かい合った。


「…代理戦争か」


私は島津殿の呼吸を探った。

今、ほんのわずかに大きく息を吸った…来る。

私が動いたと同時に、敵兵の攻撃が檻になって私を閉じ込める。

そこへ島津殿が鬼の形相で斬り掛かってきた。


「死ね謙信!」


速い、さすが島津殿も戦争屋なのだ。

もう私の後ろに回っている。

島津殿は刀を二度、十字に動かした。

まるで刀が二本、今そこにあるようだった…。

戦争屋か…この世の戦争屋としては、恐らく島津殿が最強なのだろう。


「悪いが島津殿…」


すんでのところで島津殿の十字から逃れ、私は息を整えた。


「戦争屋なのは私も同じだ」


あの世でも頼まれれば、いい気になってのこのこと出かけて行った。

いいように利用されているなど微塵も疑わず、西へ東へと戦に奔走した。

それが「義」だと酔いしれていた。

家臣らを疲弊させるだけ疲弊させ、何の報酬も与えて来なかった。

でも今は違う。

井上のおやじさんのため、上杉の家のために戦いたい。

彼らのくれた心に報いるために、ただ戦いたい。


私は目を閉じて、その場に立ち尽くした。


「バカか謙信、いただきだ!」


当然敵はいっそう集中する。

気配でわかる、敵の攻撃が今どのぐらいの位置にあるかわかる。

私は目を開いた。

刀がひとりでに動く、過去が刀身によみがえって来る。

速度は刀を細胞のように生きて、増殖させる。

ひとつがふたつ、ふたつがよっつ、よっつがやっつ…。


増殖した刀は、グレイアムや政宗の運転する車のワイパーのように、

敵を雨粒にして、撫でて視界の外へと振り払った。

目の前は開けた、陽はまた来て降り注ぐ。


「何だそれは…」

「この世とあの世の違いだ、島津殿。

いくら島津殿が強くとも、そなたはあくまでもこの世の戦争屋にしか過ぎぬ」


私は島津殿の首をはねた。

銃の浸透したこの世の戦争屋と、銃がやっとあるかないか程度のあの世の戦争屋では、

あの世の戦争屋の方が刀の扱いにははるかに長けている。

首をはねる、その技術さえも。


「うっそだろ謙信…お前そんな強かったのかよ。

なんだよさっきのあれ、なんか刀がいっぱいあるように見えたぞ」


助けに入ろうと来てくれたグレイアムだったが、無駄足を踏ませてしまった。


「…どうやら私にはソーシャルゲームより、こちらの方が性に合っているらしい」


とりあえずおやじさんに依頼された合戦は終わった。

やたらとイケメンな伊達政宗もかけ寄って、私の腕に飛びついた。


「謙信は謙信だからだよ、ね? 

ところでさ、このあと俺とどう? 戦国あわせしようよ、謙信と政宗でさ」

「何それ、謙信と政宗とか合わなさ過ぎだろ。

ここは謙信と景持、上杉の主従の方がしっくり来なくね? 絶対そっちのがいいって」

「グレイアム、お前潰すよ?」

「何い、政宗てめえ殺されたいのか!」


私は仲良くじゃれ合うグレイアムと政宗を放置し、山本と安田の二人と合流し、

安田の車に乗って、井上のおやじさんに報告の連絡を入れた。

家の前で私は降ろされ、山本と安田は後片付けに行ってしまった。


誰もいない家に電気を点けて、居間の時計を見る。

22時が近かった。

グレイアムと政宗の二人は今夜帰って来ないだろう。

きっとひとしきり喧嘩して、それから嘘のように愛し合うに決まっている。

彼らは永遠を誓った夫婦なのだから。


スマホを法衣の懐から取り出し、ゲームと外部チャットを立ち上げる。

いつものように持参の奥義名を書いて、ログインを連合に告げる。

「X-DATE」は今夜も来ている。


いつものように合戦が始まり、いつものように「X-DATE」と後衛の全体応援から始まる。

「X-DATE」は当たり前のように、金のかかりにかかった技をふんだんに使うくせして、

自分は決して目立とうとはしない、自分を犠牲にすることを少しも厭わない。

当たり前のように連合の、前衛の、私の影に徹してくれる。

…まるで夫に寄り添って支える妻のように。


ぺさん、今あなたは幸せではないのですね…。

幸せならこんなゲームに興じることはない。

そのために金も時間も手間も犠牲にする事もない。

ましてや別れた男のために尽くすなど、絶対に思わない。


その試合は「クラブLOVELY」の圧倒的勝利だった。

王者にとって、全ての連合は格下でしかない。

お疲れさまの挨拶と雑談のあと、私は個人チャットに「X-DATE」を誘った。

改めてイベント参加の礼と、労いの言葉をかける。

「X-DATE」は、次のイベントの事を聞いて来た。

まだ続けるつもりか…でももういい。

私は返信を書いた。


“X-DATEさん、これまでたくさんの貢献を嬉しく思います。

ですがこれ以上はもう心苦しくてなりません。

どうかこの先はご自分を優先させて下さい、あなたにもリアルがあります。

でももし、今あなたが幸せでないのならば、私があなたを迎えに行ってもいいですか?

X-DATEさん…いいえ、ぺさん”


その夜、ぺさんからの返信はなかった。

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