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第54話 金剛不壊

第54話 金剛不壊


22時の決勝戦で弱小連合「クラブLOVELY」が、絶対王者「MANIA CLUB」を敗り、

新しい王者として、連合の頂点に立った。

全ては打ち合わせ通りだった。


序盤から中盤までは「MANIA CLUB」が有利の展開で、

「クラブLOVELY」が開幕に一気に底上げした能力を、「カリ」さん率いる後衛隊に削られ、

削られた後は敵側の能力を、強い応援技でどんどん上げられ、

得点を伸ばせずに、ただ時間だけが流れて行った。

立ち上がれる者も、私と「X-DATE」ぐらいがせいぜいと言ったところだった。

政宗率いる「MANIA CLUB」前衛隊も、ここぞとばかりに強い技を使って、

得点差を大いに広げた。

この試合を観ている誰もが、「MANIA CLUB」の勝利を確信した。


しかし開幕の底上げは囮だった。

中盤を迎える頃には、「MANIA CLUB」の能力減少技は残量をだいぶ減らしていた。

それは他の応援技も、攻撃技も同じだった。

中盤までが「MANIA CLUB」の山場だった。


「クラブLOVELY」は、行動回数を増加させるため、

スキルを使用する時に消費する、ポイントの消費量を半減させ、

なおかつ応援効果も上昇させる「奥義」を下に敷いた。

「X-DATE」の全体攻撃を起点に立ち上がり、

そこに「新川」さんを筆頭にした後衛隊が、強い応援技を立て続けに浴びせ、

立ち上がれず前半に使われなかった、攻撃技を連発して一気に追い上げた。


終盤に「MANIA CLUB」は突き放しを狙って、

手数を能力上昇に変換する「奥義」を敷いた。

それに重ねるようにして、「クラブLOVELY」は奥義「白雪赤蛍」を私が敷いた。

打ち合わせで指定された、「新井直政」カードの所有奥義だった。

設置時間も何もかも、きっかり打ち合わせ通りだった。


この「白雪赤蛍」という奥義は、敵の攻撃を一人に集中させるものだった。

ただしどんなに強い攻撃を受けても、退却は許されない、

奥義の発動中はただただ、敵の攻撃に甘んじ続けなければならないという弱点もあった。

その一人は味方前衛隊のうち、最弱の者という設定だった。

その囮役には「X-DATE」が買って出、そのためにデッキもしっかり調整してあった。


「X-DATE」は防御を極限にまで高めて、この決勝に臨んだ。

相当に金をかけたと、本選開始前のチャットで発言していた。

鉄壁どころか、金剛石の壁と言ったところだろうか。

金剛石はあの指輪の裏側にも埋め込まれてあった…。

それは奥義の発動で突然輝き出した。


敵の攻撃はまず大得点にはなり得ない。

そこに「クラブLOVELY」側からの、能力を低下させる応援技と攻撃の大技が重なり合う。

政宗が対抗するかのように、「新井直政」カードの攻撃技を出した。

必ず敵前衛全員に命中する「人相綴り」、試合終了の合図だった。


試合の全ては時間で管理されている、私も同時に指定の技を出していた。

「新井直政」カードを、最終段階まで進化かつ覚醒させて初めて獲得出来る、

極意「火狐天下閲覧」、「人相綴り」の上位互換技だった。

どんな防御もかいくぐって、敵前衛全員に最高の攻撃が必ず届く。

それが応援であっても、攻撃であっても。


「おー、さすがあの技さっそく話題になってるよ。これでガチャもしばらく安泰だね」


試合終了後、政宗がネットの掲示板を覗きながら感心していた。


「流通量を絞りに絞ったカードの極意など、不正と思われるのでは?」

「そんなの簡単、謙信のアカウントが新しいだけだよ。

新しいアカウントほど優遇されているのはどこもおんなじ、誰も不思議には思わないよ。

『MANIA CLUB』が負けたのはアカウントの古さ、ただそれだけ…」



宇佐美の葬儀を済ませると、吉富殿は直政殿に連れられて台湾へ帰って行った。

やっぱり仕事がたまっていたのかと、申し訳なく思っていたら、

直政殿が意外な理由をこっそり話してくれた。


「だって武将の『新井直政』が今生きてちゃだめじゃん?」


別れ際のトラックの荷台で、直政殿は大きな身体をたぷんたぷんと揺らして笑っていた。

巨大な直政殿を運べる車は、トラックしか用意できなかったらしい。

新井直政はだめでも、井伊万千代直政はいいのか。

それは聞きそびれてしまった。

…もちろん上杉不識庵謙信も。



断酒の集まりの病院慰問に先駆けて、井上会でも仮装祭りのパーティが催された。

このパーティは、構成員の家族らへの感謝を目的にしており、

構成員らが菓子やジュース、軽食を振る舞ってもてなすものだった。

もちろん仮装祭りなので、皆が趣向を凝らした仮装で参加する。

会場は総本部の庭と駐車場を使って、そこに屋台が出された。


私たち上杉会も呼ばれ、「べっこう飴」の屋台を出した。

上杉からの出し物は、この「べっこう飴」が伝統との事だった。

べっこう飴には細工が施され、鳥や金魚などが精巧に再現されていた。

この細工は信玄殿が担当したが、驚くほど上手だった。


「飴細工は本来テキ屋の仕事で、私ら極道の仕事じゃないんだけどね…」


信玄殿はヤクザになる前、まだ若かった頃にテキ屋の仕事を手伝った事がある、

そこで飴細工を少しだけ教わったと教えてくれた。

しかしそこはあの「甲陽軍鑑」の筆者、井上会での催しの度に上達し、

今では本職顔負けの出来映えと評判だった。


信玄殿は政宗にこの細工を手伝わせていた。

政宗もまた手先が器用だから、これもすぐに習得するだろう。

この日は屋台に立つ者も仮装で、上杉の仮装は「戦国」で統一し、

信玄殿は予想通り「武田信玄」、政宗は例の「伊達政宗」だった。


「しかし安田の『織田信長』は…何度見ても笑えるね」


信玄殿は屋台の脇で呼び込みをしている安田を見て、腹を抱えた。

安田の仮装は「織田信長」のつもりだったが、

濃い祭り化粧に、ぎらぎらした生地の着物を半分脱いで肩を出しており、

じゃらじゃらと装飾品をありったけ着けて、まるでソーシャルゲームのカードのようだった。

安田はまだ若いし、細いけれどきれいに筋肉がついたいい身体をしていたから、

こういうかぶいた仮装も確かに似合ってはいた。


「似合ってはいるが…何か違うような?」

「あいつ、絶対『前田慶次』と混同してんだろ」


席を外していた山本が戻って来た。

山本は意外にも「雑賀孫市」と、地味な仮装だった。


「謙信、井上のおやじさんが呼んでる」

「わかった。グレイアム、一緒に来てくれ」


私は屋台の裏でスマホとにらめっこして、別の仕事をしているグレイアムに声をかけた。

ソーシャルゲームの仕事か。

それにしても本当に「甘粕景持」の仮装をするとは…。

甘粕景持などそんな知名度の低い武将の仮装をしても、誰もわからないだろうに。


井上のおやじさんも仮装で祭りに参加しており、庭の奥に座って甘酒を飲んでいた。

「徳川家康」、ゲームで大体の感じは知っている。


「謙信と景持…上杉の主従か、そなたたちによく似合っている」

「恐れ多うござりまする」

「…して謙信や、そなたら上杉に少しばかり頼みたい事がある。

今から品川の倉庫まで出向いてくれないかね、横浜よりお客様がおいでのようだ。

地元の組がお相手しているが、彼らでは心もとない。

とても大事なお客様だ、そなたらが心を配ってくれると助かるよ」


横浜からの客人…神政会か。

つまりそれは仕事という事か。

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