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第52話 為虎添翼

第52話 為虎添翼


「宇佐美…!」

「謙信、宇佐美さんがどうしたんすか?」


安田が隣のふとんから起き出して、眠る宇佐美を覗き込んだ。


「安田、宇佐美の息がない」

「宇佐美さん…そんな!」


宇佐美の顔に頬を寄せ、息がない事を確認すると、

安田は枕元に座る私にすがりついて、わあと声をあげて泣き出した。

私も安田の肩を抱きながら、涙をこぼして嗚咽した。

その声を聞いて、皆が集まる…。


医師が診察をして臨終の宣言をし、処置をしている間、

吉富殿が葬儀屋を手配してくれた。

山本が言うに、宇佐美に家族はなかった。

宇佐美はうちから葬儀を出す事にし、それまでこの座敷に遺体を安置する事になった。

安田は来てくれた医師の処置だけでは足りず、信玄殿が病院へと連れて行ってくれた。

吉富殿は部下に着替えを取りに行かせて、うちにいてくれた。


グレイアムに連絡は入れたが、やはり仕事で帰って来られなかった。

宇佐美の枕元には政宗が座り込んで、ずっと泣いていた。

山本も帰り際に座敷で目を赤くした。


「…宇佐美は家族に捨てられたんだよ、だから家族はいない」

「捨てられた…?」

「いじめられてそのまま学校に行けなくなって、ずっと家に引きこもっていたら、

家族に愛想尽かされて、ある日突然ひとりぼっちになった。

家ごと宇佐美を捨てて、家族全員どこかへ引っ越してしまったのさ」


山本は眠る宇佐美の丸い頬を、そっと撫でた。


「得意分野を活かし、同人ゴロやチートツール販売をしていたところを、

初代が拾って来たのさ…まだ若かったよ、二十歳にもなっていなかった。

若かったから、武田さんと俺でずっと面倒を見て来た」


もう高く盛り上がる事のない頬の頂を、涙の粒がぱらぱらと降って濡らす。


「謙信、11時の予選決勝は絶対に勝ってくれ。

卑怯でもいい、大量に点差をつけて圧勝してくれ。宇佐美の心のために。

だってあいつ、あのスマホ奪うために命張ったんだよ…!」


山本は初めて宇佐美の戦いを語った。

小可に接線の命令後、手持ち無沙汰になって宇佐美の様子を見に行った事。

現場に着くと、宇佐美は安田を逃がして一人だった事。

敵のナイフに刺されて血みどろになりながら、拳銃を頼りに一人きりで戦っていた事。

山本が加勢して戦っている隙をついて、宇佐美が家に押し入った事。

そして『イル』の後頭部を撃って、スマホを奪った事…。


「よく話してくれた、ありがとう山本」


私はそう言うと、涙の枯れぬ政宗の背中を軽く叩いた。


「政宗、お前のところも決勝戦だろうが、そばについて教えておくれ。

私にはあのゲームでの経験がどうしても足りない、政宗の力が必要だ」

「謙信…!」

「出来たがんはその周囲も切り取らねばならぬ…二度と再生できぬように」



再試合となった予選決勝は予定通り、11時から行われた。

今日は回線速度も通常に戻っていた。

運営に詰めているグレイアムも、そこはいじる必要がないと思ったのだろう。


政宗の「MANIA CLUB」がまず負けるわけはなかった。

「MANIA CLUB」はゲーム内でも、他の強豪を圧倒する最強の連合だ。

事前の勝ち星調整もあって、対戦相手はかなり格下らしい。

開始5分でもう勝負はついた。

あとは時々様子を見るだけにし、政宗は私の手許をじっと覗き込んでいた。

そして時折、使う技名や立ち上がるタイミングを私に言うだけだった。

それでも政宗は現役のトッププレイヤーだ、指示は至極的確だ。


「クラブLOVELY」は「SKY AVOVE」との対戦だったが、

同じ急成長した弱小連合同士でも、その背景が違っていた。

彼らにとってこのゲームは遊び、対する私たちはそれが仕事。

彼らは本当に急成長だったが、私たちの急成長は演出。

私たちの仕事を邪魔する存在は消さねばならない。


宇佐美の仕事はここで発揮された。

ゲストプレイヤーである「イル」の参戦はなかった。

退却中の前衛として、アイコンが表示されているだけに過ぎなかった。


「イル」を欠いた「SKY AVOVE」は、それでもなんとか一矢を報いようと必死だった。

しかし山本が軍師グループに投じた一石は、大きな波紋を呼んだ。

一人が女と情事に耽って、大事な一戦を欠席したのだ。

調和が乱れないはずはない、相当に揉めた事だろう。

攻撃も応援も行き当たりばったりだぞ…その技は終盤まで取って置く技だ。


対する「クラブLOVELY」の軍師は「きゅうへい」さんただ一人。

彼のもとに全軍が動く。

味方が全員倒れても、後衛が応援で敵の能力を削る。

X-DATEと前衛の一部が先に立ち上がって、全体攻撃技を出す。

それを足がかりに私始め残りの前衛が立ち上がり、強い攻撃技を出す…。

乱れる事はない。


「きゅうへい」さんがチャットに何かを書き込むのは、不測の時だけだった。

その内容も技の名前だけだったりなど、政宗と同じく至極簡単だ。

それだけで全員が何をすべきか互いに理解し、一斉行動出来る。

「クラブLOVELY」は手を緩める事なく、「SKY AVOVE」に点差を重ね続けた。

もうとっくに勝負はついている、これ以上の得点は必要ないというのに。


合戦終了まで5分を切ると、最強とされる「奥義」なる技を発動させて、

大技を連発するのがこのゲームの定番であった。

「奥義」はそれで直接攻撃する訳ではなく、味方の能力を上昇させたり、

敵の能力を削ったりと、攻撃の下地となる技だった。


「クラブLOVELY」は後衛の「新川」さんが、補助スキルの発動確率を上げる、

終了間際としては至極定番の奥義を出し、至極普通に大技を連発した。

対する「SKY AVOVE」はとにかく手数を増やす作戦だった。

しかし分は大技ならではの敵複数体攻撃にあった。

「SKY AVOVE」側の前衛は立ち上がろうとするも、すぐにこの複数攻撃に沈められる。

何をするにもまず前衛が立てなければ話にならない。


「クラブLOVELY」は、大量に点差をつけて「SKY AVOVE」を下した。

鳥と、鳥に擬態した虎の対決だった。

飛翔した鳥を、翼を持つ虎がさらにその上から襲うまでだった。


予選の後、30分を置いて本選が始まる。

本選は予選とは違って、合戦の様子が他のプレイヤーにも公開される。

政宗はネットの掲示板を覗いていた。


「弱小の『クラブLOVELY』が、絶対王者『MANIA CLUB』に再挑戦だって。

これは魅せるプレイをしなくちゃね…謙信、こっからが俺らの仕事だよ」


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