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第50話 俺たちの仕事

第50話 俺たちの仕事


悪い予感しかしなかった。

私は電話をかけた、今ならまだ日本にいるはずだ。


「はい…あ、謙信?」

「直政殿、恐れ多いのですが…」


電話に出たのは直政殿だった。


「助けて欲しい、うちの宇佐美と安田の二人と連絡が取れない」

「そりゃもちろん…あ、ちょっと待ってて。今いーさんに代わるよ。

いーさんに直接話した方が絶対早いから」


電話の向こうでごちゃごちゃと賑やかな音が聞こえ、

それから吉富殿の声がした。


「もしもし謙信? どうした、助けが欲しいって」

「はい、実は…」


私は今までの経緯を吉富殿に説明した。


「わかった、すぐにうちの者を応援によこす。

相談してくれてありがとう、謙信はそのまま自宅から試合に出て欲しい。

何事もなかったようにふるまって欲しい」

「わかり申した」

「今、謙信のそばには誰かいますか?」

「政宗がおります」


吉富殿は少しの間無言になった。


「了解…現場は直政に指揮させる、私がそちらに出向いて皆からの連絡を受けよう」

「恐れ多うございまする」

「今から行く、外出はしないで待っていて欲しい」


吉富殿の到着を待つ間、私は部屋で準備をしていた政宗に事情を説明した。

イベント中なので、グレイアムは運営にかかりきりで不在だった。


「宇佐美さんと安田さんが? マジかよ」

「政宗、私たちはそのまま何事もなかったように、合戦に出るんだ。

この事を悟られてはならぬ、そういう事だと思う」

「わかった、グレイアムには俺から連絡しとくよ」


それから政宗が連絡を入れたが、グレイアムからは案の定帰れないとの事だった。

吉富殿は半刻も経たずに到着し、私から詳しい事情を聞いた。


「ふうん…つまり甘粕のゲームには、真田のスパイが忍び込んでいたって訳か」


そこがソーシャルゲームという仕事の弱点だった。

ソーシャルゲームは審査なく、誰でもユーザ登録出来てしまう。

しかも身分などいくらでも偽る事が出来る。

客としてゲーム内から、運営の動向を直接見る事が出来てしまうのだ。

例えそれが敵の間者であっても。


「イル」を通して、「クラブLOVELY」がどういう団体なのか、

「SKY AVOVE」の連中が、一体どこまで知っているかはわからない。

もしかしたら何も知らないかも知れない。

でも敵のスパイと接点がある、秘密を握りうる存在である事は間違いない…。


「該当ユーザはただ使われているだけの末端です」

「だろうね、不動産会社の一社員に出来る事じゃない。

これは井上会と神政会の因縁の戦い、私はそう思っている」


それから吉富殿はあちこちに電話をかけていた。


「井上のおやじさんにも事情を話して、応援を頼んだ。

現場には直政が行ってるが、二人はまだ発見できていない」


彼女は状況を説明してくれた。

その時、家の前で車の停まる気配がし、玄関の戸を叩く者があった。

政宗が拳銃を隠して応答した。


「誰?」

「俺す! 安田す!」


安田の叫ぶ声が聞こえ、政宗が戸を開けた。

すると血まみれの安田が玄関に倒れ込んで来た。


「…やられた、俺らの行動バレてるっす」


私も玄関に出て、安田を中へ上げるのを手伝った。


「安田ひとりか?」

「宇佐美さんが俺を逃がしてくれたっす」

「宇佐美は?」

「標的の自宅を張っていた伏兵に捕まっちゃいました。

やっぱり敵も同業す、今頃はきっと…謙信、宇佐美さんを助けてください…!」


安田は私と政宗が支える腕の中で、ぼろぼろと涙を流した。

吉富殿も出てきて、安田に声をかけた。


「大丈夫だ、応援は頼んである。台湾伊家と井上会が宇佐美を探している」


吉富殿が安田の面倒をみると申し出てくれ、彼女は傷の手当てをし、

座敷に寝具を用意して、安田を寝かせた。

安田は消耗しているのか、すぐに眠ってしまった。

それを見届けて、吉富殿は言った。


「謙信、山本も心配だ。連絡は?」

「接線直前に一度、それきり…」

「私が連絡してみよう」


吉富殿は山本に電話を入れてみた。

こちらはつながった、無事らしい。


「はい、山本」

「よかった…こちら吉富、上杉の自宅からかけている」

「吉富さん…! どうされたのですか?」

「宇佐美の消息がわからない、安田がひとり血まみれで戻って来た。

今応援を投入して探している。山本は今どこで何をしている? 無事なのか?」

「あ、実は…」


その時、電話の向こうで山本の小さく叫ぶ声がした。

それから大きく息を吸う音がし、別の男の声が聞こえてきた。


「…こちら宇佐美! 俺は山本さんと合流して、今逃げてる最中っす!」

「宇佐美…! 無事だったか!」

「とりあえず生きてはいます、でも安田をそっちに行かせるため、

だいぶやられちゃいました…ちょっと逃げ切れないかも」

「山本に代わってくれ、応援をそっちに回すから」


山本の話によると二人は浅草まで逃げて来たが、

負傷した宇佐美を連れての逃走は限界がある、再び捕まるのも時間の問題との事だった。


「浅草…そこからなら武田の自宅が最も近い、そこを目指してくれ。

武田には私から事情を説明して、迎えに行かせる」

「わかりました」


吉富殿の隣でやり取りを聞いていると、政宗が私の肩を叩いた。


「謙信、時間だよ。そろそろ皆がインし始める」

「もうそんな時間か」

「俺たちはサクラ、いつも通り合戦に出るのが役目。

今夜もゲームに興じる平和な夜、お客さんらにそう思ってもらうのが俺らの仕事」


いつものように外部チャットで点呼を取り、所持スキルや作戦を確認する。

そうして私と政宗は時間通り、それぞれ合戦に出た。

ところが、開始早々政宗が言った。


「…あれ? 今夜やけに処理重くない?」

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