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第49話 過去の上客

第49話 過去の上客


「クラブLOVELY」の予選決勝相手と目される「SKY AVOVE」に、

「イル」なるかつてのトッププレイヤーが参戦する…。

この事に会議は大いに揺れた。

しかし「X-DATE」は動じる事なく続けた。


“ゲームを象徴するトッププレイヤーと言っても、それはあくまでも過去の話。

彼は引退したからこそ、その課金額が公表されただけに過ぎません”


「あ、そっかあ…!」


私の隣で政宗が突然笑い出した。

甘粕改めグレイアムも、それを受けて笑い出した。


「今は現役プレイヤーの『X-DATE』がその記録を塗り替えてしまった。

現役だから課金額も公表されない、そういう事か…!」

「それは私らサクラ全員もそうじゃないかな、グレイアムに政宗よ」


私もくすくすと笑って付け足した。


「私らサクラ全員には、運営がゲーム内通貨を無限発行するのではなく、

直接現金が支給されている…今まで消費した金額を累計すると、

私らサクラの全員が、過去最高の課金額をとっくに上回っている事になるよ」


そう言いながら、私はチャットへ書き込んだ。


“X-DATEさん、私たちは全員が全員トッププレイヤー、

敵がひとりふたりの大型プレイヤーを投入したところで、負けるはずがない。

戦力も課金額も、そして実戦経験も…そう言いたいのですね”

“上杉さん、『イル』は資金力こそありますが、一般プレイヤーです。

しかもすでに引退している、もうお客様でもありません。

過去の上客より、今いるお客様を大事にしましょう”


過去の上客より今のお客様か…いかにもぺさんが言いそうな事だ。

元気ではいるのですね…。


夜11時を回り、イベント開催のためにプレイヤーの連合移動が一時停止された。

これは報酬だけを目当てに連合を移動する、「寄生プレイヤー」対策だった。

グレイアムがチェック用のアカウント「焼肉弁当390円」を使い、

「SKY AVOVE」にアクセスした。


「マジで『イル』が加入してる、姐さんの内偵は本物だ」

「こりゃまずいね…勝負は絶対に謙信のとこが勝つけど、人気を持って行かれてしまう」


グレイアムと政宗が顔を寄せ合って、眉間にしわを寄せている。


「政宗、そんなに人気のあるプレイヤーなのか?」

「さっき姐さんも言ってたろ、『ゲームを象徴するプレイヤー』だって。

『イル』の引退と入れ替わるようにして、ゲームを始めた謙信は知らないと思う。

プレイヤーしては比較的新しくて、活動期間も短かったけど、

そりゃもう戦力も課金力も人望も抜群だったよ」

「ふうん…今で言うぺさんの『X-DATE』みたいなものか。

すると『クラブLOVELY』は圧倒的正義を倒す悪になるね」


連合の外交担当である「よっしー」さんが、すぐに動いた。

「よっしー」さんもこの事は承知らしく、人を使ってネットの掲示板に書き込みをさせ、

「SKY AVOVE」に傾きかけた注目を、私らに引き戻してくれた。

過去の上客より今いるお客様、ぺさんのあの言葉が決め手となった。

それでも過去の人望は根強かった。


そこからは上杉の出番だった。

私たちは夕食会と称して、自宅に皆を招集した。

まず機械に強い宇佐美が予選決勝当日、「イル」にの端末に接触し、

通信妨害をしてくれる事になった。

これは完全に遮断する必要はない、ほんの少し速度を落とすだけでいい。

それから山本が合戦前に若い女を用意してくれると申し出た。


「そこの軍師グループっての、全員独り者の男だろ?

なら、女使って誰かを足止めさせるのが早い…後々も十分に揉めてくれる」


山本は傷だらけの顔にとびきりの甘い笑みを浮かべた。

私は連合員らと外部チャットに、その予定を書き込んでいた。


「ぺさんは引き続いて内偵し、情報提供してくれるそうだ」



イベントは翌日の12時から開始された。

事前に勝ち星を調整してあったので、「クラブLOVELY」は順調に勝ち進んでいった。

政宗の「MANIA CLUB」も問題なく駒を進めている。

火曜日から始めて木曜日には、本選出場連合が大体固まって来た。

予選決勝は「SKY AVOVE」と当たる事が、いよいよ濃厚になって来た。


そして金曜日、19時の予選準決勝が終わり、

「クラブLOVELY」と「SKY AVOVE」の組み合わせが確定した。

ゲーム用とは別の端末に着信があった。

ぺさんが通院のために、私に持たせてくれた私用の端末だった。

画面に「山本洋平」と表示があった。


「…山本か」

「謙信、女の子を標的付近に待機させてある」

「了解」

「今から接線、よろしいか?」

「了解」


山本からの電話を切ると、間髪入れずに別の着信があった。

「宇佐美蓮」、現場に到着したか。


「こちら宇佐美、現場にて安田と車内待機中」

「安田と?」

「甘粕の調査した住所は住宅地で、確かに標的の自宅で合ってるんだけどさ、

なんかうちらと同業みたいだよ? 高い塀に外階段、防犯システム。

俺デブだし、そんな速く走れないよ」

「…了解、応援を送るが二人も同業だ、不測の時にはそれまで持ちこたえて欲しい」

「了解、備えはあるよ」


「イル」は同業者か…。

私はチャットアプリを立ち上げ、「X-DATE」に連絡を取った。


“『イル』について詳しく知りたい、調べられますか?”


「X-DATE」からは2時間ほど遅れて返信が来た。


“上杉さん、返信遅れて申し訳ありません。

私どもで直接接触できるのはログまでですので、そこから先は人の手が必要で、

時間がかかってしまいました。

『イル』…氏名は『市川歩』、年齢は30歳。

職業は新宿にある有限会社『金山不動産』会社員…”


案外若いのだな、そして不動産会社の一社員か…。

「X-DATE」からの報告はまだ続いていた。


“『金山不動産』は神政会直参『北条組』のフロント企業ですが、

かつては同じく神政会系列の『真田組』の経営でした。

市川は上杉会が壊滅した『真田組』の末端構成員。

後ろには誰かがいると思われます。上杉さん、気をつけて”


「X-DATE」との会話を終了すると、私は宇佐美に電話した。

しかし当の宇佐美も、同行しているはずの安田も応答はなかった。


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