第48話 家族になるには
第48話 家族になるには
前日の夜、私は台湾に電話をかけていた。
甘粕と政宗のような男同士が結婚するには、養子縁組が良いと吉富殿が教えてくれた。
そして彼女は日取りが決まったら教えて欲しいとも言った。
会社の皆はこの相談に大賛成してくれた。
会場は会社の広間で、日取りはちょうど一週間後と決まった。
「俺といーさん、何が何でも絶対行くからね」
それを台湾にまた電話すると、直政殿が出て何度も何度もしつこくそう言ってくれた。
山本の提案で、結婚式は「サプライズ」なる方式で行うことになり、
当日のその直前まで二人には内緒だった。
甘粕と政宗には私から用事を言いつけて外出させ、その隙に準備をすすめる。
そうして当日、会議を行う事にして二人を会社に連れて来る。
「あれ? 会議では?」
会社の応接室で、政宗が不思議がった。
「会議だ、急ぎ盃事を行うからこれに着替えて欲しい。私も着替えて来るから」
「なんだ、盃事なら言ってくれれば正装して来たのに」
甘粕がぼやいた。
私は二人に用意しておいた婚礼衣装の包みを渡した。
二人は包みを開くと、涙を浮かべた。
「謙信、これ…」
「たまには洋装も良いだろうと思ってな、嫌か?」
「そんな…! ありがとう謙信、俺らのために」
政宗は大きくかぶりを振って、涙を散らせた。
甘粕も婚礼衣装を抱きしめて、涙を流していた。
「謙信、ありがとう…俺と政宗の仲を取り持ってくれただけじゃなく、
こんな立派な結婚式まで…」
「それともうひとつ、これは式までお楽しみに…さ、着替えて、着替えて」
極道の家の事なので、甘粕と政宗の結婚式は通常の盃事を参考に執り行われた。
式場の広間には参列者として、信玄殿はじめ上杉の構成員ら、
井上会からはおやじさんを筆頭に幹部の何人か、
そして吉富殿と直政殿の夫婦が、左右に別れて並んで座っていた。
まずは夫婦の固めの盃事から式は始まる。
もちろん指輪も組からの祝いとして用意してある。
これは事前に私が彼らの部屋から、別な指輪を盗み出して太さを測ってある。
指輪の交換が済むと、進行の信玄殿が言った。
「続いて会長の上杉謙信との親子固めの儀を執り行います」
「あれ? 俺ら謙信とは会長就任の時に、親子固めの盃事してるはずだが?」
甘粕が目を丸くした。
そこへ山本がお上に提出する書類と筆記用具を差し出した。
書類にはすでに私の分の記入がしてある。
「養子縁組届…」
「謙信…これって…!」
「これは私からの祝い…同性の夫婦が家族になるには養子縁組が一番と聞いた。
夫婦で私のところに来ないか?」
甘粕と政宗は揃って私の手を握った。
「俺と謙信とグレイアム、三人で家族に…」
「俺と政宗は嬉しいけれど…本当にいいのか? 謙信」
「構わんよ、私自身も養子だったから」
甘粕と政宗は喜びにまた涙し、交代で書類に記入した。
彼らの記入が済むと、証人として信玄殿と井上のおやじさんが記入した。
それから皆の祝福を受けて式は終了し、宴会までの間に書類の記入欄を全て埋め、
安田の送迎で役所へ行って提出した。
書類は無事受理され、甘粕は「上杉謙司グレイアム」、政宗は「上杉政宗」となった。
「『上杉謙司グレイアム』って、謙信と名前が似ててずるい!」
会社へ戻る車の中、政宗がそう騒いだ。
「ぐぎぎ…俺は政宗の方がうらやましい、まるで謙信と結婚したみたいじゃんか」
「俺と謙信が結婚…! そっか、俺は謙信と結婚したのか! やったね!」
「くそ、政宗め…お前は絶対潰す」
「あ? 謙信のにせものみたいなグレイアムなんか、俺が潰すね」
二人は狭い車内で取っ組合いを始め、驚く安田に私が説明する。
これが二人の永遠なのだと。
宴会は夕方には終わり、私たち上杉の三人は寄り道もせず帰宅し、
居間でちゃぶ台を囲んでスマホを握りしめる。
合戦の時間、今夜はイベント前夜の大事な打ち合わせがある。
合戦自体は私のところも政宗のところも予定通り、低得点で勝利した。
終了後、うちの後衛の「新川」さんが外部チャットに新しい部屋を作った。
部屋は普段連合で使うアプリとは別のアプリ内に作られ、
非公開招待制で、部屋名も「渋谷飲食店組合」としてあった。
そこに「MANIA CLUB」、「クラブLOVELY」双方の連合員が、招待を受けて入室した。
打ち合わせはデッキ公開から始まって、使用予定の技と時間の打ち合わせ、
合戦の流れなどを細かに話し合った。
その中で、「MANIA CLUB」の軍師である「まゆり」さんから、
私が持参する予定のカードについて、指示が出た。
“ダメ過ぎさん、確か『新井直政』のカード持ってますよね?
あれ、デッキに積んで奥義セットしておいてください”
“了解です、どう使いますか?”
“奥義ラスト3分発動、合戦終了間際に極意キメてください”
「新井直政」のカードはその後、ガチャから複数出現して今は最終段階まで育成してある。
もちろんこのカードは流通量を相当に絞ってあり、
政宗が進化3段階目で3枚持っている他は、ほとんどが新人や休眠アカウントなど、
本気度が伝わらないプレイヤーに偏らせ、割り当てられている。
“政宗さんも『新井直政』をデッキインよろです。
『白雪赤蛍』発動で、カードのスキルを先に出してください”
“りょです。謙信が俺のキメ技を上回る、幻の極意キメて勝利って流れね”
それから話題は予選の対戦組み合わせへと移った。
“『クラブLOVELY』はたぶん、予選決勝で『SKY AVOVE』と当たると思う”
“あそこも弱小だったのが、最近急成長したんだろ?”
“軍師が変わったんだよ、表示は1名だが実質3名で役割分担してる”
“代わりはきくが、統制を乱すのは簡単て事だな”
“私からもちょっといいですか?”
「X-DATE」が初めて発言を求めた。
“こちらで独自に内偵を行ったところ、『SKY AVOVE』は予選決勝に、
ゲストプレイヤーを1名参加させる予定です”
“X-DATEさん、内偵とはどうやって?”
「MANIA CLUB」の後衛筆頭である「カリ」さんが質問した。
“皆さんもご存知の通り、『X-DATE』は法人です。
法人には法人のつながりがあります。外部チャットを運営する会社に接触いたしました”
さすが「X-DATE」、リアルで動けるとは…。
そんな事が出来るのはぺさん、やはりそなたしかいない。
“つまり、X-DATEさんはあそこのチャットログを自由に見られるって訳か…これは心強い”
“ゲストは『イル』。今は引退しており、表面上動きはない事になっていますが、
長い間戦力、課金力共にトップに君臨し続けてきたプレイヤーです”
“マジか…!”




