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第46話 甘粕の永遠

第46話 甘粕の永遠


「俺の幸せを祈って俺を破門にして、親父のいるアメリカへ帰すか…?」


まいった、先を読まれている。

甘粕は鋭い男だ、だからこそ私も彼を頼りにしてきた。


「日本での母との暮らしは貧しかったし、ヤクザにまでなってしまった。

それでも俺は、今のこの暮らしをこの上なく幸せだと思っている。

上杉の家がある、みんながいる、謙信もいる、政宗がいる。

終わりになんかしたくないんだよ…!」


私の膝を甘粕の涙がこぼれ落ちて濡らす。


「アメリカなんかに行ったらこの自由はなくなる、何もかも終わってしまう。

謙信への恋も終わってしまう、それに政宗…政宗との永遠もなくなってしまう…」

「永遠…?」

「政宗とはあいつが広島から出て来た時からの仲なんだ、同郷なんだよ。

広島にいた頃はお互い知らなかったのに、東京で出会ってずっと一緒にいた。

ゲイ同士お互い助け合って、時々は一緒に寝て、ずっとそうやって生きて来たんだ」

「ならどうして…」


甘粕は涙を拭って、背中を向けた。


「やっぱり終わってしまうから…それしかない。

俺があいつを好きになったら、二人の関係を恋にしたら、その先は終わりしかないんだよ。

政宗は俺より若く美しい、俺が捨てられるのが目に見えている。

俺は政宗に永遠を求めてる、ただずっと一緒にいる事だけを望んでいる。

だから誰に恋しても、俺は政宗にだけは恋しない…」


…甘粕が政宗を恋人にして来なかったのは、そういう事だったのか。

きっと父親に捨てられた事に学んだ結果なのだろう。

一生不犯の裏で恋に恋し続けてきた私とは真逆だ。

しかしなんと深い気持ちである事よ…。


「遊んだつもりが遊ばれていたのは、私の方だったという訳か」


私はなんだかおかしくなって、声に出して笑ってしまった。


「政宗はね…甘粕を私に取られたと嫉妬して、殺しに来たんだよ。

そんな男がお前を手放す訳などない、例え殺されたとしても。

政宗とちゃんと幸せにおなり、甘粕よ…。

その先の事は自分次第、でも決して私のようになってはならぬ」

「謙信…!」


手を離して、幾度も悔やんで、嫉妬に身を焦がす私のようになってはならぬ。

何が相手の幸せなのか、見誤ってはならぬ…。



その週末の夜、甘粕はアメリカに直接返事を書いた。

帰らない、そういう内容らしいのはなんとなくわかる。


「…甘粕は英語が使えるのだな、驚いた」


甘粕の手紙は英文だった。


「親父は俺が5歳になるまで日本にいたから…でも語学は姐さんの方が堪能なはずだよ。

貧乏育ちの俺なんかとは違って、大学に進むのが当然のお嬢様だ」

「なんて書いた?」

「『アメリカには帰れない』、『全ての権利と相続は放棄する』だ」

「ふうん、私にはぜんぜん読めぬな…。

ところで甘粕の『グレイアム』は英語で何と書くのだ?」


甘粕は手紙を書き終え、署名で締めた。


「『Graham』…『グラハム』と書いて『グレイアム』と読む。

英語は表記と読みがかなりかけ離れているから難しいんだよ。

ごく簡単なところしか教えられないけど、謙信も英語習ってみるか?」

「えっ、良いのか?」

「必要だろ、政財界のお偉方との付き合いもあるんだ」


そこへ政宗がスマホ片手に割り込んできた。


「明日の合戦の準備するぞ謙信」

「だめだ政宗、謙信は俺と英語の勉強だ」


甘粕はそんな政宗をはねのけた。


「何それ! そんな事言って、グレイアムあんた俺の謙信と寝る気だろ!」

「政宗こそ、何だその下心ありありの目つきは。謙信との夜伽は譲れないね」

「謙信は俺と寝るんだよ、俺との方が絶対相性がいいって。譲れコラ」

「ああ? 政宗やんのかコラ?」

「上等だ! 表に出ろグレイアム、ぶっ殺す!」


私の目の前で、甘粕と政宗は取っ組合いの喧嘩を始めてしまった。


「ちょっ…! 喧嘩はだめだぞ! しかもなぜ私をめぐる?

…あれ? 政宗、いま甘粕の事を名前で… 」


二人はぴたりと喧嘩をやめ、揃って私の手を握った。


「俺とグレイアムね、永遠になるから」

「そのためには謙信が間にいないと…な? 政宗」

「俺たちは謙信をめぐって、ずっとずっと戦い続けるんだ」

「俺たち永遠だぞ、政宗」

「はい…?」


私は戸惑い、目をぐるぐると回した。

二人はそんな私をよそに、笑顔で大きくうなずき合った。

…とりあえず二人の仲は進展したらしい。

前は上下関係があったから、こうして喧嘩する事もなかった。

政宗も甘粕をさん付けで呼んで、「グレイアム」と呼び捨てにする事もなかった。

形はどうあれ幸せになったんだろうな、きっと。


朝起きて、朝食が出来るまで庭の掃除をする。

それから三人で朝食を食べながら、その日の予定や仕事の話をする。

そうして仕事へと出かけて、特に付き合いのない日は夕方に帰宅して、

夕食を食べながらソーシャルゲームの仕事を始める。

時々は会社を休んで病院へ行き、医師と雑談をして薬をもらう。

あれから一滴も飲んではいないが、断酒の集まりには休みの日にしか行けていない。


その断酒の集まりでは、病院で一緒だった島津殿とたまに再会する。

集まりの前後に近況など雑談もする。

その日は「ハロウィン」なる仮装祭りについてだった。

この会では祭りの日に病院を訪ねて、入院患者らを励ます予定らしい。

私も誘われ、上杉から手伝いに人を借りられないかと頼まれた。

人助けなら断る理由はない。


「そうだ謙信、知ってるか?」


島津殿は机の上の茶碗など、後片付けをしながら言った。


「お前の別れた嫁さんの事」

「ぺさんがどうした? 会社が倒産するのは知っているが…」

「そうじゃなくてさ…別れたらしいよ、再婚した旦那と」

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