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第44話 X-DATEの後ろ

第44話 X-DATEの後ろ


宇佐美は「X-DATE」が、武本の子会社が運営していたスマホゲーム、

「オブジェクトXDate」にいた人間ではないかと言う。


「あのゲームは俺も知ってる、内容も客層も甘粕の戦国とはまず競合しないし、

運営が武本の子会社だから、運営が上杉だって当然知ってるだろうし、

今は母体のトップに姐さんもいる、応援も不思議じゃないよ」


そうだ…私がぺさんを離縁した事で、武本の会社は彼女に代替わりした。

今はぺさんの会社なのだ。

「X-DATE」の後ろにぺさんがいるのだ…!


帰りの車を道路沿いのパチンコ屋に止めてもらって、私はスマホを覗き込む。

22時、合戦が始まる。

「X-DATE」は今日も参加しており、開幕に応援技で戦力の底上げをしてくれている。

このゲームの「合戦」には、実際に得点をあげる係の前衛のほか、

応援を専門とした係の後衛がいる。

捕まった「よーじ」さんはもともと後衛専門だったと、ある合戦後のチャットで話していた。


かつて敵だった「X-DATE」は、「よーじ」さんをよく研究している。

連合の得点源だけを潰しても、「よーじ」さんがいる限り攻撃の機会は潰せない。

得点源となる人が立ち上がるため、大得点を獲得するために、

「よーじ」さんはいつも土台となって来たし、デッキの内容もそこに特化していた。

後衛の応援がいくら強くても、得点源となる人たちが立てなければ、

その恩恵を受けることは出来ない。


前衛の中に最強の後衛がいる。

「X-DATE」率いる「はっぴーはうす」はその事を一番にわかっていた。

彼らには何度負けた事か。


「…謙信さ、政宗がお前の事殺そうとしたっての」


暗い車内の中、運転席の甘粕が政宗の事を蒸し返した。


「政宗は私に銃を突きつけた、可愛いじゃないか」

「いや、でも…」


退却ついでに、私は画面から目を離して顔を上げた。


「私は確かに行き倒れのアル中坊主だったが、それは何も今始まった事じゃない。

家中の者に命を狙われるのは、どこの世にもよくある日常茶飯事だ。

それとも甘粕、お前が私を殺すか?」

「とんでもない。でも殺そうとした割りには、政宗の様子がおかしい」

「さあね…」


私はとぼけてまた画面に目を落とした。

確かに政宗の様子はあの日以来おかしかった。

寝る前、イベントも近かったのでその準備をしていたら、彼が部屋にやって来た。


「どうした政宗、何か用か」

「謙信、あのさ…」


政宗は背後の襖をぴしと閉じて、少年のようにもじもじとした。


「…また私を殺しにでも来たか?」

「うん…そうなんだけどさ」

「今夜は何だ? ナイフで刺すのか? 首を絞めるのか?」


すると政宗は突然、私の背中にしがみついた。

甘粕は麝香や香辛料の、しっとりと大人らしい匂いがしたが、

政宗は職業柄、女うけを考えているのか、花や果物の匂いがする。

…ぺさんの優しい匂いに少し似ていると思った。


「俺が好きなのは甘粕さん、甘粕さんだけ…なのに、なんでか忘れられないんだよ。

悔しいけどあの時ほど燃えた事はない。

ひとりでしてても、あの時の事ばかり思い出してしまう」

「政宗よ…私は男を知ってはいるが、男を愛する事のない男だ。

お前が言った事だ、知らぬとは言わせぬ」


政宗は手を回して私の寝間着の中に滑り込ませた。


「愛は要らない、俺たちの間に流れるのは憎しみでいい。

憎しみじゃないとだめなんだ、憎いからこそ燃える…だってそれが男の本能だから」


私はあの男が憎い、そしてあの男に抱かれるぺさんが憎い。

ぺさんが私の妻だった頃は、そばにいるのを当たり前のように思って来た。

でも今はぺさんが欲しくてたまらない。

憎い人を征服したい、私も男だから。


甘粕に聞こえないよう、息を殺す。

灯りを消してふとんの中、暗がりの中の暗がりへと潜り込む。

嗅覚と感触だけで動く。



イベントが始まると、甘粕は運営を任せている会社にかかりきりだった。

朝早くに出かけても、帰りには日付が変わってしまうほどだった。

政宗によるとなんでも以前、大事なイベントの大事なところで、

サーバという大きな機械に負荷がかかり過ぎて、問題が起きてしまったとの事だった。


「俺らはただのサクラだから、プレイだけしていればいいんだけどさ、

甘粕さんは運営の人間だから大変なんだよ」


私の隣でふとんの中から、裸の肩を覗かせて政宗は笑った。

「クラブLOVELY」対「MANIA CLUB」、もうすぐ合戦が始まる。

この戦いも誰かがキャプチャして、動画サイトにアップロードする事だろう。

連合「クラブLOVELY」は、驚くほどの変貌を遂げてイベントを勝ち上がり、

政宗率いる最強の連合「MANIA CLUB」と対戦するまでに成長した。

ネットの掲示板でも、連合の名は広く知られるようになった。


「クラブLOVELY」という連合は、「X-DATE」が加入するまで、

「初心者ばかりの弱小連合」として、低迷を続けていたはずだった。

ネットでも「ぽっと出の大型新人頼み」扱いだった。


「今回、謙信のところは一旦、俺んとこに負ける予定だけどさ…。

いい勝負して負けてよ、客の反応が楽しみだから」

「それはもちろん」

「…客も甘粕さんも連合のやつらも、まさか俺たちがこんなところから、

こんなことしながら参戦してるとは、夢にも思わないだろうね」


決勝戦は政宗が私の唇を奪って開戦した。

「X-DATE」と後衛の下地作りから戦いは始まる。


「謙信、そろそろあれお願い」

「了解」


中盤にさしかかり、攻撃の連携ボーナスもほどよく乗って来たところで、

私は大技をひとつ使った。

自爆攻撃である「C爆全弾特攻」…使用後は退却状態になるが、大得点を獲得出来る。

この攻撃で「クラブLOVELY」が大きく逆転した。

軍師の「きゅうへい」さんがすぐに次の指示を出し、点差を広げる。

私もすぐに立ち上がり、攻撃を続行する。

そして終了の3分ほど前に最後の奥義が発動した。


「さあ見せ場だよ、大技連発よろしく…これで謙信もトッププレイヤーの仲間入りだね。

そのままラストまで引っ張ってってよ、僅差で勝つから」


その後は政宗の「MANIA CLUB」が大技を連発して追いつき、

予定通り終了間際に僅差で勝利して、イベントは幕を閉じた。

私たちはそれぞれ外部チャットで、連合員らにお疲れさまの挨拶をして、

それから政宗の持ち込んだタブレットから、ネットの掲示板を覗いた。


「来たぞ、謙信…!」


政宗はにやりと笑った。

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