第42話 政宗の恋
第42話 政宗の恋
気付くと、私は返信を書き込んでいた。
“上杉て…? 上杉をご存知なのですか?”
“知っています、このゲームが上杉会の運営である事も、
そしてダメ過ぎさんがその会長の上杉謙信さんである事も。
『上杉会の上杉謙信』さんは、その珍しい名前で有名ですから…”
そうだった、私の名は上杉謙信。
戦国の英雄と同姓同名である事は珍しく、他の者にも覚えられやすいという事か。
上杉謙信、あの病院は私になんという命名をしたのだろう。
こんなところにまでその名が知れているとは…。
それからX-DATEとは、今後の予定などを話してチャットを終了し、
連合のチャットに、甘粕と政宗の考えた筋書きを書き込んだ。
翌朝、連合にアクセスすると、連合員らの戦力が嘘のように大きく上昇していた。
デッキの内容も今までとはまるで違う、ふんだんに金のかかった強いデッキになっていた。
さすが運営が用意した連合、進化に進化を重ねたカードだらけだ。
X-DATEもしっかりと彼らに合わせている。
仕事にでかける時間なので、ゲームを閉じて車に乗り込む。
甘粕は別の仕事にもう出かけており、今日の運転は政宗だった。
車の中で再びスマホを取り出し、ニュースを開く。
「…謙信さ」
不意に政宗が私を呼んだ。
「どうした政宗」
「謙信は甘粕さんの事、どう思ってるの?」
いつも柔らかいはずの政宗の声は硬かった。
「甘粕さんは夜中に時々、俺を部屋に呼んでくれる。
そして抱いて、可愛がってもくれるけど…」
「政宗は本当に甘粕が好きだな」
「甘粕さんにとって、俺は遊びの男だって知ってる。
彼が本当に好きなのは謙信だって事も知ってる。
それでも俺はいいと思ってたけど、今は違う」
政宗の運転する車は交差点で、会社とは別な方向へと曲がった。
「甘粕さんね、最近俺を抱きながら泣くんだよ…。
俺、甘粕さんの悲しい顔は見たくない」
「おい政宗、どこへ行く」
「…一度ゆっくり謙信と二人で話がしたいんだ、だめかな?」
私はため息をついて、会社に遅れると電話をかけた。
山本が出て、どうしたんだと言っていた。
腹をこわしたので途中のファミレスで少し休んでから行く、私は嘘をついた。
「甘粕はこんな私によく尽くしてくれていると思う」
政宗が私を連れて行ったのは、会社が品川に持っている倉庫だった。
「ホストクラブ上杉」の備品も置いてあるから、政宗も鍵を持っていた。
私たちは2階の事務所のソファで向かい合っていた。
「謙信は甘粕さんを愛してる…?」
「可愛いとは思う」
「…俺としている時、甘粕さんがなんて言って泣いてると思う?」
政宗はうつむいたまま静かに言った。
そして、突然私の額に銃を突きつけた。
「『謙信』、『謙信』…甘粕さんはそう言って泣くんだよ。
そんな甘粕さんをもう見てらんない。
俺は確かに遊びの男だよ、でも俺が一番に甘粕さんを思ってる。
謙信、あんたが憎い…!」
私は目を閉じた。
「政宗、私を殺すか?」
「殺す」
「殺してどうなる? 私が政宗に殺されるのは仕方ないが、それを甘粕はどう思う?
きっとお前を憎むだろうね、そしたら立場は逆転する」
政宗は銃を構えたまま、歯をきしませて唸った。
私は銃身をそっとつかんで、彼の手から抜き取った。
「やめときなさい」
政宗に銃を返すと、彼は泣き出した。
「悔しい…悔しいよ…! 甘粕さんはなんで謙信なんだよ!
俺、まるきり勝ち目ないじゃんかよ…!」
私は黙って長椅子の政宗の隣に移り、彼の震える肩を抱いた。
それに気付いた政宗と目が合う。
悔しさに涙する政宗はまるで少年のようで、甘粕もそこを可愛く思っている事だろう。
「私が憎いか、政宗」
「憎い」
「憎いと欲情しないか? 私はするよ…」
私はあの男に抱かれるぺさんを思っていた。
彼女を憎み、嫉妬し、その嫉妬は私を欲情させた。
政宗の唇を奪って少し触れてやる、それだけで十分だった。
私を憎む人がここにいる、政宗の身体が私にそう叫んでいた。
今の政宗はあの日の私、憎しみと憎しみが重なり合う。
私は政宗を抱いた。
「ひどい人だね、謙信は…甘粕さんが望んでもしない事を俺にはするなんて」
政宗は私の下で呆れて笑っていた。
「それでいい、甘粕はそうやって燃える男なのだから」
「…甘粕さんの事愛してる?」
「まあ二番目ぐらいには…最初に出会ったのが甘粕だったら、彼を一番に愛したかもな」
「何それ、ほんとにひどい人だね…憎いよ」
長い手足が芽吹く植物のように伸びて、私の上で交差して絡み合った。
「謙信は男を知ってはいるけど、愛してる訳じゃないんだね。
俺や甘粕さんみたいなゲイとは違うんだね…。
男を抱きながら女を抱く戦国の武将みたいだよ、謙信は」
「…私は上杉謙信と名付けられた男だから」
「憎い人だね…謙信は誰を憎んでそんな恥ずかしい身体になるの。
来てよもう一度…憎いと燃えるってほんとだね、謙信が憎くて欲しくてたまらない」
私もぺさんが憎くて欲しくてたまらない。
今なら彼女の要求にも応えてやれるのに…。
私の腕の中で政宗がもう一度、あの日の私に、ぺさんに、あの男になる。
政宗の爪が私の背中に深く食い込む、息たちが熱く乱れて事務所を満たす。
「謙信さ、お前政宗と何かあった?」
それからしばらくたったある夕方、帰りの車を運転する甘粕は言った。
私はスマホでニュースを読んでいた。
「政宗は私を殺そうとしたよ」
「えっ…」
驚く甘粕をよそに、私は目を画面に戻した。
すると、そこには武本の会社の売却が報じられてあった。




