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第41話 連合機密

第41話 連合機密


「…悠さん、いろいろとありがとうございました。

悠さんがゲームに詳しくて、本当に心強くて助かった」

「良かよ、そげん事。そいよかおいも実家あっから、東京はまた行っど。

そん時連絡してん良かけ?」

「もちろん…! 私らもまた鹿児島来る時は必ず連絡します」


翌朝、私たち上杉の三人は空港で悠さんと別れ、東京に戻った。

別れ際、悠さんは「またなあ」と言って、私たちがゲートの中の通路の角を曲がるまで、

ずっと手を振っていてくれた。

彼とはまた必ず会うだろうな、私はそう思った。

私が上杉謙信なら、悠さんは島津の落ち武者の子。

何かの時には新井博物館で見た、あの不思議な力を使って突然現れるんだろうな。


自宅に戻る前、私たちは会社に立ち寄った。

会社で留守を守ってくれていた、山本と宇佐美の報告を聞いていた。

変わった事はなかった事、それぞれの仕事の事…。

あとで会長室にしまわれてある「甲陽軍鑑」の、信玄殿が書いてくれた新しいページを見ても、

彼らの話と同じ事が書かれてあった。


「そういや上杉会は、皆がそれぞれの仕事を持っているって言うけど…?」


書類に判をくれと持って来た山本にふと聞いてみた。


「そうだな…俺は健康食品の販売してるし、宇佐美は精肉や飲食だし」

「甘粕と政宗は私も知っている通り、ホストクラブとソーシャルゲームだし…。

ぺさんは? ぺさんはどんな仕事をしていた?」

「ああ、姐さん? 姐さんは会長職と姐の仕事を兼ねていたから、

俺らで言うしのぎってのは少なくてね、みんなの手伝いぐらいだったよ。

人が足りないとか、忙しいとかそういう時に回ってくれてさ」

「ふうん…ぺさんは本当に大変だったんだな」


ぺさんがいなくなって、姐の仕事は若頭である山本の奥さんに代行してもらっている。

男の私では、さすがに姐の仕事は出来なかったからだった。

こうしてぺさんがどんなに忙しかったか、どんなに大変だったかを思うと、

やはり離縁は間違っていなかったと思う。

離縁する事で、私はぺさんの負担も減らす事が出来た…。


家に帰って順番に風呂を使い、居間で三人集まって合戦の準備をする。

その時、政宗が言い出した。


「謙信さ、X-DATEの『クラブLOVELY』加入なんだけど、

あれネットでちょっとした騒ぎになってるよ」

「まことか」

「うん、あれだけのプレイヤーだから、狙ってた連合が他にもたくさんあってさ。

『なんでそんな無名の弱小連合選んだんだ』とか」


政宗は明るい色の髪を、タオルでぽんぽんと叩きながら笑っていた。

私もそれに苦笑した。


「『クラブLOVELY』は無名の弱小連合か」

「いやいや、今に牙をむくから…てか、今がそのタイミングじゃね?」


甘粕も上半身に保湿クリームをぺとぺと塗りながら笑った。

政宗も甘粕もさすがは夜の仕事をしているだけあって、

ホストを辞めた今でも美容には気を遣っているらしい。


「…了解、連合チャットにその事書いておくよ」

「今度のイベントでうちと戦える位置まで来てよ」

「それで、イベントでは一旦政宗のところに負けておいて、

そこから這い上がって二強に上がり、半年に一度の『天下統一フェス』で優勝する…。

そんな筋書きでどうだ?」

「いいですよ」


その夜の合戦は「クラブLOVELY」の勝利で終わった。

X-DATEが後半に大技を駆使して、点数を稼ぎに来るかと思っていたが、

意外にも、倒れた味方が再起するための土台になってくれたり、

複数攻撃で敵の大技の発動を阻止してくれたり、

敵の能力を下げる技や、味方の能力を上げる技を使ってくれたりと、

支援に徹してくれているようだった。

そう、まるで「よーじ」さんのように…。


「はっぴーはうす」にいた頃のX-DATEは、高い戦力と課金力を活かし、

強い補助スキルをがんがん発動させつつ、派手な大技を惜しげもなく使い、

大量得点を何度もきめていた、まさに連合一番の得点源だった。

ちょくちょく対戦していた私が、それを直接見ている。

そのX-DATEが「クラブLOVELY」ではなぜ、支援に徹しているのだろう。


“X-DATEさん、もっと得点狙っていっても大丈夫ですよ”


甘粕の筋書きを書き込む前、連合のチャットにそう書き込んだ。

返信はすぐにやってきた。


“ここはダメ過ぎさんの連合ですから…私はよーじさんの代わりを務めたく思います。

私が戦力と課金力で目立つのは簡単ですが、それではお客も面白くないです。

無名の新人であるダメ過ぎさんが、同じく新人の仲間たちと駆け上がる、

そして最終的には天下を統一する、お客はそういう熱い展開を望んでいるはずです”


…さすがわかっている。

本当に何もかも承知の上での加入なのだ。


“ありがとうございます。

それと、連合は今度のイベントから勝ちを狙っていく予定ですが、

そのためにX-DATEさんは必要なカードを用意できますか?

もし資金が足りないなどあれば、いつでも言ってください”


いくらX-DATEが法人とは言え、上杉の仕事に私財を使わせるのは心苦しい。


“ありがとうございます、しかしカードを用意する資金は潤沢にあります”


潤沢にとは…このゲームはその内容から、多くの資金を必要とする。

一般の法人ではすぐに底をついてしまうだろう。

私は返信を書いた。


“X-DATEさんもご存知と思いますが、このゲームは他よりはるかに多くの資金を要します。

いくら法人とは言え、私どもの仕事のために、

何億もの私財を犠牲にさせる訳にはまいりません。

どうか運営からの援助を受けてくださいまし”

“そんなのちっともかまいませんのに…資金は潤沢にあると申したはず。

…たとえそれが数億、数十億であっても”


X-DATEは億単位で資金を用意できるのか…!

一体どういう人物なのだろう。

上杉はそれが仕事だから、そういう金は用意してある。

そしてその売り上げで回収も出来る。

その回収を抜きに、ただ消費するためだけに支払えるとは…。


“どうして私どものために、そこまでしてくださるのですか?”


…目的は何だ? 何か他に目的があるのか?


“同業だったよしみ…それだけです。

ただ上杉さんを助けたい、力になりたい、本当にそれだけなのです”


「上杉」…!

X-DATEはこのゲームが上杉の運営だと知っている…!


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