第40話 敵将
第40話 敵将
「ちょっ…『X-DATE』がうちに加入申請してるよ」
私がそう言うと、甘粕と政宗、そして悠さんまで集まって来た。
「マジか!」
「スパイじゃね?」
「おいも団体戦はすっけんど、敵将自ら来っとは見た事なかでね」
どういうつもりなのだろう。
「はっぴーはうす」が解散してしまっても、「X-DATE」ほどのプレイヤーならば、
かなり上位のところでも、欲しいと言う連合はたくさんあるはずだ。
なぜよりによっても「クラブLOVELY」なのだろう。
連合としての実力が近いからだろうか。
いずれにせよ、「クラブLOVELY」は運営の用意した連合だ。
私の独断でこの申請者をどうするかは決められない。
まずはチャットで報告し、皆の考えを聞いてみる事にした。
彼らの返事を待つ間、私たちは政宗が運転するレンタカーで、
中心街にある、昨日の居酒屋へと移動した。
食事をしていると、連合員らからのコメントがチャットに届き始めた。
やはりスパイではないかという事、申請は却下した方が良い事で一致していた。
しかしながら、私は「X-DATE」がなぜうちの連合を選んだのか気になっていた。
そこでゲーム内の「挨拶」機能を使って、直接連絡を取る事にした。
このゲームには個人間のチャットがないので、「挨拶」が事実上の個人チャットだった。
“申請ありがとうございます、少し話せますか?”
そう送信すると、間もなく了解の返事がやって来た。
甘粕が「挨拶は全体公開だから」と、外部チャットの利用を勧めてくれたので、
私は連合で導入している外部のチャットアプリに、「X-DATE」を誘った。
普段ははゲーム内のチャットを使っているが、端末の故障などの際の連絡用として、
一応全員がアカウントを持っており、グループを作ってある。
そこならば別に新しく部屋を作って、個人間のチャットも可能だ。
チャットはお互いに「こんばんは」で始まった。
“X-DATEさんなら上位連合に行けるはずなのに、
どうしてうちを選んでくれたのですか? ”
皆が画面に注目する中、私は早速本題に入った。
チャットだから、すぐに返信が届く。
“ダメ過ぎさんのところ、最近一人抜けましたよね?
何度も対戦して、「クラブLOVELY」さんの戦いを見させていただきましたが、
これはガチで上位を狙っているなと思いました。
それほどの連合で今から勧誘かけて、教育している時間はないと思います。
すぐにでも戦える人が欲しいと思います。
「はっぴーはうす」も連合員のリアルの都合で解散して、ちょうどフリーになった今、
ライバルとしてでも、ずっと一緒に戦ってくれた連合の危機を助ける時だと思います。
どうか私を戦列の端に添えてお使いください”
「さすがライバル連合の盟主だな…よくわかっている」
甘粕は感心していたが、政宗は首をひねっていた。
「ちょっと待って、まだスパイ疑惑は否定できないよ?」
「わかった、ちょっと聞いてみる」
私は返信を書いて送った、文字での会話が始まる。
“お察しの通り、「クラブLOVELY」は本気で上位を狙う連合です”
“承知しております”
“うちに加入するという事は、「クラブLOVELY」の人間になるという事になります。
失礼ですが、作戦内容など連合の機密は守れますか?”
“もちろん、私も盟主をしていた人間です。そこは心得ております。
ずっとライバルでしたから、スパイを疑うのも当然の事と思います。
そこを承知の上で、加入申請をいたしました”
「おいおい、X-DATE本気だな…どうする謙信?」
「俺もこの展開は読めなかったな」
甘粕と政宗も「X-DATE」が本気で「クラブLOVELY」を心配して、
助けになりたいという願いに驚き、戸惑った。
「まいったな、気持ちはありがたいが『クラブLOVELY』は運営の連合だ。
そこに一般の客を入れてもいいのかどうか…」
すると私の返信を待たず、「X-DATE」から新しい会話が流れて来た。
“「はっぴーはうす」の盟主として、ずっと「クラブLOVELY」を見て来たのです、
そちらの事情は何もかも承知しております。
合戦中の動きから、全員が相当の経験者である事も、
戦力は抑えてあっても、使用スキルから全員が重要なカードを必ず揃えられるという事も、
そしてそんな人員を最大人数、きっちり揃えられるとはどういう事かも”
…「X-DATE」は気付いているのだ。
「クラブLOVELY」という連合が、運営の用意した連合である事を。
「こりゃ…俺らがサクラだって完全に気付いてるな」
甘粕が天井を仰いだ。
「甘粕もそう思うか?」
「秘密を握られた以上は、加入ば許可すっしかなかろうもん」
一緒にいた悠さんも、ウーロン茶のグラスを片手にため息をついた。
「だよなあ、口を封じるにはそれしかないよな」
「俺はかまわないけどさ…甘粕さん、いざって時は身元突き止めて処分出来る?」
政宗がにやにやしながら、刺身に箸を伸ばした。
「あれほどの顧客だ、個人情報は一応調べてある。
ただ、『有限会社飛雀企画』と法人名になっていて、それ以上はつかめなかった」
「マジか、会社でやってんのかよ」
「チームば法人にしっせえプレイすっ事はようあっど。
つまい、ゲームばプレイすっ事が事業ん法人ち事」
彼らのやりとりを聞いて、私は新しい会話を書き込んだ。
“そこまでわかっておいでなら話は早い。
連合内で知り得た情報を外部に一切漏洩しないこと、これを条件に加入を許可します”
“ありがとうございます、「クラブLOVELY」のため尽力いたします”
“私もX-DATEさんのような即戦力を獲得できて嬉しく思います”
それから「X-DATE」とは、前衛に入ってもらう事や必要なスキルなどを話し、
チャットを終了すると、連合員らに事情を説明して加入申請を承諾した。
こうして「クラブLOVELY」に敵軍の将であった「X-DATE」が加わった。




