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第39話 連合「クラブLOVELY」

第39話 連合「クラブLOVELY」


「よーじ」さんの逮捕は、連合「クラブLOVELY」内でも騒ぎになった。

当然、政宗の連合「MANIA CLUB」でも騒がれた。

「和田」さんによると、彼の端末は警察に押収されてしまったとの事で、

手も足も出ず、他の者に引き継ぎも出来ない状態だった。

ゲームの決まりでは、2週間ログインがないまま放置していると、

連合から自動的に脱退となり、他の連合へと割り振られる事になっている。

逮捕から2週間目の早朝、「よーじ」さんは連合から脱退となった。


彼の脱退は、「合戦」でよく当たる「はっぴーはうす」にも知られただろう。

何度も対戦しているから、彼らも「よーじ」さんの重要性に気付いているはずだ。

「クラブLOVELY」は戦力を大きく欠いた、そう思われているに違いない。

次のイベントでもそこにつけ込むつもりだろう。



そんな折、上杉の家に滞在していた直政殿が台湾へ帰る日を迎えた。

私は甘粕と政宗を同行させ、鹿児島まで彼を見送りに行った。

鹿児島では新井博物館で会った悠さんが迎えてくれ、食事会を開いてくれた。

悠さんは根っからの下戸で、同じく酒を飲まない上杉の者らとは気が合った。

そんな食事会の最中でも、合戦の時間になれば私含めた三人は、

スマートフォンを取り出し、料理屋の小上がりで一心不乱に画面を叩く。


「何しちょっ?」


その光景を悠さんは当然不思議がった。


「失礼、これも仕事でね…」

「俺ら三人、今ソーシャルゲームの仕事してるんす。

甘粕さんが運営側で、俺と謙信がサクラ」

「へえ…? おいもゲームはすっど、一時はそいで食うちょったし」

「えっ、マジ? どんな仕事してたの?」


甘粕が刺身を頬張りながら、目を丸くした。

早く食べないと、直政殿に全部食べられてしまう。

直政殿は食べる事に夢中過ぎて、しゃべる余裕もないと見た。


「『サクライゼーション』じゃっど、大会とかイベントとか出ちょったど。

世界一ももろた、『サクライゼーション IF YOU CAN』ち検索したら出っと」


悠さんがそう言うと、甘粕はスマートフォンを覗き込んでまた目を丸くした。


「まいったな…謙信と直政殿の知り合いだって言うから、同業者かと思ってたけど、

まさか世界レベルのプロゲーマーとは」


私と政宗の合戦終了を待って、甘粕は悠さんに事情を話した。

私の「クラブLOVELY」で、連合員の「よーじ」さんが逮捕された事。

代わりの人員を今探している事。


「うーん…すんぐ戦力作れっゲームなら、おいが手伝うてん良かけんど、

ソシャゲやと今日明日んプレイで、そげんデータ作れっもんやなか、ちいと難しかね…」

「そこなんすよ、悠さん」


政宗も大きくうなずいた。


「よーじさんが使っていた端末は警察に押収されている、当然中身も見られている。

俺ら運営側でそのデータを動かす訳にもいかない」

「足がつくち事け」

「新しく人員を育てるにも、やっぱり時間がかかってしまう。

ガチャの操作だけでは解決できないし」

「最初から強かデータば使たらどげんね?」

「それはチートとしてすぐに他の客が気付く、論外だね」


甘粕と悠さんが話している横で、私は合戦の記録を見ていた。

直政殿が私の皿の天ぷらをじっと見つめているので、そっと差し出す。

そうしてまた記録画面に目を戻す、さっきの合戦の記録から対戦の記録へ。


「…あれ?」


私はここしばらくの対戦の記録画面を見て、違和感を覚えた。

直政殿と政宗がそんな私に注目した。


「どしたん?」

「このゲームの『合戦』の対戦相手て、連合の階級ごとに分けられてるはず。

だから対戦相手もある程度、顔ぶれが決まっていたような…」

「そうだね、イベントとかじゃない限り、無茶なマッチングはないね。

だからそれを避けるために、戦略として勝利数を調整するんだけど…」


さすが政宗、そこは運営が作る最強連合の盟主。


「最近、『はっぴーはうす』と当たっていない気がするんだが」

「ランク別なら、上の階級へ昇格したとか?」


水を飲んでようやく一息ついた直政殿が言った。


「まさか、うちも『はっぴーはうす』も今は最高位の階級にいる」


同じ最高位の階級でも、内部でさらに細かく階級分けされているらしく、

さすがに政宗のところとはまだ当たらないが、

最初は全く勝てなかった「はっぴーはうす」 とは、その後好敵手として、

同じ階級で何度も対戦し切磋琢磨して、お互いに最高位まで上がって来た。

ただ、知名度は向こうの方が上だった。

盟主の「X-DATE」がプレイ日数の割に戦力が異様に高く、

その成長力と課金力は、掲示板サイトでも注目されていたからだった。


対する「クラブLOVELY」と盟主の「ダメ過ぎ謙信」は、運営が用意したサクラだったから、

そのへんは心得ており、成長の度合いも調整してあって、

連合順位が上がって来るまで、変に注目される事はなかった。


その「はっぴーはうす」と最近対戦していない、私は古い対戦履歴から、

「はっぴーはうす」との対戦を探し出し、そこから「対戦連合確認」ボタンを押した。


「え…!」


私はリンク先に目をむいた。


「『はっぴーはうす』が存在しない」


普段なら「はっぴーはうす」の連合ページが表示されるはずだったが、

手の内の端末の画面には、「該当の連合は存在しません」と、

少女のイラストのついたエラー表示があるだけだった。


「うっそだろ、解散かよ」


政宗が私の端末を覗き込む。


「何があったんだろう」

「人間関係じゃね? 団体が解散する理由なんて大体決まってるよ」


直政殿が飲み物のお代わりを注文すべく、店員に手を挙げて言った。

悠さんがあれも食え、旨いからこれも食えと、どんどん料理を勧めるので、

私たちは遅くまで飲み食いし、翌日の夕方に港で再び集まり、

知り合いのだと言う、台湾へ帰る貨物船に乗った直政殿を皆で見送った。

巨大な直政殿は、船が遠ざかって行ってもなかなか小さくはならなかった。


船と巨大な直政殿がようやく見えなくなると、私たち上杉の三人はスマホを取り出した。

「合戦」の時間が近かった、移動している時間はなかった。

新着通知がいくつか来ている、どうせ新しいガチャ開催かイベント予告だろう。

ところが今日は連合への加入申請通知が一件あった。

通知から連合ページへ移動してみると、申請者の名前とレベルなど簡単な情報が現れた。

そこには「X-DATE」とあった…。


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