表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/59

第33話 直政殿の絵

第33話 直政殿の絵


「うっそだろ…」

「何これ、超上手い!」


直政殿の丸々と太った手から産み出された絵は、圧倒的な画力をもって、

上杉の三人をきらきらとした、美青年たちが織りなす衆道の世界へと変えてしまった。

雑誌やネットなどに載せているプロでも、ここまで描ける者はそういないだろう。


「これは見事な…直政殿はこんな特技を隠しておられたとは」

「俺はこういう絵しか描けないから、何でも描けるいーさんの方が上手いと思うよ。

日本にいた頃は、部下への指示も絵で行っていたらしいし」


話をしながらでも絵は完成し、その出来映えに甘粕と政宗はきゃあきゃあと、

いい年した中年男たちが小娘のように騒ぎ立てた。


「政宗よ、俺は謙信とラブラブらしいな」

「えー、俺とじゃないの? ね、直政殿、次は俺と甘粕さんの絡み描いてくださいよ」

「オッケー。どんなシチュエーションがいい?」


直政殿は初対面であるはずの甘粕と政宗とも、あっという間に打ち解けた。

夜の7時、仕事であるソーシャルゲームは「合戦」の時間だったので、

当番の政宗が作ったすき焼きを皆で囲みながら、戦いに出ていると、

直政殿がそれを興味深そうに覗いていた。


「…食事中になんでみんなスマホゲー?」

「仕事なんだよ、俺が運営側で、政宗と謙信がサクラ」


鍋に野菜を入れ、その上から酒、醤油、砂糖を足して、甘粕がそう説明した。


「ほーん…あ、それ一応『戦国』ならさ、『新井直政』のカードってあるん?」


直政殿は目をきらきらさせながら聞いた。

合戦の後で政宗がゲーム内のカード図鑑を開いて、「新井直政」と検索した。


「『新井直政』はNカード1枚だけだね…家康の寵愛だったし、強い武将なんだけど、

どっちかって言うと、『三浦按針』と同じで江戸時代の人って印象だから、

『戦国』とはちょっと違うんだよね」

「えー、手討ちの代わりとして、皆に麺を振る舞う家訓『新井の手討ち』とか、

大坂の戦の時に大活躍した、暗殺予定者の似顔絵入りの綴りとか超有名なのにい…」

「…SSR、作ってみる?」


甘粕が直政殿に笑みを含んだ視線を流した。


「えっ、いいの?」

「あ、そうか…!」


私と政宗は甘粕に注目した。

甘粕は運営側の人間、新しいカードを作る事も出来るのだ。


「やったあ、んじゃ絵師は俺ね!」

「甘粕さん、スキルどうします?」

「そうだなあ…『新井直政』だと、前衛は『俺ごとどかん!』じゃないかな?

合戦での自爆プレイが得意だったみたいだし」

「んじゃ、後衛は応援スキル『新井の手討ち』に決まりだね。

麺で味方の能力上昇みたいな感じでさ。秘技か極意には『あの綴り』かな…」


甘粕と政宗が楽しそうに、新しいカードのスキルを話し合っていると、

直政殿が太い手をぶるんと挙げた。


「はい! はい! 補助スキルか奥義に『籠絡』的な最高に強いのを希望します!

『新井直政』と言えば色仕掛け! これに尽きまあす!」

「あの、盛り上がっているところ、申し訳ないんだが…」


形もなくなりかけた玉ねぎなる球形の葱を箸ですくい、私も発言を求めた。


「どうした謙信」

「私は『新井直政』なる武将を知りませぬ」

「まじ?」

「そっか、謙信は知らないんだ…ふふ、絵が出来るまで楽しみにしてて」


直政殿は片目をぱちとつぶって、私に笑いかけた。

翌日、甘粕と政宗が会社で宇佐美に頼んで、パソコンやら何やら貸し出してもらい、

それを家の座敷に運び入れて、宇佐美と三人で使えるように設定していた。


「画像編集はフォトショップとかイラストレータとかでいい? 古いバージョンだけど。

あとネット環境も必要だよね?」


こういう事はなぜか宇佐美が得意だった。


「家でも使ってるから文句なしだよ、ありがとう宇佐美殿」


それから直政殿は時間を見つけては、座敷のパソコンに向かい、

それはそれは楽しそうに、新しいカードのイラスト制作をしていた。

これが井伊万千代直政、戦国の武将だった男か…。

いや、スマホ片手にソシャゲにいそしむ上杉不識庵謙信といい勝負か。


3日後の朝、直政殿が座敷に私たちを呼んだ。


「出来たあ〜」


私たち上杉の者は揃ってモニタを覗き込んだ。

そこにはチラシの裏の落書きとは比べ物にならないほどの、見事な絵があった。

赤備えに身を包んだ武将が、身体に爆弾を巻き付け敵中に飛び込む姿が描かれていた。

これが「新井直政」という武将なのか、なんと勇猛果敢な。

彼に比べれば、上杉謙信など取るに足りぬ武将であった事よ。

しかし、その顔に見覚えがある、どこかで会った事があるような…。


「あれ? この顔、井上会の集まりで会った顧問の吉富さんじゃね?」


甘粕が気付いた。


「ばれた? これいーさんがモデルなの」

「へ、へえ…」


私たち上杉の者らは引いていたが、あとで直政殿と二人になった時、

彼は事情を知る私にこっそり話してくれた。


「『新井直政』はね、いーさんがモデルじゃなくて、いーさんなの」

「えっ…」

「台湾でちょっと話したよね、俺が『戦国から来た人』なら、

いーさんは『戦国へ行って帰って来た人』て」


覚えている。

あの時、直政殿の「井伊万千代直政」の由来を初めて知った。

私の他にも、戦国のあの世からやって来た者がいるという事も…。


「いーさんはね、私と入れ替わりにこの世から戦国へ行ったんだよ。

その戦国で『新井直政』として生きて死んだんだよ」

「新井直政…!」

「ネットで調べた限りじゃ、高齢ながら徳川家康の小姓から始めて、

新しく新井家を創設し、麺料理と技術の発展に尽くしたりとか、

九州討伐とか、島津討伐とか、そりゃもうす〜ごかったんだから。

こんな井伊万千代直政とかデブとは訳が違うよね…ぷぷ」


直政殿は体じゅうの贅肉をたぷたぷ揺らして笑った。


「…で、あのさ謙信」

「はい?」

「俺たちだけじゃなくて、この世には他にも戦国から来た人がいるんじゃないかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ