表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/59

第29話 ソーシャルゲーム

第29話 ソーシャルゲーム


「…『あなたのニックネームを入力してください』と、画面に出ておりまするが、

これは何をすればよろしゅうござりまするか?」


私は甘粕殿と政宗殿に教わりながら、会員登録のための必要事項を入力していた。


「ゲームで使う名前をつけるんす、ゲームの中だけすから本名じゃなくていっす。

俺は本名が『菊川政宗』だから、『菊正宗』にしてるっす。酒の名前っす」


政宗殿は『コーラ』なる炭酸の入った黒い飲み物を、びいどろの透明な盃に注いで笑った。

この『コーラ』なる飲み物は、色は黒だが柑橘のような香りと香辛料が混ざったような味がし、

「お好み焼き」とよく合って、何とも言えぬ美味であった。

…この世には酒よりはるかに旨い飲み物がたくさんある。

もう酒だけが飲み物ではないのだ。


「ふうん…? では甘粕殿は?」

「俺? 『焼肉弁当390円』…俺は管理側だし、時々チェックするぐらいだけどな」

「『焼肉弁当』! そんなんでよろしゅうござりまするか…うーん、迷いまする」


私は腕を組んで天井を見上げ、しばし思案した。


「『ダメ過ぎ謙信』…いかがでござりまするか?」

「いいんじゃないすか?」

「いいんじゃね? まさか本名が『上杉謙信』とは、誰も思わないだろう」


名前も決まり、それからはゲームのやり方を二人に教わった。

ゲームは「もえもえ戦国☆ダンシング」という戦国らしからぬ題名で、

手札をひたすら集めて「デッキ」なる組を編成し、それで戦うという、

私にもわかりやすい仕組みになっていた。

この仕組みは多くのソーシャルゲームで採用されている、「ありがちなシステム」らしい。


手札はゲーム内の「クエスト」なる、小さなゲームでも集まるが、

強い手札は「ガチャ」なるくじ引きの景品となっていた。

「ガチャ」は無料のものと、有料のものが存在する。

当然、最高の手札は有料の「ガチャ」の景品になっているらしい。


「この『ガチャ』で儲けるんだよ、それが俺らの仕事だ」


甘粕殿はそう言って、私にガチャを引くように言った。


「初心者なら歓迎の品として、有料ガチャも無料で引ける券を持っているはずだ。

引いてみろよ謙信、絶対いいの出るから」


私は言われるまま、券を消費してみた。

すると画面に花が咲いてきらきらと光り、極楽浄土と思われる画面に切り替わり、

女人の絵が描かれた一枚の美しい札が現れた。


「おー、上杉謙信だ! 超当たりカードっすね」


政宗殿が画面を覗き込んで歓声をあげた。

私は目をぱちぱちさせた。


「上杉謙信…? 上杉謙信はここにおりまする」

「ああ、謙信は知らないのだったな…。

このゲームのカードは、武将が女性化されて描かれている事もあるんだ。

客寄せだよ、逆に男の武将は女の客が好みそうな絵柄に描かれてある」

「へえ…上杉謙信とかこんな見苦しい小男が、かように美しい女人に描かれようとは…。

まこと面白うござりまするね、他の武将がたも気になりまする」


食後は政宗殿が片付けをしてくれ、私は甘粕殿に教わりながら、

歓迎の品である無料の「ガチャ」を引いたり、自身や手札の強化をしたり、

「デッキ」なる組を組んでみたりしていた。

戦力は数値化されており、手札が強いほど戦力も高くなるとの事で、

この戦力はそのまま「合戦」での攻撃力に反映されるらしい。


「合戦に出るには連合に所属する必要がある」

「連合」

「このゲームをやってる人同士の組だ、合戦はこの組と組の戦いなんだよ」

「ふうん、戦国で言うお家みたいなものにござりまするね」

「政宗はすでに自分の連合を持っている、謙信には新しく連合を作ってもらいたい。

その連合の連合員にはうちで手配した者が入るから」


確か私には政宗殿の対抗馬になってもらいたい、甘粕殿はそう言っておられた…。


「しかし甘粕殿、こんな初心者が政宗殿の対抗馬で良いのでござりまするか?」

「初心者の集団がどんどん強くなっていって、最終的に政宗の連合に勝つ…。

つまり最強の連合を倒して天下を統一する、そういう筋書きだ」

「政宗殿の連合は最強なのでござりまするね…わかり申した、やってみまする」


片付けの終わった政宗殿が戻ったところで、新しく連合を作る手続きを取り、

やはり二人からあれこれ教わりながら、手続きを進めて行った。


「連合への加入は認証制にしてくれ、ここを『OFF』…無効にする」

「…御意。して甘粕殿に政宗殿、連合の名も要求しておりまする」

「そこは政宗の連合に合わせたいから、こっちで命名させて欲しい」

「御意、政宗殿の連合はなんと申すのでござりまするか?」

「うちは『MANIA CLUB』だよ。ほら、『ホストクラブ上杉』て少数の熱心な人向けじゃん?」


政宗殿は甘粕殿をちらりと見ながら言った。

そんな甘粕殿は親指の爪を噛みながら、連合作成の画面をじっと睨んでいた。

「ホストクラブ上杉」で、売れっ子筆頭だった政宗殿は、

長めの明るい髪がぺさんにもらった少女向けの絵物語のようで、華やかな美しさがある。

しかしこの甘粕殿だって、少しも彼に見劣りはしない。

ゆるく波打った黒い髪に、服の上からでもわかる立派な筋肉はどうだ。

夜の世界で身につけた色気は、むしろ彼の方が勝っていると言えよう。

たぶん甘粕殿もまた相当の売れっ子だったのだろう。


「そうだなあ…うーん、『クラブLOVELY』…どうだ?」

「…いっすね甘粕さん、なんか水商売ぽくて。水商売対決か…うん! 見映えする!」

「『くらぶらぶりー』…何と言う意味にござりまするか?」

「『クラブ』は同じ趣味の人の集まり、それか従業員が接待する飲み屋だな。

で、『LOVELY』は『可愛い』、『素敵』って意味の英語」


甘粕殿と政宗殿の二人は、どこかに連絡を取っているらしく、

話しながらも薄型電脳小箱をいじる手を、忙しそうに動かしていた。

私の方の手続きも済み、連合「クラブLOVELY」は立ち上がった。

するとそれを待ちかねていたかのように、私の端末に「加入申請」が続々と届き始めた。


「うちで手配した者らだ、全員了承してくれ」


甘粕殿がそう言うので了承すると、連合に連合員が加わった。

ところが、その全員が私と同じ初心者だった。


「なんと、皆初心者ではござりませぬか…これは一体?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ