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第24話 夫婦のかたち

第24話 夫婦のかたち


「ぺさんに吉富殿、この世の夫婦とは男女で一組ではないのでござりまするか?」


私は目を白黒させてぐるぐる回していた。

一人の男に正室と側室の構図ならば、戦国のあの世にもあった。


「いや、正式には二人で一組だよ…でも今はそれも制度そのものが合わなくなってきたね。

同性が好きな人もいるし、どちらも好きな人もいる。

私みたいな男女どっちでもあるのもいるし、今はいろいろなのさ」

「上杉はシンレイ母さんが中心の、『一粒で二度旨』だよな」

「ソンシルそれ、会う度シンレイが言ってたよ」


吉富殿はぺさんにふふと微笑みかけた。

こうして見ると美しい男性にしか見えないが、言動の端々に女らしさを感じる。

直政殿は吉富殿を「戦国へ行って帰って来た人」と言った。

戦国はそんなに簡単に生き残れる世ではない。

だがこれほどの人ならば、きっと身分高い人の寵愛を得るのも簡単だろう。


翌日は朝から射撃場に籠っていた。

射撃場は伊家屋敷の地下に造られてあり、吉富殿が私の稽古をつききりで見てくれた。

あの世でも種子島なる銃は触った事があるが、この世の銃は種子島どころではない。

吉富殿はまず短銃を貸してくれ、扱い方を教えてくれた。

この短銃は懐中に携行するための物らしく、あの世の武家の刀に相当する。


その短銃ですら、弾が速度を落とさず遠くまで良く飛ぶ。

何よりすごいのは発砲後すぐにまた発砲でき、連射出来る事だった。


「連射とは凄うござりまするね、これならば刀など要らぬのも納得」

「謙信殿、こういうのもあるよ」


次に吉富殿が貸してくれたのは、「アサルトライフル」なる種類の銃だった。

比較的大型の銃で、「マガジン」なる弾倉が出っ張っている。

この銃は引き金を引くと、自動で次々と連射される。

これはまた便利な…複数の敵を相手にする時のための物なのだろう。


吉富殿は私に、命中率を上げるために弾が飛散する銃、

はるか遠くまで精密に狙い撃ち出来る銃など、一通りの種類を触らせてくれた。

ぺさんも直政殿も私の横で、それぞれ練習をしていた。

そんな中、私は直政殿の銃がふと気になった。


「吉富殿、直政殿の銃は面白うござりまするね…ちっとも音がしませぬ」

「ああ、あれ?」


直政殿の銃は短銃だったが、先に太い筒のような口が取り付けられてあった。


「あれはサイレンサーと言ってね、音を消すための道具がついてるのさ。

まさに直政のための物だね、デブは敵に警戒されずに接近出来るから…」

「デブとは、まこと恵みなのでござりまするね」

「何をしても甘く見て、敵が勝手に油断してくれる、本当にデブ最高だよ…!」


吉富殿は直政殿の稽古姿を、惚れ惚れと見つめた。

直政殿の放った弾が的の中央へと、静かに埋まっていく。

…「デブ最高」とは、直政殿のあの強さあっての言葉なのだ。


私は「井伊直政」なる武将を知らない。

同じ世を生きてはいても、私の少し後の人だ。

こんな人と戦場を同じくすれば、私などきっと彼に負けていただろう。

軍神の名に、関東管領の地位に、私はあの世で自分に溺れ過ぎていた。

毘沙門天の生まれ変わりなどと、その思い上がりが今は恥ずかしいばかりだ。


その日より、私は暇を見つけては射撃の訓練に精を出した。

ぺさんも日本では出来ない事だからと、私の訓練に付き合ってくれた。


「上手くなったな…謙信は本当に器用だな、字も上手いし」


夜の寝台で、ぺさんが隣から私の手を取って笑った。

日本へ戻る日も近づいた頃だった。


「ぺさん、せっかくの新婚旅行なのに申し訳ない…」

「構わんよ、それがこの新婚旅行の目的なんだから」


「新婚旅行」とは祝言をあげた記念と、夫婦の親睦を深めるための旅であると、

確か出かける前にぺさんが言っていた…。

そもそも旅で何をすれば良いのか、具体的な事は知らないままだ。


「あの…それで、『新婚旅行』で夫婦の親睦を深めるためには、

具体的に何をしたら良いのでござりまするか?」

「普通はまず観光だよな、あちこち見て回って…珍しい物に触れて、でもな」


ぺさんは私の胸に顔を埋めて、私の腕を自分の身体に巻き付けた。


「本当はこうやって睦み合って、お互いに触れ合うための旅なんだ。

すでに夫婦として暮らしている私たちには、当たり前で今さら珍しくもないが…」

「まことにござりまするね…手を伸ばせば、いつでも触れる事が出来る。

私たちは毎日が『新婚旅行』にござりまするね」


私は一瞬だけ腕に力を込めると、ふとんの中へ頭まですっぽりと潜った。

私自身は気持ち良くなどならなくとも良い。

妻という愛おしい生き物に尽くす事が出来れば、それで十分。


翌日は稽古を休んで、ぺさんと二人で街に出てみた。

並んで手を取り合って歩く…青竹を杖に戦場に出ていた前世を思うと、まるで嘘のようだ。

この世に来たばかりの頃は、足が悪くて歩く事もおぼつなかった。

この世の進んだ医療は、私を妻と共に歩けるようにしてくれた…。


この台北という街には何度も来ているからと、ぺさんはあちこち私を案内してくれた。

最初は寺社や歴史的建造物、博物館など、観光の定番から始まり、

路地裏の食料品店や雑貨店を冷やかして回り、

夕方に茶屋で休憩して、伊家屋敷の吉富殿に迎えの車を頼んだ。

到着を待つ間、私たちは百貨店に入った。

玄関付近に置かれた長椅子にぺさんを座らせ、私は言った。


「ぺさん、私はちょっと厠へ…ここで休んで待っていてくださらぬか」

「早く戻って来いよ」


ぺさんの姿が見えなくなったところで、私は厠とは別な方向へと角を曲がった。

厠とは嘘だった。

服の中へ手を入れて物入れ袋を探る、金は持っている。

渡されてもほとんど使う事のなかった、今までの小遣いだった。

土産代として両替もしてある。


…どうしても買っておきたい物があった。

通院の時の連絡用にぺさんから持たされた、薄型電脳小箱で私は見たのだ。

それはどうしても必要な物だった。

 

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