きっと世界は優しい
「マリちゃん!」
私を呼ぶ声がする。
心配に満ちて、私に会えて安心しているような、そんな声。
人との関わりを数年間絶っていた私にはそれぐらいしか表現できないけど、きっとそういう感じの声。
ヴィーヌ先生とガクト君の間に挟まれる私の姿を見て泣いてくれている人、いや人々。
「マリちゃん!」
再びそう呼びかけた人、ルーナは脇目も振らず、私に飛びついて抱きしめた。
「ごめんなさい。私がマリちゃんのこと聞きすぎて、それで……、ごめんなさい」
どうして彼女は泣いているの?
私なんかのためになんで泣いてくれるの?
どうして、そんなに優しくしてくれるの?
問いかけたいけど問えない。
怖い。
感じたことのないこの気持ちに触れるのが怖い。
「……ごめん、なさい」
「えっ?」
思わずそんな言葉が呟いてしまった。無意識であってもその言葉を使うのはなんら間違っていない。
そもそも、私が彼女との、そしてクラスメートとの関係を悪化させたのが始まりだ。
彼女が謝る必要はなくとも、私が彼らに謝罪しなければいけないのは自明の理だ。
「……ごめんなさい。うまく言えないけど、私は謝らなくちゃいけない」
私は丁寧に頭を下げた。
人前で頭を下げるのは初めてかもしれない。
でも、そこまで悪い気分でもない。
清々しい気分でもある。
人の本当の優しさに触れた気がしたから。
「ルーナ、本当にごめんなさい」
「マリちゃん、こっちこそごめんなさい」
ルーナを初めて名前で呼んだ気がする。
意外と言い淀むこともなかった。
それに、案外気分もいい。
ガクト君が言っていた通り、もっと楽に話せばよかった。
「マリ、すまなかった」
クラスメートの男もそう言ってくる。
私が逃げたら、しっかりと心配してくれる。
私が心を開いてくれたら、しっかりと話しかけてくれる。
どうして、私は目を伏せてしまったのだろう。
どうして、そんな彼らを自ら見放そうとしてしまったのだろう。
どうして、ルーナを、この人を、クラスメートを、嫌いになってしまったのだろう。
どうして、どうして、どうして、どうして?
この世界はこんなに優しいのに、受け入れようとしなかったのは私だ。
勝手に責任を感じて、勝手に塞ぎ込んで、大切なものを見過ごしてた。
でも、もう間違わない。
もう迷わない。
ガクト君も言っていた。もっと気楽にしていいって。もっと頼っていいって。
もっと強欲に、もっと甘えていいって。
だから、そうしよう。
これからはそうしよう。
きっとこの世界は優しいから。
受け止めてくれるはずだから。
少しは自分を、世界を信じてみよう。




