雲は晴れる
「ガクト……ガクト先生ー!」
オブリビアからヴィーヌが駆けてくる。俺の呼び名を気にしたのか、言い直している。そんなことどうでもいいのに。
「マリさん、よかった。無事で」
「先生、ごめんなさい。私のせいで……」
ほら、俺の胸の中で自分を貶めるような発言をしてしまう。それは、優しくもあるけど、良くはないことだ。
「気にしないで。どうせ、ガクト先生が色々無茶したんでしょ。貴方は何も悪くない」
ほら、感じてるか?
ヴィーヌは何も咎めようとしないし、無事であったことを喜んでる。この意味を理解してほしい。
俺の思いはマリにしっかりと届いているのだろうか。
愚問だ。
きっと分かっているに違いない。マリはとても頭の良い子なのだから。
「それよりもマリさん。適切な処置です。今なら、十分に魔法で治せるでしょう」
「……本当ですか?」
「ええ。良く見てて」
ヴィーヌは血で染まったぐるぐる巻きに締めつけられた腕におもむろに手をかざす。
柔らかな光と魔法陣が手のひらから広がり、ゆっくりと俺の傷を癒す。
「……すごい」
「完治できるように治療できたのはあなたのおかげよ。マリさん。もっと酷かったら、治癒は難しかったかもしれない」
「はぁーっ。ありがとう、ヴィーヌ。マリも助かったよ」
魔物の白牙にかけられた俺の腕は、何事もなかったように元の綺麗な腕へと戻った。
「本当に、本当に良かった」
マリは今までこんなんだったかと言いたいばかりの優しい口調でそう言った。
「いい笑顔ができるじゃないか。その顔を二度と忘れるなよ」
本当によろしく頼むぞ。
俺達三人はオブリビアに向けて、ゆっくりと歩き始めた。
俺はヴィーヌに聞こえない小さな声でマリに話しかける。
「少しは落ち着いたか?」
「うん、流石に泣きすぎた」
「それは何よりだ。マリ、もしかしたらこの先でも悩むことがあるかもしれない。誰かに嫌なことをされるかもしれない。でも、その時は自分に責任も負い目も感じなくていい。それだけ、マリは辛いことを背負ってきたはずだから。悪いのは他人。そんな風に気軽に考えたらいい。……それに、きっと今からマリは大丈夫だ。周りにいる人が、ある世界が、きっと受け入れてくれる。もちろん、俺もな」
「……うん。ありがとう」
目の周りを赤くしたマリのその表情は、見違えるほど明るいものだった。




