受けたことと与えること
俺はマリの行方をあてもなく探し続けた。
街行く人々から、黒髪の少女が全速力で街を出て行ったと話に聞き、俺はマリだと信じて追いかけた。
そこにはドス黒い魔物に襲われるマリの姿があって、ギリギリ間に合って良かった……。
「何で、来たの? 凄い血じゃない」
彼女は血相を変えた様子で、俺を心配してくれている。
なんだ、優しいじゃないか。
俺の腕には獰猛な歯型と未だ噛み続けるドス黒い魔物がいた。
激しい痛みと共に血管が掻っ切れてドバドバと血が溢れてくる。
「いってー。……マリ、俺が来たのが何か悪かったか?」
痛みを堪え、そう問いかける。
「そんなことより、早く手当を。それよりもまず、その魔物を倒さないと……」
彼女はとても慌てた様子であわあわと迷い、頭を抱える。
「気にすんな。生徒を守るのは教師の役目だ」
そう呟き、魔物を睨みつける。
「お前とも、何か腐れ縁でもあるのかな?」
俺に噛みつき続ける魔物には見覚えがあった。
俺がこの世界に来た時、初めて襲われた狼のような姿の魔物。後に、ヴォルグウルフと名付けた凶暴な魔物だ。
「俺が守られたんだから、今度は俺が守らないとな……」
「……えっ?」
涙を浮かべてあたふたし続けるマリは俺の言った意味が分からないようで、頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「おらっ!」
残ったもう一本の手で服の内ポケットからナイフを取り出し、ヴォルグウルフの脳天に突き刺す。
「クォーン」
痛みを感じたのか、弱々しい声を魔物はあげる。
しかし、最後の抵抗とばかりに狼の牙は俺の腕深くまで食い込む。
「ぐはっ」
「ガクト君!」
マリの悲観の声は俺に力を与えた。
「……マリはまだまだ子供なんだ。お前にも生きる理由があるように、俺もマリを守る理由がある。すまねぇがやられてくれ」
慣れない利き腕と反対の手でナイフを力一杯振るった。
「クゥゥゥゥゥゥン!」
断末魔の声をあげ、狼の魔物は他に伏せた。
血飛沫を止めていた牙がゆっくりと外れ、溢れ出すように血が飛び散った。
「ヒック、ヒック。どうして、……来たの?」
マリは自分の羽織っていた服を少しばかり破り適切に俺の腕を処置した。
ベテランの看護師のような手際の良さで。
「そんなに、俺のことが嫌いか? いてっ!」
「……いや、今はそんなことじゃなくて……」
涙を溜めて、適切に処置するこの少女は何もおかしいところもない、普通の女子高生そのものだ。
おかしいとすれば、彼女の心を変えてしまった周りの有象無象だ。
……変えてあげなければ。
彼女が普通の女の子に戻れるよう、……いや、例え人と違っても楽しく過ごせるように心のあり方を変えてあげなければいけない。
「マリ、話がある」
俺は腕の痛みに耐えながら、マリの双眸をしっかりと覗いた。




