激走と逃走の果て
「はあはあ……」
息が苦しい。
足が痛い。
これ以上は無理……。
痙攣する足に限界を感じたのか、私の頭は走るのをやめさせた。
私の前に広がる景色は知らぬ間に街を抜けていて、荒野に飛び出てしまっていた。
「はあ、やり過ぎちゃった……」
息を切らせながら、無駄に独り言をつく。
背後にあるオブリビアの街から、結構離れて来てしまったようだ。
「でも、今の私にはここがいいのかも……」
息を整えてまた無駄に独り言をつく。
この嫌な記憶が反芻する限りは、一人でいたい。
「ガクト君が言ってたっけ。荒野は一人じゃ危ないって。でも、私に何かあってもみんな何とも思わないよね……」
虚ろな双眸で何もない地平線を眺める。
青く茫洋たる空と枯れ木以外虚無に等しい大地。
遠くには陽炎が蠢き、また別の方向にはオブリビアへ伸びる一筋の鉄塊がある。
喉が渇いた……。
「あのパイプの中に水が流れてるんだよね。飲みたいけど遠いな」
私は喉の渇きを激しく感じながらも、その場を離れる勇気も力もなかった。
「ガァオオオオオ!!!」
「ふっ!」
いつの間にか眠りに就いていた私は獰猛な呻き声に叩き起こされた。
「ガァオオオオオ!!!」
私の視線の先には、私を睥睨する魔物の姿があった。
鋭利な牙と黒い体表。四本足を携えた狼のような魔物。
そんな凶暴な魔物は私を睨みつけて放さなかった。
「やばっ」
私は咄嗟に体を動かそうとした。
しかし、眠気が残る上、全力マラソンした後の足ではうまく動かせなかった。
睨みつける凶暴な眼差しは、刹那の速度で私へと迫り、鋭利な白牙を大口を開いて覗かせた。
「ぐはっ! 痛ってぇー!」
私の目の前で庇うように腕が差し伸べられ、魔物の白牙が腕を血で染めた。
「大丈夫か? ……マリ」
「何……してるの。ガクト……君?」
そこには痛みに耐えながらも笑顔を作るガクト君の姿があった。




