唯一の逃げ道
「お前はどうして言わないっ! ちゃんと説得しろっ!」
「マリちゃんがかわいそうじゃない。少し許してあげましょうよ」
「ふざけるな。マリのために幾ら払ってると思ってるんだ」
「そのお金はマリが渡して……」
「そんなことを言ってるんじゃないっ!」
私の父と母は喧嘩を始めてしまった。
何日も何日も醜い言い争いを繰り返し、時折何かがガシャンと割れる音がする。
これも私の責任だ……。
「ふざけるなっ! お前がこんなだからっ!」
「私が悪いって言うの?」
「ああ、お前の責任だっ! バァン!」
何かを叩いた音がした。
父親は最近母に暴力を振るうようになってきた。
なんで、こうなってしまうんだろう……。
「やめて……」
「ちゃんと言うんだぞ!」
父親は部屋を離れていく。
「ごめん、母さん」
私は部屋の中からそう言った。
母親は優しい口調ででもどこかネジが外れたような弱々しい口調で母は答える。
「あなたは悪くないから。私達が……あなたに……抱え込ませ過ぎて……でしょ?」
「ごめん……」
「謝らないでっ!」
母親は口調を激しくさせる。
「謝られたら、虚しくなっちゃう」
「……ごめん」
そう答えるしかできなかった。
何もできない自分への嫌悪感を表すのにはその言葉しか選べなかった。
その後、母と会話することはなかった。
「うん?」
ある日私のパソコンに見知らぬアドレスからメールが届いた。
「件名 ご提案
私達の機関に来ませんか? 自己嫌悪による障害や対外者に不満や辛い気持ちを感じている方は私達の研究機関で数ヶ月間暮らし、回復を図りましょう。これは、国家から認証を受けた研究機関による通告です。あなた様には、上記に該当すると判断されました。もし、自分を変えたいと望むのなら、他者と一度隔絶したいと考えるのなら、一度話をしませんか?」
私はそのメールを見てすぐに返信した。
「よろしくお願いします」と。
……数日後。
両親は離婚する運びとなった。
私の親権は母親に移ったが、今の精神状態では養育は不可能だった。
私は自ら志願し、研究機関への移動を決めた。
「初めまして。私達の機関へようこそ」
白衣を着た女性が私を迎えに来た。
政府が管理している施設に入り、食事や生活に必要なものを提供してもらいながら、暮らし始めた。
施設には、障害のある者や悩んでいる者、など思春期辺りの少年や少女が何人かいた。
私はその誰とも関わらず、自分の部屋に閉じこもり、電子的な機械が溢れる部屋で淡々とゲームと研究を繰り返した。
難しい研究も多かったが、少し読めば覚えられてしまうし、新しく発展させられてしまう。
私はやっぱり変われない。
どこにいても変われない。
そんな生活は二年ほど続いた。




