魔法の欠点
ヴィーヌ以外を自分の家に残し、外へ出た。どうしても気になることがある上、ヴィーヌ以外はまだ意思疎通が取れないためだ。
「よーし、この辺でいいだろう」
自宅から少し歩き、集落の外に出た。
辺りは、枯れ木と雑草ぐらいしかない、まさに荒野である。
「で、聞きたいことなんだが…」
「うん、何…?」
「あの、不思議な力は何なんだ?」
ヴィーヌは、訝しげな表情を浮かべる。
「不思議な力って、何の…こと?」
「えーと、俺を助ける時に使った炎とか、ロイと話す時に使ってたやつとか、そういうもののことなんだが」
「あー、あれなら皆…できるよ」
「そうなのか?」
「うん、ロイもティカもルースもパトラも、ここにいる人達は…みんな使えるよ」
「へぇー」
(あんな異能力が全員使えるとは、一体この世界はどうなってるんだ)
そう考えていると、ヴィーヌが提案をしてきた。
「良かったら…見る?」
「いいのか?」
「疲れるけど、少しだけなら」
「なら、頼む」
「うん」
そう言った、ヴィーヌは何もない荒野に右手を伸ばす。伸ばした手のひらには、以前と同じような、魔法陣らしきものが浮かび上がっている。
「はぁー!」
力を込めたその声が響くと、ヴィーヌの周りを白い光が包む。
数瞬で光が消えると共に、魔法陣も消えていた。
「うん? 何も起きて……」
「ズドーーーーーン!!!」
何もない荒野に、突然現れた雲から凄まじい轟音をたて、雷が落ちた。
開いた口が、ずっと閉じずにいた。
「ふうーーー」
ヴィーヌは長い溜息をついて、ヘタリ込んだ。
激しい運動をした後のように、疲れている。
「やっぱり、疲れ…る」
開いた口を強引に動かし、ヴィーヌに尋ねる。
「さっきの雷、ヴィーヌがやったのか?」
「雷って、あのピカピカのこと……? それなら私がやった」
「それって、普通の人間なら絶対にできないよ」
「そうなの? なら、私…凄いんだ」
それにしても、本当に疲れているようだ。少しの間、動けそうにない。魔力切れというやつだろうか。
「おい、ヴィーヌ本当に大丈夫か?」
「うん、何か食べれば…治ると思う」
「そうか、ならこれを食え」
そう言って、ポケットの中からクッキーを取り出す。何かあった時のため、非常食として家から持ち出していたものだ。
「ガクト、ありがとう…」
そう言って、ヴィーヌにとって初めてであろうクッキーを頬張った。
クッキーを食したヴィーヌは、彼女が言った通り、元気になった。
「これ、美味しい、また…食べさせて」
「あっ、ああ」
彼女が起こした雷に未だ動揺しているが、頭を切り替え冷静になって考える。
(俺が昔、RPGのゲームを極めようとした時、ゲーム内で魔法を使ったことがあったな。その時は、魔法を使うための魔力は、宿で休めば回復していたが、こいつは少し違うのかもしれない)
俺の推理を証明するために、ヴィーヌに尋ねる。
「ヴィーヌ」
「何?」
「さっきの力を使った後、何もせずに寝ていたら、次の日に同じ力を使うことはできるか?」
「前にそんなこと…あった。でも、その時は起きてからも、動けなかった」
「そうか、ありがとう」
(この力は眠ることで回復はしない。ゲームとは全く仕組みが違う。でも、何か物を食べると動けるようになる。つまり、この力は、魔力という抽象的なもので起こしているのではない。食物エネルギー、いわゆるカロリーを消費して発動させているのだ)
「ヴィーヌ、今日からその力を『魔法』と呼ぶことにする」
「『魔法』?」
「ああ、そうだ。だが、その魔法をあまり多用するな」
「どうして?」
「お前らのためだ。必要な時は俺が指示する」
「ガクトがそう言うなら、…分かった」
笑顔を浮かべて、答えた。
(もし俺の推理が完璧に当たっていたら、ヴィーヌ達が魔法を使えば使うほど、余計なカロリーを消費し、栄養失調に向かって、拍車をかけてしまう。その恐れがある以上、俺が止めなければいけない)
俺はヴィーヌ達を守る決心をした。