惨めと逃亡の記憶の始まり
「ドンドンドンっ!」
俺の部屋の扉をけたたましい音で誰かが叩いている。
「はいはーい」
俺がそう言うとものすごいスピードでヴィーヌが入り込んで来た。
「ガクト……はあはあ」
よほど焦っているのか大きく息を切らしている。
「なんだ? そんなに急いで。何かあったのか?」
「マリが……」
「……? マリがまた何かやらかしたのか?」
「……教室からいなくなって……」
「はっ!?」
俺は焦った。
彼女がただ問題を犯すことならよくあることだが、教室からいなくなるのは全く想定外の事態だ。
「俺の家に帰ったんじゃ?」
願いをこめてそう問いかける。
「私もそう思ってガクトの家に行ったけど、……いなかった」
絶望と心配が俺を襲った。
俺は抗うようにヴィーヌに一言言った。
「残りの作業任せるっ!」
「えっ!」
彼女の疑問の声を無視して、俺は部屋を飛び出した。
「まだ、街のことよくしらねぇんだから、馬鹿なこと考えじゃねぇぞ!」
「はあはあ……」
私は走った。
学園を抜け出してよく分からない街を走った。
思いの外広いオブリビアの街の構造はまだ把握していない。
ここどこだろう。
体も痛い。
息も苦しい。
でも、どうでもいい。
私は走るだけだ。
それでも、記憶は頭の中から生まれ始めた。
暗い暗い闇の中からはっきりとした映像が生まれてくる。
抗いないように。
「あああああっ!」
叫んで走るしかない。
私にはそれぐらいしかできない。
それは、私が小学生の頃から始まった。




