マリの実力
「それでは、早速ですが、授業を行います。皆さん、ノートはありますか?」
他のクラスを見に行き、帰って来ると自己紹介は終わっていた。
始業式後から授業なんて、よっぽどの変わり者でもない限り、嫌がるに違いないだろう。
「先生、ノートが無くなったら、どうすればいいんですか?」
一人の生徒(まあまあな大人)が質問した。
「オブリビア学園が支給します。紙もインクもまだまだ発展が少ない為、仮にどこかの店で売っていたとしても、かなりの高額になると予想されます。だから、足りなくなればいつでも声をかけてください」
「分かりました」
丁寧な対応と綺麗な微笑に生徒はニヤケ顔を見せる。
これが日本の夜の街の出来事なら、確実に職質ものだろう。
「では、授業を始めます。今日は数学の授業です」
ヴィーヌは設置された黒板に白いチョークで文字を書き出す。
チョークもこちらの世界でようやく作られだした、最新技術に近いものだ。
「今日は三角関数についてです」
ヴィーヌの授業は滞りなく進んだ。
計算された分かりやすい授業は、俺も眼を見張るものであった。
「sin、cos、tanというものがあって…」
「先生っ!」
突然、マリが声をあげた。
「はっ、はい。何ですか?」
ヴィーヌは動揺を見せながらも問いかける。
「早く、問題を出してください。面白くないんで」
辛辣に、堂々と、ヴィーヌはそう言った。
「えっ、でもまだ理解に追いついてない人も……」
「詰め込み教育? ってやつよ。やるだけやろうよ。先生」
駄々をこねる子供のようにマリはそう訴えた。
「皆さんはそれでもいいですか?」
ヴィーヌが他の生徒に問いかけると渋々頷く。
「では、三角形ABCにおける角Aのsinを答えて…」
「二分の一です」
単調な口調でマリはそう答えた。
「せっ、正解です」
「凄い」
マリの実力の高さに皆、驚きの表情を見せる。
「では、次の問題を…」
ヴィーヌの問いかけに他の生徒の回答を許さず、利己的にマリは答え続けた。
俺はその光景を見て、不思議で仕方がなかった。
高校に入れないなら、かなりおつむが弱いのかと思っていたのだが、高校レベルの問題を入学してまもない少女が答えるなんて、全くもって想定外だった。
「ったく、何であいつ高校に行けなかったんだ?」
俺の疑問は深まるばかりだった。
授業は途中からマリの独壇場になり、ヴィーヌも困った表情を続けていた。
と言っても、マリは間違えている訳ではないし、そこまで悪いことをしてるとも言えない為、言及できなかった。
「先生っ!」
「はっ、はい」
「何も面白くないので、帰っていいですか?」
マリはまた無茶苦茶なことを言った。
進学早々、こんなことをやらかすとは意外とヤンキーだったのか?
「いや、まだ授業は終わっていないし」
「すみません。私、こういう性格なので…」
マリはそう言って、教室を飛び出した。
俺の目線を感じる暇もなく、マリはテクテクと学園を出て行ってしまった。




