提案
「学校?」
マリは訝しげな表情を浮かべた。
「そうだ。お前が行けなかった学校に行ってみないか?」
俺はこの少女に教育を受けて欲しかった。
知ることの面白さを知り、青春というものを謳歌して欲しかった。
将来学校に行かなかったことを、後悔しないように。
「そんな施設、ここにあるの? まだ、できてあんまりたってないんでしょ」
「つい最近できた。今年の4月10日。その日がオブリビア学園の開校日だ。俺の権限でクラスの一つに入れておくから大丈夫だ」
「ふーん、別にいいけど…さあ。ガクト君は日本に帰りたいと思わないの?」
唐突な疑問に俺は心をえぐられた気がした。
「えっ?」
「普通の人間なら、元いたところに帰りたいはずでしょ。ガクト君は違うの?」
確かにそうだ。
今まで考えようとしなかったが、なぜ俺は帰る手段を考えようとしなかったのだろう?
そう疑問にした時、意外と簡単に答えが出た。
「そうだな。確かに当たってる。でも、俺はこの世界から離れたいと思わない」
「どうして?」
「今の生徒達には輝きが足りない。何かを為し得ようとする気概がない。でも、ここの住人達は違う。生きる為に、学ぶ為に、皆必死にもがき、足掻いている。その姿は本当に輝かしい。俺が求めていた姿がここにはあった」
「生徒って、ガクト君先生でもしてたの?」
「してたじゃない。今も教師だ。ここの住人達を贔屓するのは、今までの生徒達に悪いが、俺はそれでもここの人達を尊敬している」
「ふーん」
彼女は納得したように頷いた。
「それよか、話を戻そう。で、どうだ? 学校に行ってみないか?」
「まあ、どっちでもいいけど、ガクト君がそう言うなら、行こうかな」
彼女の言葉に俺はホッとした。
「ガクト君に促されて、つい二つ返事で了解しちゃったけど、あんまそそられないなー。せっかく、逃げてきたのに、また囚われちゃうのかな? でも、まあ。クラスメイトは私をすぐに疎ましく思うよね。そうしたら、また自由になれるかも…。誰もいない、一人きりの自由に…」
そんなことを彼女が考えていたことなんて、これっぽっちも知らなかった。
そのことを知るのにまだまだ時間は必要だった。
……4月10日。
「うっ、うーん」
俺はソファに差す朝日に起こされた。
ぐぐーっと伸びをして、起き上がる。
ソファに寝ていたおかげか、首が少し痛むが、そんなことはどうでもいい。
今大事なのは、遅刻をせず、真っ当な開校宣言をしなければいけないことだ。
ベッドでは何も気にしていない様子で、悠々と眠るマリの姿があった。
その傍らにはパトラがデザインした朱色のブレザーと真っ白なシャツ、ヒラヒラと揺れるスカート、胸元を彩るリボン。イコール、オブリビア学園オリジナルの制服がある。
俺はその制服を見て、思わず笑ってしまった。
予想もつかない未来に。
生徒達の輝きに。
さあ、歴史的な1日の始まりだ。




