お泊まり
マリと共に俺達はオブリビアを巡った。この国が、どのような成り立ちで出来たのか、魔法というものの存在、住人達の存在。
説明し得ることをできる限り説明した。
「分かったか? 魔法っていうのは…」
「はいはい。ガクト君、その話はもう覚えたから…」
「ああ、そうか」
マリの呆れた顔を見て、話を終えた。
「それにしても凄いね」
「…何が?」
「この街をたった数ヶ月で作ってしまうなんて」
マリは風景を確かめながら、そう答えた。
「ああ、それが魔法の力だ」
俺も納得したようにそう返した。
「地球では考えられない、空想上の産物。ここに来れてよかったかも」
マリの顔はホッとした様子だった。
俺はその表情が不思議で仕方がなかった。
例え、良い人と街に出会ったとしても、自分の知らないところに突然放り出されて、狼狽えないのは俺ほどの変わり者でもない限りおかしい。
俺は彼女のその表情に何かの危うさを感じた。
「で、ガクト君。私はどこに泊まったらいい?」
唐突にマリが尋ねてきた。
「そうだな、お前今日初めて来たんだっけな。この街にホテルらしきものはないし、例えあったとしても、金持ってないだろうし…」
俺が考え込むとマリが答えを出した。
「なら、ガクト君のうちに泊めてよ」
「へっ?」
思わず声が上ずってしまった。
「何日間でいいから…」
「いや、コンプライアンス的に何かやばそうな…」
「いいよね、ガクト君?」
彼女の強引さに従う他なかった。
「…どうぞ」
「お邪魔しまーす」
自宅にマリを招くと、躊躇なくうちに飛び込んだ。
「おおーっ、凄いね!」
俺の自宅の本の山を見て驚嘆の声をあげた。
俺の本は一部、オブリビア図書館という施設に寄贈し、保管してあるのだが、活版印刷の技術を取り入れ、書物の増刷ができるようになったため、未だ俺の自宅を離れられない書物が山積みであった。
「ほぉー、物理学。難しそう」
ペラペラと本を流し読みし、マリは答える。
「そういえば、マリは日本にいた頃何してたんだ?」
マリは本を閉じ、返答する。
「歳は15だから、高校に…」
「ああ、新入生だったか」
俺が食い気味に答えると彼女は首を振った。
「行けなかった。高校に行けなかったの」
何も答えられなかった。
とてつもない地雷を踏んだ気がして。
「まあ、別にいいけどね」
彼女は笑っていた。
無邪気に。
なんてことないように。
「まあ、悲しい話題は置いといて、ガクト君。何か料理作って。少しお腹が空いたから」
彼女の声に頷き、食材を取り出した。
「何がいい?」
トーンを抑えた声で問いかける。
「何でも。少し食べられればいいから」
「…そうか」
俺は今朝獲ったファイアバードの肉を捌き、火にかけ焼き出す。
……数分後。
「ほら、出来たぞ」
言葉通り直火で焼いた肉をマリに差し出した。
「いただきます」
椅子に座って、律儀に合掌した後、マリは肉を一口齧った。
「…うん」
彼女の表情が少し緩んだ。
「美味いか?」
「うん、これなら食べれそう」
マリはさらに一口、もう一口と、肉を美味しそうに食べ続けた。
食事が一頻り終わり、ひと段落すると、俺はマリに提案した。
「あのマリ、少しいいか?」
「うん」
ソファに座るマリは疲れているようだった。
できるだけ手短にしよう。
「マリ、学校に行ってみないか?」




