バースデー
俺がこの世界に来て、どれくらいになっただろう?
もうこの魔法世界の生活にも慣れてしまったが、一応ここは異世界なのだ。
そんなことを考えていたのは、冬を越え暖かくなり始めた日の路上だった。
「学校のやつら、怒ってるかなー? 死んだことにされてるかな?」
独り言をダラダラと呟き、慣れた帰り道を歩く。
オブリビアの学校も、もう少しで開校し、基本的には順風満帆だった。
ただ、冬場のこの世界の厳しさはかなり凄く、農耕に助けられた。
「はあー、疲れた。早く寝よう」
自宅の扉を開けると、中には人の影があった。
「あれ、鍵閉めたはずなんだが…」
不法侵入者に注意を払いながら、リビングに行くと見覚えのある髪色の五人が座っていた。
「帰ったね、ガクト」
声を出したのはロイだった。
「お前ら、どっから入った?」
「魔法で鍵を作らせてもらったんだ」
「それ、犯罪だから。法律忘れたのか?」
「まあまあ」
ロイが宥めるので仕方なく咎めるのをやめ、問いかける。
「で、何しにきた?」
「それは、私が答える」
立ったのはヴィーヌだった。
「祝いに来たの」
「…はっ?」
「あなたの書物を見ていたら、誕生日っていうのがあって、その日は家族や友人と祝う日なんでしょう?」
「ああ、とりあえずはそうだな」
「でも、私達はいつ生まれたのか明確に分からない。だから、思いついたの」
ヴィーヌはカレンダーに指を示す。
「確か、今日が私達とガクトが出会った日でしょう?」
今日は3月30日。
明確には覚えていないが、俺がこの世界に来たのはこの辺だった気がする。
「だから、この日を私達の誕生日にしようと思って」
「で、そのパーティーを俺ん家でやろうと…」
「ええ」
彼女は微笑を浮かべて頷いた。
「まあ、それくらいならいいか。あまり、騒ぎすぎるなよ」
俺は部屋を貸し、誕生パーティーの開催を許した。
「私が料理をする」
ティカがキッチンへと向かう。
「私とロイは食器の準備ね」
「わかったよ」
パトラとロイは食器棚へ向かう。
「ヴィーヌ、俺達は?」
「飾り付けをしましょう。この本に色々書いてあるから」
「ああ」
ヴィーヌとルースは本を片手に、何か装飾を作り出した。
残された俺は、何もすることがなく、疲れていたので、ベッドに横たわった。
そして、知らない内に瞼を閉じていた。
「ガクト、起きて」
「…うん? ああ、寝てたのか」
俺はベッドから、ゆっくりと起き上がり、時計を確認した。
帰った頃から二時間ほど経っていた。
「ガクト、料理できたから食べよう」
ヴィーヌは優しく誘ってくれた。
「ああ、ありがとう。じゃあ、貰おうか」
テーブルに置かれたティカの豪華な食事は眼を見張るものがあった。
「おお、うまそうだ。食べていいのか?」
椅子に座り、唾を飲み込んで問いかける。
「ちょっと、待って」
ヴィーヌは机の下に隠していたものをゴソゴソと取り出した。
「はい、どうぞ」
「うん、なんだ?」
俺は訝しげな表情をする。
「私達の感謝の気持ち。ちょっとしたプレゼントだよ」
「あっ、ありがとう。中見ていいか?」
「ええ、もちろん」
中には、カラフルに彩られたミサンガがあった。
「おお、いいじゃないか。どこでこれを?」
「作ったのよ、五人でね。魔法と本を利用してね」
「へぇー、ありがとう。嬉しいよ」
俺はもう一度それを見直した。
すると、自然に一筋の涙が頬を伝った気がした。
「あれ、ガクト泣いてるの?」
笑みを浮かべたヴィーヌが問いかける。
「そんなことない」
俺は反論するが、全く説得力がなかった。
元の世界にいた頃も泣いたことなんてなかった。でも、今は泣けてしまった。彼らとの交友が本物であるからだろう。
「さあ、料理が冷めちゃう。食べましょう」
ヴィーヌの一声で料理に手をつけ始めた。
オブリビアの街は、夜でも以前よりずっと明るくなっていた。




