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天才教師が魔法世界で救世主になる物語  作者: 松風京四郎
第二章 オブリビア建国編
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ヴィーヌの本懐 信頼と懐疑

「そのソファに座ってくれ」

「あぁ、はい」

俺は、ヴィーヌをソファに誘導した。

オブリビアが建国して以来、それぞれの人に住居ができたため、一度も人を家に入れたことはなかった。

「で、どうしたの?」

ヴィーヌが不安げにそう尋ねる。

「ちょっと、話をしたいことがあったな」

「何のこと?」

「ふー、率直に言うぞ」

俺は大きく息を吐きそう答えた。

「ええ」

「お前の悩み、そして将来のことだ」

「………っ!」

ヴィーヌは体をビクッと反応させ、口を閉じた。




「お前、この前何もしたいことないって言ったろ」

「……」

ヴィーヌは頑なに口を閉ざす。

「でも、俺は違うように見えるんだ。何かしたいことがあるように見える。そこんところどうなんだ?」

俺は出来るだけ気兼ねなく、いつもの調子で問いかけた。

「……ない」

「本当か?」

「ないって」

「本当に本当か?」

「ないって言ってるでしょ!」

ヴィーヌは声を荒らげた。

目にほんの少しの涙を浮かべて。

「なら、なぜお前はそんな顔をしてる」

俺は詰問することを、少し悔やみながらも問いかける。

「それは……」

彼女は再び言い淀んだ。

「本当に何も無いなら、そんな辛そうな顔を浮かべるはずがない。俺はそういうやつを、元いた世界で何度も見て来た。だから、断定できる。お前は何かに苦しんでいると」

彼女は下を向き、口を開こうとしない。

俺は諭すように伝える。

「別に俺はお前を追い詰めたいわけじゃない。ただ、そんな顔をして欲しくないだけだ」

「……」

「ヴィーヌはずっと考え続けているのだろう? 素晴らしいことじゃないか。考えすぎは良くないとかよく言うが、俺はそんなことないと思う。合否を理解するために塾考することは、尊く誇らしいものだと思う」

「……」

「でも、一人で背負わなくてもいい」

「……っ!」

彼女は少し頭を上げた。

「考えられるのは自分だけじゃない。そんな自分だけが特別だと思うな。みんな、悩みを持っている。でも、一緒に考えてくれる仲間もいる。もっと、周りを見ろ。そして、頼ってくれ。その方が俺もみんなも、ヴィーヌも楽なはずだから」

ヴィーヌは涙をこぼした。

ソファにシミがつくほど泣いた。

だが、その涙は錆びついた歯車に油を注ぐように、ヴィーヌの何かを動かすきっかけになったと俺は思った。




涙を散々流したヴィーヌは、少しずつ口を開き出した。

「……私は、やりたかった」

「ああ、何を?」

「……先生」

俺は理解した。

彼女の言う先生とは、文字通り教師のことである。

オブリビアが建国され、随時建築中のこの国の教育施設の先生に彼女はなりたかったのだ。

「そんなこと、言ってくれればよかったのに」

「でも、自信が無くて…」

将来、完成される学校には教師が数十名配属されることになっている。

選定はまず、希望者を募り、選抜テスト、面接を経て、数十名を採用することとなっている。

教育がないこの国では、判断できるものが俺以外におらず、全て俺に一任されている。

もちろん、俺が鶴の一声を放てば、誰であろうと先生になることはできるが、そんなつもりは更々なかった。

例え、ヴィーヌのように俺との親交が深い古株であっても、実力が無ければ、切り捨てるつもりであった。

それほど、教育というシステムを俺は重要視していた。

「でも、話してくれれば、もっと楽になれただろ。俺をもっと頼ってくれよ」

「……ごめん」

「それよりも応募期間はもうあまり時間がないんじゃないか?」

「ええ、明日の正午まで」

「なら、早く投降してこい」

「まだ、できない。自信がないの…」

ヴィーヌがソファにもたれかかり、気を落とした様子を見せた。

俺は優しく甘やかな声で語り出した。

「一ついいことを教えてやる」

「……?」

彼女は訝しげな表情を浮かべた。

「俺にお前の将来を決める権利はない。決めるのはヴィーヌ自身だ。だから、自分を信じろ。信じれないなら、疑え」

「どういう意味?」

「言葉通りだ。自分への信頼と懐疑。これで、だいたい解決できる」

「そんなこと今までだって…」

「やってないよ。ただひたすらに足掻いてるだけだ。お前はずっと同じところにい続けて、駄々をこねて、ぐるぐる回ってるだけだ。必要なのは前進か後退。どこでもいいから、動くことが必要なんだ」

「でも…」

「もう一度言う。俺はお前の将来を決めることはできない。だから、考えろ。自分を信じて前進するのか、自分を疑い後退するのか。どちらでもいい。動くことにこそ意味がある。それを続ければ、きっと光明が差し、快方へ導いてくれる」

「考える」

「そう、考えるんだ。悩むんだ。信じるんだ。疑うんだ。そして導き出された答えこそ、君に相応しい道だ!」

「うん、分かった。今日1日考えてみる。迷ってみる。自分が本当にやりたいことを見つけるために」

「ああ、それでいい」

ソファについた涙の跡はすっかりと無くなり、窓から見える景色は薄暗くなっていた。




……翌日正午前。

「もうそろそろ、締め切りだな」

俺は申し込み受付前で立っていた。

すでに応募は200通ほど届いており、倍率はものすごく高くなっていた。

「はっはっ、ガクト!」

息を切らし右手に髪を携え、ヴィーヌは駆けてきた。

「それ、やるんだな?」

「うん、もう迷わない! 私、やってみる」

「よし、応募を受け取った。頑張れよ!」

俺は髪をクシャクシャっと撫でた。

彼女は久しぶりの笑顔を浮かべた。

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