ヴィーヌの本懐 悩み
「ルート選手、敵陣に切り込むっ! フェイントを躱して、ルース選手にパスだ! キーパーも逆を突かれ、反応が遅れた。ゴール!!!」
ルートとルースが手を合わした。
「わぁーーーーー!!!!
熱い青春展開に会場のボルテージも上がる。
そう、俺は今、サッカーを見ている。
パトラがプロデュースした次の案は、スポーツだった。
その第一弾として、サッカーが使われたのだが、先日の競天馬と同様に、住民達は造られたスタジアムに皆、集まっていた。
「盛り上がってるわね」
「そうだな。正直喧しいが……」
疲れた表情を浮かべる俺の隣には、微笑を浮かべるヴィーヌがいた。
「これっ、サッカーって言うのね?」
「ああ。俺がいた世界では盛んに行われていたスポーツだ」
「へぇー。ガクトのいた世界って、いろんなものがあったんだね」
「まあ、そうだな」
俺はその内に顔が陰っていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。ただ……」
「ただ?」
「あんまり、いっぱいあり過ぎるのも、結構辛いもんだと思ってな」
「どうして?」
「以前、ゼロから生み出すのは難しいって言ったろ」
「ええ」
「まさにそれだ。物や考え方があり過ぎて、全く新しい物を生み出すことがしにくい。だから、人は先人の知恵に頼るしかない。何度も同じことを学び、何度も同じことを教え、その繰り返しをずっと続けなければいけない。それって、本当につまらないと俺は思うんだ」
「でも、私達の街では全てが初めてで、全部役立ってるでしょ。だったらいいじゃない。ポジティブに捉えましょうよ」
彼女は微笑を浮かべ続け、そう答えた。
「まあ、そうだな。今更、元の世界のことを顧みても仕方ない。生きるために、一方的に使わせてもらおう」
俺はそう言って、口角を上げた。
「ルース選手ハットトリック!」
「わぁーーーーー!!!」
ゴールネットを揺らしたルースに会場が歓声を上げる中、俺とヴィーヌは小さく手を叩いた。
その時の彼女の表情は、どこか悩みに満ちたものであった。
観戦を終え、スタジアムを出て行く中、俺はヴィーヌを連れ、帰路につくこととなった。
「そういえば、ヴィーヌはしたいことないのか?」
「…………っ!」
ヴィーヌは思わず、ビクッと震えたように見えた。
「うん? どうかしたのか?」
「ううん。問題ないわ」
「それで、どうなんだ? 何かやりたいことはないのか?」
「う〜ん、特に思いつかないかな」
ヴィーヌは表情を曇らせながら、そう言った。
「そうか。お前が望むんだったら、協力したかったんだが、無いなら仕方ないか」
「ええ、私は大丈夫だから」
俺達はその後、無言で歩き続けた。
「あっ、いらっしゃーい。ガクト」
「ああ」
俺はヴィーヌと別れ、ビストロティカに訪れた。
「今日はどうする?」
「ティカに任せるよ。何でもいいから、オススメを三品くらい出してくれ」
「分かった」
俺は暖かなロウソクの灯りに照らされながら、膝をついて耽っていた。
一緒に暮らしていた5人の中でも、一番世話になったヴィーヌにまだ何もしてあげられていなかったからだ。
「何もない……か。どうしたらいいか?」
俺が小さく独り言を漏らすと、ティカが料理を運んできた。
「はい、今日のサラダ。どうぞ、召し上がれ」
「ああ、頂きます」
体を起こして、フォークで一口。
ほのかな酸味が心地よい、美味しいサラダであった。
しかし、俺の顔は笑みを浮かべることができなかった。
「あら、お口に合わなかった?」
ティカは少し心配そうな顔を浮かべていた。
「いや、そんなことはない。いつも通り、美味しいぞ」
俺は、咄嗟に笑顔を作り、そう受け答えた。
「なら、よかった。でも、今日のガクト、何だか様子が変ね」
「分かったか。まあ、そうだろな」
「何かあったの?」
「聞いてくれるか?」
「私で良ければ」
俺は少し考え、ティカに話すことを決めた。
仄暗いロウソクの灯りが照らす中、俺は口を開いた。




