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天才教師が魔法世界で救世主になる物語  作者: 松風京四郎
第一章 魔法世界の救世主編
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ヴィーヌ

少女に引っ張られ、たどり着いた場所は一軒の住居であった。

他の建物よりは少し大きめの建物ではあるが、周りと大差ないほどボロボロな状態であった。

「……っ、……っ!」

裾を引っ張り、急かしてくる。

「はいはい、分かったから」

強引に部屋の中に入れられると、中には少女と同年代の子供達が数人いた。

「おっ!」

予想だにしないことに、驚き声が漏れてしまったが、子供達に恐れられても困るので、グッと堪える。

少女を含めて、子供達の年齢は推定、15〜16歳。中学生か高校生ぐらいだ。

少女を含めて、女性が三人、男性が二人の計五人がいた。

安心したことに、彼ら四人は少女ほどやせ細ってはおらず、栄養失調の兆候も軽そうである。

「こいつらは、お前の友人か?」

「………っ、………っ!」

やはり、分からない。

おそらく彼らは、話すことはできるのであろうが、話すための言葉を持っていない。

つまり、赤ん坊のような状態なのだろう。

突然、少女は一人の少年の手に、自分の手を重ねた。するとお互いの手から、魔法陣のようなものが浮かび上がり、一瞬部屋が光に包まれた。

数秒後、光は消え、魔法陣らしきものも姿を消していた。

「お前、いま何をした? 俺を助けた時と、同じようなことか?」

聞いても無駄なことだが、つい尋ねてしまう。

少女の様子を見ると、少し疲れているようだ。少年も同様に、体力を使った感じがする。

(この不思議な力は、体力を消費するのか)

勝手に推測し、勝手に納得していると、突然、4人の少年達が飛びついてきた。

「何だ、何だ?」

「……っ、……っ!」

案の定、理解ができない。

ただ、どことなく喜んでいるように見えた。

「おい、やめろって」

そう言いながらも、心なし嬉しくも思えた。

子供の純粋な笑顔を見るのは、嫌いではない。

金髪の少女が再び裾を引っ張り、部屋を出た。もちろん、少年達4人も一緒にだ。




家に帰り、俺は悩みに悩んでいた。ライフラインが止まった今、使えるのはソーラーチャージャーとそれに接続できるタブレットやスマホ、乾電池で動くもののみだ。

冷蔵庫も動いていないため、食料の保存が心配になる。

一応、溶けないうちに氷をクーラーボックスに詰め、生鮮食品や日持ちしないものを入れているが、正直いつまで持つのか自信が無い。

水も然りだ。備蓄で2リットルのペットボトルが10本あるが、これもいつまで持つか心配で仕方がない。

その上、1人だけでなく5人になってしまい、食料の減りも早い。

せめて、彼らと意思疎通出来れば、少しは変わるかもしれないのだが。

「こいつらと話すことができれば……」

「……話す……何…を?」

「うん?」

思わず、後ろを振り返る。

「言葉…話せば…いい?」

「話せてるじゃねーかーー!」

「うわぁ…、びっくり……した」

全く抑揚のない声で放たれた言葉に、頭が回らなくなった。

赤ん坊であれば、生まれてから一年以上普通にかかるはずなのに、この少女はたった数時間で喋れるようになった。

こいつはもしかすると、とんでもない天才なのか?

「それで…、あなた……何…聞きたい?」

何とか驚きを噛み殺し、冷静になって答える。

「とりあえず、お前らの名前を知りたい。なんて呼べばいいか分からないからな」

「名前…って……何?」

「はい? 名前ってのは、自分を定義するための言葉かな?」

「わから…ない。あなた……私に…つけて?」

「俺が、お前の?」

「……うん」

(確かに言葉が存在していないなら、名前がなくても当然だ)

心の中で受け止めて、考える。

(ずっと、独身貴族を貫いてきたからな、急に名前を付けろって言われても、困るな)

何も思いつかないので、彼女を見る。

彼女は、俺の様子に首を傾げる。

(こいつの目立つところは、金髪。金髪…金髪。金といえば、金星。金星を英語にすると、ヴィーナス。ヴィーナス、いい名前だが、少し長いな。よし、こうしよう)

「よし、今日からお前の名前は、ヴィーヌだ」

「ヴィーヌ…、それが…私の名前。ありがとう、名前…つけてくれて」

「お、おう。あぁそうだ、俺の名前は才賀学知。改めてよろしくな」

「ガクト、これから…よろしく」

紛れも無い笑顔を浮かべながら、そう言ってくるヴィーヌの姿には、これからの大変な運命を予感させた。

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