ルースの英雄譚
これは夏の日差しがきつくなってきた頃のことである。
オブリビアに未曾有の危機が迫っていた。
レーダーなど存在するはずがないこの国では、危機に怯えるものなど存在しなかった。
しかし、ある男のお陰で街は救われる。
その男の名はルース。
俺はその記録を伝えると誓おう。
それは、その日の前日に遡る。
「あっついなー」
俺は街を巡りながら、オブリビア発展のために尽力していた。
しかし、荒野の真ん中にあるオブリビアは、夏場の暑さは非常にキツかった。
全てを蒸発させそうな太陽と、水分を数分で奪う乾燥。
基本室内で授業を続けてきた俺としては、正直倒れそうだった。
「そんなこと言うな。大したことないだろう」
「お前基準で語るな」
「すまん」
一緒にいるのはルースである。
俺が仲間と共に作った政策に良からぬ感情を抱くものがいないとも限らないので、警備をしてもらっているというわけだ。
「それにしても、本当に暑くなったな」
「まあ、それは納得できる。夏場の暑さがここまでこたえることはなかったのだが……」
「そうなのか?」
「ああ。ここまで暑くなることはなかったはずだ」
異常気象の話をしながら、俺達はある建物の前に着いた。
といっても、まだ工事中なのだが。
「これが、ガクトの理想なのだな」
「ああ、そうだ。今のところ順調に進んでる」
見上げているのは、建設中の学校だ。
「ここで、教育ができれば未来が安定する」
「ガクトが言うなら、その通りなのだろうな」
ルースと俺は微笑を浮かべながら、語り合う。
「それじゃあ、次のところへ行こうか?」
「ああ、了解だ」
俺はルースに移動を促して歩き出す。
「ガクト、ちょっと待て!」
急にルースに引き止められた。
「どうした? 何かあったのか?」
「ああ。あくまで可能性かもしれないが、この街が地獄に変わるかもしれない」
ルースは、遠く荒野を見ながらそう呟いた。
翌日、俺達はルースの指令で外壁の外、荒野に出ていた。
「本当に何が来るのか?」
「分からない。なんとなく、そんな気がしただけだからな」
「それやばくないか、ほらっ!」
俺が目をやったのは、ルースに呼ばれて集まった数十人の住人である。
皆、ルースに懐疑的であり、訝しげな表情を露わにしている。
「何もなかったら、後で俺が謝罪をいれる。だから、待っていてくれ」
ルースは頭を下げて、住人達に頼み込む。
住人達は、渋々了解したらしく、荒野を見つめ直す。
「で、何が来るってんだ?」
「いや、分からない。だが……来たようだ」
「えっ?」
荒野を見れば、砂煙をあげて何かが猛スピードで迫って来ていた。
「あれが、この暑さの正体だ」
砂煙の中には陽炎が走り、紅い光と熱を放ちながら、二本の足で迫る小さな竜。マグマリザードとでも言うようなものが、何百体という群れを引き連れやって来ていた。
「なんだあいつは?」
「分からない。だが非常に危険な気がする」
マグマリザードは、人間には到底辿り着かないスピードで、猛然と街に突き進んでいた。
「どうする気だ。あの数じゃ相当の魔法を使わないと……」
「俺がやる。俺に任せろ!」
ルースは魔法陣を広範囲に作り出し、リザードの袂に巨大な穴を開けた。
「ガァァァァァァァァ!!!」
何百もの悲鳴が荒野にこだました。
「今だ。あいつらを攻撃しろ」
住人達は、ルースの魔法に呆気にとられていたが、気を取り戻し魔法を放つ。
マグマのような体表を凍結させ、温度を急激に冷やす。
熱いものが急激に冷えることで、瞬間的に硬直し、リザードは動きを止めた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然の出来事で街の外に出て来た住人も、ルースの機転で街が救われた一部始終を見て、歓喜に沸いた。
「救われたよ。ルース、お前のお陰で助かった」
俺はルースに賞賛の声をあげた。
そして、その日から街を救った英雄として、一躍有名になったルースは、その日から何人もの女性から求婚され、てんやわんやすることになるのだが、今はそのことはいいだろう。
それよりも讃えよう。
英雄の誕生を。




