ティカのレストラン 料理の実食
魔法で急速に成長していったこの街は、そろそろ完成や様相を伺わせる程になってきた。
街を囲う巨大な壁。
整備された道路。
趣のある住居。
ヨーロッパ調の暖色系の色彩感で、建設されたその全てが、国の完成を心待ちにしていたようだった。
そんなある日、ティカ希望のレストランが完成間近になっていた。
「おお〜、よく出来てるな。かなり、洒落てるぞ」
「うん、いい感じ」
店の前に立ち、全体像を眺めながら話す。
彼女の店は、周りの景色に浮くことなく、かといって目立たないわけでもない、見た目の点では十分及第点だ。
クリーム色の壁とレンガ調の屋根のコントラストが美しい、一階建てのレストランだ。
扉の上には、「ビストロティカ」と緑色の看板に書かれている。
「これは、お前が考えたのか?」
「うん。ガクトの本を漁ってたらこんな言葉が出てきたから、使わせてもらったの」
「まあ、店に違わぬ名前なんじゃないか?」
「そう? ありがとう」
「で、一つ気になったんだが、ティカって本当に料理できるのか?」
ティカは、得意げな笑みを浮かべる。
「じゃあ、ちょっと試してみる?」
俺とティカは、開店前の店に入る。
店内は、シックな雰囲気で、焦げ茶色の壁が、洒落た喫茶店を想起させた。
「そこに、座って待ってて」
「ああ」
俺はティカに誘導され、数ある机の一つの椅子に腰を下ろす。
「トントントントン!」
俺が待っていると、調理場で包丁を叩く軽快な音がなってきた。
いつの間に覚えていたのだろうか?
……数分後。
「はい、一品目」
「うまそう」
綺麗に盛られたサラダだ。
「この野菜はどこで?」
「ガクトに教えてもらってから、色々研究して、自分で育ててみたの」
なんと、自家栽培ですか。
意識の高いことで。
「じゃあ、いただきまーす」
俺の試食が心配なのか、じーっと俺を見つめてくる。
少し食べにくいのだが……。
「はむっ。う〜ん、美味い!」
正直ここまでだとは驚いた。
野菜の苦味とドレッシングの酸味が丁度よく絡み合い、見事な風合いを醸している。
「よかった。お口にあったようね」
「ああ、これなら十分通用するぞ」
「なら、もう一品食べて!」
そう言って、調理場に消えていく。
……また数分後。
「はいっ、どうぞ」
白い皿に盛られて出てきたのは、何かの肉を焼いたステーキのようなものだ。
「この肉はなんだ?」
「ファイアバードを焼いたもの」
「ほお、なんとも美味そうな。パクっ」
しっかりと咀嚼する。
「美味いっ!」
溢れる肉汁と、跳ね返すような強い弾力が、甘酸っぱいソースと見事に調和している。
高級フレンチでディナーを楽しんでいるようだ。
「そう。これなら大丈夫そうね」
「ああ、美味かったよ。ありがとう」
「今後の自信になったから、礼はいらない」
「あの一つ提案なんだが……試食会を開いてみないか?」
「試食会?」
……数日後。
ティカのレストランの前には大勢の住人が集まっていた。
食材は、俺が声をかけていた従者何人かをティカの元に派遣し、全力で集めさせた。
「おお〜、やってるやってる」
レストラン前に簡易的に作られた調理台で、華麗に腕を振るっているティカの姿が目に映った。
「あっ、ガクト。手伝い寄越してくれて助かった」
「ああ。喜んでくれて何よりだ。それで、そのお手伝いさんは何処へ?」
「えっ、そこで寝てるけど?」
ティカが示した方向に目をやると、ぐったりとした従者達が折り重なるように眠っていた。
「相当きつかったんだな。ご愁傷様だ。でも、手伝ってくれてありがとな」
手を合わせて、礼をする。
「はいっ、どうぞ」
「あっ、ありがとう」
ティカは、目の前にいる客に料理を提供する。
「おっ、美味しい!」
「美味い! 久しぶりにこんな美味いもん食ったの初めてだ!」
「お姉ちゃん、美味しい!」
子育てに大変な主婦や、育ち盛りの子供、仕事帰りの男まで、ティカの料理に笑顔を浮かべていた。
国造りを始めてから、住人達には食料確保のために、満足した食べ物を提供できなかった。そのことを考慮すると、今の彼女の料理は至高の品であるだろう。
「そう言ってくれて、私も嬉しい。まだ、あるからどうぞ食べて」
ティカは、笑顔を零しながら、食事を促す。
「ティカ。楽しいか?」
俺は笑みを浮かべ、質問を投げかける。
「うん、楽しい。採って、作って、食べて、食べさせて。料理で人の役に立てるのは楽しい」
「そうか。それはよかったな」
「ガクト、ありがとね。私のために色々…」
「いや、俺はお前達に助けてもらってばっかだ。だから、俺ができることをやっただけだ。気にしなくていい」
「うん、でも、ありがとね」
電気的な光は一切無く、ぼんやりとした火の灯りが、優しく街を照らしている。国として成り立つのも、もう少しだろう……。




