熱々の白粥
「おっ、目が覚めたか。本当によかった」
何とか自宅にたどり着いた俺は、金髪の少女をベッドに寝かせ、懸命の救命処置を行い、意識を取り戻すことができていた。
「よし、お前は栄養失調だから、消化のいい料理を作ってやる。少し待っとけ」
「…………」
「まあ、そんな体じゃ、話すこともままならないよな。何も気にせず、休んどいてくれていいから」
「…………」
俺は暗黙の了解を確認すると、部屋を出た。
訳も分からない世界に来たせいで、電気、ガス、水道といったライフラインは全くもって、使い物にならなかった。
そのため、家にあったライターと新聞紙、その辺に落ちていた木の枝などを使い、外で焚き火をしていた。
その上に土鍋を置き、米と災害時用に備蓄していた水、塩などを入れ、白粥を作る。
できた白粥を皿に盛り、少女の元へ運ぶ。
「調理師免許を持つ俺の自信作だ。消化の良さや必須栄養素なんかもしっかり考慮してある。さあ、食べろ」
スプーンに乗せた白粥を、そっと少女の口元へ運ぶ。
「…………」
少女は無言で首を振り、躊躇った。
「大丈夫。うまいから。ほら、食え」
半ば強引に、口に運ぶと、少女は咀嚼し始めた。
「よし、偉いぞ。食べられるだけでいいから、しっかり食え」
気のせいかもしれないが、咀嚼する少女の顔は、どことなく嬉しそうだった。
お手製白粥を完食すると、少女の表情は生気を取り戻し、明るいものになっていた。
(いまなら、話せるかもしれない)
「じゃあ、急で悪いんだが、この世界のことについて聞いてもいいか?」
「………………っ?」
首を傾げている。
(言語が違うのか?)
「ハロー?」
「………」
「ニーハオ?」
「………」
「オラ?」
「………」
「ボンジュール?」
「………」
主要何カ国の言語はペラペラなのだが、どうも通じないらしい。
(この世界独自の言語があるのだろうか?)
そう思った俺は、棚の中から紙とペンを取り出し、少女に渡した。
少女は訝しげな表情を浮かべていたので、実際に紙に文字を書くジェスチャーを見せ、少女に伝える。
しかし、彼女は首を傾げ、理解していない様子だ。
「もしかして、言葉がないのか?」
「……こ……と……ば……?」
初めて少女が、声を発した。
麗しい小鳥のような声だ。
少女の声のニュアンスからすると、どうやら予想通り、言葉というものが存在しないらしい。
「これは、困ったなぁ。言葉がなければ、どうしようもない」
そう困っていると、少女はゆっくりと立ち上がった。
「おい、大丈夫なのか?」
「…………っ」
服の裾を掴み、必死に何かを訴えている。
「おい、何だ?」
「…っ、…っ!」
少女は外を指差し、俺を引っ張って連れて行こうとしている。
「外に何かあるのか?」
言葉の意味を理解してはいないだろうが、首を縦に振っている。
「分かった、分かったから」
少女に導かれるまま、俺は外に飛び出した。