新たな目標
災厄の巨龍タイラントドラゴンとの戦いを無事生き残り、俺達は途方に暮れていた。
それはなぜか?
何もすることがないからだ。
魔物の肉も保存できる上、農耕もそれなりに安定してきた。
魔法を使い、守りを固めれば、正直優雅に暮らせる。
果たして、どうしたものか?
俺はそんなことを考えながら、戦いの翌日に巨龍を加工していた。
「ちっ、硬いなー」
発達した漆黒の鱗は、ナイフの刃が簡単に通らないほど、硬く強いものだった。
「くっ、くっさ!」
ようやくのことで、鱗を引き剥がし、巨龍の肉が現れたのは良かったのだが、掃除していないトイレに、生ゴミを長期間放置したような、とにかく形容し難い異臭を放っていた。
「これは、食えたもんじゃないな」
食べられないものだと勝手に判断し、近くにいたロイに声をかける。
「ロイ、これはどうも食えそうにない。焼いてくれ」
近づいてきたロイも顔をしかめる。
「うっ、くさっ! 確かにこれはダメそうだね。僕が責任を持ってやっておくよ」
「ああ、くさっ! 頼むよ」
俺は鼻を押さえながら、その場を離れる。
集落に戻った俺は、農業に勤しむティカとルースの姿を見つけた。
「おっ、そろそろ収穫できそうだな」
畑の野菜を覗き込みながら、そう答える。
「ああ、このキャベツというやつが特に良さそうだ」
「新しく植えた作物も、順調。8月頃にはできそう」
ルースとティカは本物の農家のようにそう答えた。
因みに、ティカが暦を使っている件について答えるとするならば、数字の概念や計算を5人が理解したため、現世界の暦に従い、カレンダーを作り、覚えているから使っているのだ。
カレンダーは、俺がここに来た3月末を基点に始めている。
「ガクト、これからどうするの?」
唐突にティカにそう聞かれた。
「どうするって言われてもな。あまり思いつかないしな。ティカは何がしたいんだ」
ティカは一切の曇りなく答えた。
「私は食料を育て、捕まえ、料理したい。それが楽しいもの」
「そうか、お前に合っているかもしれないな。ルースはどうなんだ?」
「あまり、想像したこともないが、強いて言えば、この集落を守りたいかな」
ルースは、生真面目な顔でそう答えた。
「ルース! お前、意識高いな」
「よくわからんが、ありがとう」
そう言うと、俺は笑いながら、二人と別れた。
俺は部屋に戻り、ソファーに深く座って、考え事を始めた。
「あら、先に帰っていたの?」
何かの作業をしていたパトラが、部屋に帰って来た。
「あっ、ああ。ちょっと考え事をな」
「考え事?」
銀髪を左右に揺らしながら、聞き返してくる。
「あの巨龍を倒してから、正直やることが思いつかなくてな。怠惰に過ごすのも悪くないかもしれないが、働かざる者食うべからずって言うし、何かしたいんだ」
「ふ〜ん」
あまり、関心がなさそうにパトラがそう返した。
「パトラは、何かやりたいことはないのか?」
「私? 私は特にないわ。基本的にしんどいのは好きじゃないし、遊べるならやってもいいけど」
「そうか。その答えが一番困るんだが」
「そんなこと、言われても知らないわ。考えつかないもの」
パトラは、それが当たり前のように答える。
「なら、ロイかヴィーヌが何がやりたいかとか知らないのか?」
「そうねー。ヴィーヌは分からないけど、ロイなら一つあるわ」
「ほおー、なんだ?」
「確か、何かを研究したいとか言ってたわね」
俺は納得するように首を上下に振った。
「研究者か。確かにロイに似合っているな」
「私には、何が楽しいのか分からないんだけどね」
パトラは、再び興味がなさそうな顔を見せる。
「ありがとう。参考になった」
「ええ。お役に立てたなら、よかったわ。それじゃあ、私はまた外に行くから」
そう言って、ゆっくりと外へ向かっていた。
「シェフに守護者に研究者、それに遊戯か。皆、やりたいことはあるんだな」
部屋の中に独り言の声が響く。
「ただ、それを出来る環境がない。なら、俺達で……」
俺は今後の方針の糸口が見えた気がした。
「で、報告ってなんなの?」
ティカが不満そうに言ってくる。
「こら、ここでは敬語を使いなさい」
「面倒くさい」
そう、ここは家裏の青空教室である。
俺はここに、生徒兼、仲間を集めた。
ある報告をするために……。
「で、結局なんなんですか。先生」
「ああ、今後の方針について説明をしようと思ってな」
「方針、とは?」
ルースが尋ねる。
「一言で言うと、『国』を作ろうと思う」
「国?」
皆、不思議そうな顔を浮かべる。
「そうだ。簡単に言えば、多数の人間が集まった共同体のことだ」
「どうして、そんなものを作ろうと考えているの?」
ヴィーヌが質問する。
「俺は皆の話を聞いて、少なくとも何かやりたい気持ちがあると知った。だが、現状それを満たせる環境がない。だから、何かができる環境を作る。国っていう明確な目標を立ててな」
俺の言葉に納得するように、皆頷く。
「………………っ」
皆の動きの中に、聞き覚えのない声が聞こえた。
振り向くと、俺の知らない青年が立っていた。
「誰?」
「………………っ?」




