タイラントドラゴン
俺は初めてその姿を見たが、ヴィーヌ達が話していたものより、圧倒的にやばそうであった。
全長10メートルはある体躯、それを支える強靭な足、その先に生える爪、全身を包むドス黒い鱗、凶悪な顔から覗かせる牙。
この魔物の持つ全ての要素が、存在感の凄みを増させていた。
「とりあえず、土手っ腹に一発、ぶち込んでやれ!」
「了解!」
「イェッサー!」
ルースとティカが砲台につけられた導火線に火をつける。
……数秒後。
「ドッカーン!」
「ドッカーン!」
爆音をあげて二つの鉄球が飛翔した。
「バン、バーン!」
二つの鉄球は、巨龍の腹に見事直撃した。
「…シェアアアア!」
巨龍が悲鳴をあげる。
「よっしゃ、成功だ。物理攻撃が効きそうだ。続けるぞ……?」
攻撃を受けたところに、謎の黒い瘴気のようなものが集まり、当たったことなどなんのそのと言いたいばかりに、傷は消え去っていた。
「おいおい。マジかよ」
ロイが大声で言ってくる。
「あれが、前言ってた、あいつの厄介な部分さ。どうする?」
数秒悩み、回答を出す。
「とりあえず、砲撃を続けろ。ロイがルースと交代して、打ってくれ」
「わかった」
砲台の元へ、ロイが走る。
「ルースっ!」
「何だ?」
「ロイがそっちに行く。交代して、前線に行け。その剣であいつを切り裂くぞ」
「了解した」
「ルースっ!」
ロイが砲台まで辿り着いた。
「ああ、頼むぞ」
「もちろんさ」
「ルースっ! もう一つ言っとくが、やばいと思ったらすぐ逃げろ。無駄死にする必要はないからな」
「心得た!」
俺の指示に、溌剌とした返事をすると、猛スピードで巨龍に向かって行く。
「ヴィーヌっ! パトラっ! お前らはルースの援護だ。ルースがやばくなったら、盾を張って、援護しろ」
「わかったわ」
「いいわよ」
「シャアアアアアアア!」
巨龍は唸り声をあげながら、大きな爪を突き上げ、振り下ろしてきた。
「やばい、ルースっ! 退避しろ」
「いける、心配ない!」
ルースは振り下ろされた巨大な前足を、自分にぶつかる直前にスライディングするように回避。
即座に魔法を発動し、剣を硬質化させて、刹那の速さで切りつけた。
「シュピーーーン!」
鋭く、速く、振り抜かれた剣は、その姿を留め、反対に切りつけられた前足は、足の先端部分が、美しく切断されていた。
「あっぶねー、ルース危ないじゃないか」
「成功したから、いいだろう。それに、お前に見せてもらった回避術がうまく使えると思ったから、やってみたんだ」
こいつは、俺がジャイアントボアの時に見せたように、屈んで滑り込む動きを取り入れていた。こいつも学習しているのだ。
「オゥゥゥゥゥ…」
心なしか、巨龍も弱っているように見える。
「よし、攻めるぞ! やれー!」
一斉放射の指示をする……が。
「おい、ちょっと待て」
すぐに停止させる。
「ボワァーー」
不気味な音を立てながら、切られた足が黒いオーラに覆われていき、何事もなかったように再生していった。
「マジですか。これはもう、打つ手なしかもしれない」
俺はこの瞬間思った。
この魔物は、ふらーっと町に現れて、傍若無人に逆らいようのない暴力を振るう。
まさに、自然災害のように。
「こいつの名は、タイラントドラゴンだ」
俺が諦めの言葉を言ってから、形勢は明らかに逆転した。
タイラントドラゴンの爪は、岩でできた外壁を抉り、放たれる黒いオーラは、少しずつ外壁につけられた棘を侵食していった。
「やばいな。ガチでやばい」
俺は頭を抱えた。
「どうするの? これじゃあ、前の二の舞になる」
心配した様子で、ヴィーヌが言ってきた。
「ああ、そうなんだが。正直、弱点が見えてこない」
俺が、闇弱だったのか?
俺の考えが間違っていたのか?
追い詰められて、自己否定をしてしまう。
焦燥感に浸っている場合じゃないのに。
「ガクト、どうするの? このままだとやられてしまうよ」
パトラが追い打ちをかけるように、聞いてくる。
「そう…だな。規模が小さめの魔法を打ってくれ。とにかく、色々な種類で」
「わかったわ。皆にも伝えてくる」
そう言って、パトラは歩き出す。
「あの壁が持つのは、長く見積もっても、あと1時間ぐらいだ。そのうちに答えを見つけないと」
「私も、魔法を使ってくる。体が持つ内にお願いね」
「ああ、必ずやってやる」
ヴィーヌが走っていく。
さっき、自信満々に言ったが、正直保証できそうにない。
予測を立てるには、決定打に欠けるものしかない。
だから、今から見つけるしかない。
それが俺の役目だから。
「皆、頼む。限界まで耐えてくれ」
大声で呼びかける俺に、頷きを見せる。
……外壁の破壊までおよそ1時間。




