少女との出会い
「本当に何も無いなー」
独り言を垂れ流ししながら、学知は周りを見渡す。
外に出て、初めて気づいたが、民家らしきものは一つだけでなく、ポツポツと点在していた。
そう呼称して良いものか気になるが、一応集落らしい。
俺の家はその集落のど真ん中に、建っていた。幸い、大した傷は無いようだが、移動の際に消えてしまったのか、屋根は無くなっている。
部屋に一度戻り、護身用のナイフとフライパンを手にし、集落を散策することにした。
この集落の文明レベルは恐らく、縄文時代よりもひどい。農耕用の田畑もなければ、外敵を遮断する囲いすらない。誰かが攻め入らなくても、自然に消滅してしまうのが目に見えてわかる。
「それにしても、人気が無いな」
誰かが俺を呼んだとするならば、少なくとも一人はいるはずだ。
人間がいて欲しいという期待と不安を抱えながら、集落の中を彷徨う。
30分ほど、歩いてみたが誰も見つからない。仕方がないので、民家らしき建物に入ることにした。
ナイフに手をかけながら、最大限の警戒をして、民家に入る。
そこには、数人の人間が倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
大声をかけ、呼びかけるが返事がない。全ての人間の脈を測るが全く感じることができなかった。
というか、皆、体が乾ききり、ミイラのようになっていた。
「死んでいる、のか?」
死体の状況や、ここの環境から、なんとなく死因は見当がついた。
栄養失調だ。
田畑すらないこの集落では、飢餓に苦しむのは当たり前だ。予測だが、この人気の無さは、飢餓で人が死んでしまっているか、生きていても苦しくて動けないのかのどちらかだろう。
死んでいては、どうすることも出来ないので、部屋を後にする。
部屋を出て、茫洋に広がる荒野を見つめた。 囲いが無い集落では、地平線までくっきりと見えた。
その中に一つ、人影のようなものが見えた気がした。
自分の考えに疑いを持ちつつも、一縷の望みをかけて、人影に向かい走った。
「ぜえ、ぜえ」
人影までは思った以上に距離があり、およそ400メートルほどを全力疾走した。
本ばっかりを読んで、運動をあまりしなかった弊害だろうか、息切れが治らない。
なんとかたどり着いたその人影は、紛れもなく人間だった。
腰ほどまでに伸びた、長い金髪をもつ少女だった。
「おい、おい、大丈夫か?」
「………………っ!」
「おっ、息がある。これなら助かるかもしれない」
折れそうなほど、儚く、華奢な体を慎重に抱え上げ、お姫様抱っこの形で持ち上げる。
まだ、息を切らしてはいるが、無理やり肺と心臓に命令を下し、もう一度走る。
はぁはぁと息を切らし、200メートルほど進むと、突然妙な呻き声が聞こえた。
声の主が気になり、振り返ると俺は絶句してしまった。
「何だ、これは?」
日本どころか世界にもいないであろう、未知の生物。
4本足で睨みつけるその姿は狼を彷彿とさせるが、似ても似つかぬ異形の存在だ。
「こいつ、まさか俺を狙ってるのか?」
そう一言を漏らした瞬間、猛スピードで襲撃してきた。
「やばっ………………」
「ボォーーー」
刹那のうちに、異形の存在は炎に包まれた。
俺に抱えられていた少女が、手を伸ばし何かをしていた。その手には円形の魔法陣のようなものが浮かんでいる。
「お前、一体何を………?」
少女は意識を失っていた。
「おい、おいっ、おいっ!」
起きた事象を瞬間的に忘れることを決断し、自分の部屋へ全速力で駆け出した。